コーヒーで旅する日本/関東編|コーヒーへの熱き思いで叶えた焙煎士の夢。街の豆屋「maruca coffee」が手がける“いつもの一杯”

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。店主や店長たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

店は梅島駅から綾瀬方面に歩いて5分ほど

第10回は東京都足立区にある「maruca coffee(マルカ コーヒー)」。梅島の駅からほど近い、街の豆屋として親しまれるロースタリーだ。店主の加藤さんは元公務員で、40歳代で焙煎士になるという夢を叶えた。軽井沢の名店で出合ったスペシャルティコーヒーに衝撃を受け、​​猪突猛進に突き進んだコーヒー人生。開業前には「富士珈機」に勤め、多くのカフェ店主たちと出合い、母のような存在で見守っていた歴史も。そんな彼女の開業までのエピソードを見てみよう。

店主兼焙煎士の加藤昌江さん

Profile|加藤昌江(かとう・まさえ)
1971年(昭和46年)、東京都生まれ。長年、区役所職員として勤め、軽井沢で飲んだ「丸山珈琲」のスペシャルティコーヒーに感激し、カフェ開業を決意。それからはカフェや喫茶店に通い、独学でコーヒーを勉強。40代で公務員を辞め、「富士珈機」でセミナーのアシスタントとして活躍しながら、焙煎の技術や知識を一気に高めた。「maruca coffee」は「富士珈機」在職中の2016年に開業し、週末だけの営業を行う。2018年4月に「富士珈機」を退職し、本格的な営業をスタートさせた。

梅島の一角に佇む小さな夢のロースター

【写真】加藤さんの地元・梅島で開業。常連が多く、みな“いつもの”豆を求めて訪れる

区役所に勤めていた加藤さんが、コーヒーにハマるきっかけとなったのは軽井沢にある「丸山珈琲」。加藤さんがはじめて店を訪れたのが30歳のころ、今から約24年前だ。当時はスペシャルティコーヒーの店は少なく、存在自体があまり知られていない時代で、加藤さんもしかり。

「『丸山珈琲』のコーヒーは、今まで飲んだコーヒーとは比べものにならないほどおいしくて。はじめてのスペシャルティコーヒーに衝撃を受けました。店の雰囲気もよくて、フレンチプレスを使った抽出や店奥では豆の焙煎をしていたり。当時はコーヒーについてなにも知らなかったので、それらのことがすごく新鮮でした。特に店主の丸山さんが焙煎する様子に興味津々で、もう食いつくように見ていましたよ。その瞬間ですかね、『コーヒー屋をやりたい!』って思ったのは」

ブラジルやグアテマラなど定番が多く、迷わず選べるラインナップに

「丸山珈琲」との出合いをきっかけに、加藤さんのコーヒー人生が始まった。それからというもの、ご主人にも「いつかコーヒー屋をやるから!」と宣言するほどコーヒー熱は沸々と湧き上がる。とはいえ、その時点では思いつきではあるのも事実。少し時間をかけようと冷静に考えた加藤さんは、まず独学でのコーヒーの勉強、カフェや喫茶店を探しては通うなど、あらためてコーヒーと向き合う時間をつくった。

豆の見極め方についても「富士珈機」で培った技が生きる

「開業への“熱があるうちに”と思って、いろんなお店に通いました。当時はスペシャルティコーヒーのお店が少なくて、都内で探すのは大変でした。そんなときは名古屋や神戸など全国各地どこにでも行っていました。私は猪突猛進な性格なので、コーヒーを飲んで、お店の雰囲気や気になった部分を取材ノートのようなものにメモしたり、豆を買って空のバッグをいっぱいにして帰ったり、とにかく行動あるのみとできることをやっていましたね。気づけば約10年、それでも『コーヒー屋をやりたい』という思いは変わらず、あらためて開業を志すようになりました」

店では豆売りがメイン。平日は朝営業(7時40分~9時)も行う

41歳になって公務員を辞め、本格的にコーヒーへの道を進みはじめた。夢を追うため安定を捨てる決断は勇気がいることだが、自身の強い思いに加え、ご主人が賛同してくれたことも大きかったと語る加藤さん。

「私の変わらないコーヒーへの思いを感じて、主人もいいよと言ってくれて、それがとても支えになりましたね。そのタイミングで『富士珈機』のセミナーに通いはじめたんです。独学である程度の知識は得られますけど、『丸山珈琲』で見た焙煎に憧れていて、やはり豆を焼く技術を高めたかったので。それからセミナーや焙煎機の『開放デー』に約1年ほど通い続け、次はカフェや喫茶店で経験を積もうと考えたんです。でもなかなか焙煎までさせてくれるお店が見つからなかったんですが、そんなときに『富士珈機』のスタッフさんから、働いてみませんか?という、まさかのお誘いが。それから『富士珈機』で働けることになったんですよ」

ハンドピックは生豆の状態、焙煎後にも行い、不良豆を徹底的に排除

「富士珈機」では自身も通っていたセミナーで、アシスタントとして活躍すること約5年。焙煎に関する知識、技術を含め、ガッツリと高めていった。ちなみに加藤さんが退職前に後継者として入ったのが「トイロ珈琲店」の中村さんだったというのも、つながりを感じるエピソードだ。

「『富士珈機』ではアシスタントとして講師の話を聞いて知識は高まるし、サンプル用の豆を焼くので“豆を焼かない日はない”日々で技術はかなり鍛えられましたね。また連日セミナーの生徒さんが淹れたコーヒーを飲むんですが、味のよし悪しがより明確にわかるように。なかには失敗してしまったものもあって、その焙煎方法まで確認して反面教師として技術の糧にしていました。あらゆる面ですごく勉強になった期間でした。『富士珈機』さまさまですね」

豆へのストレスを避け、甘く風味立つ焼きあがりに

「富士珈機」勤務中に開業。2018年に会社を退職し、コーヒー屋の営業を本格的にスタートさせた

「maruca coffee」を開業したのは2016年。当初はカウンターとイスを並べただけの簡易的なお店だったが、2018年に「富士珈機」を退職すると焙煎機を入れるなど、徐々に街の豆屋として本格的な営業を開始させていった。

機械の仕組みから焼き方まで精通した「フジローヤル」を使用

ドリッパーは「CAFEC」の有田焼扇形。濾過層が深く、スムーズな抽出ができる

焙煎機は前職で使い慣れた「フジローヤル 3キロ半熱風式」を導入。焙煎度は豆ごとの個性を活かすため、中浅煎り〜深煎りの幅で焼いている。そして焙煎に関して重視しているのは豆本来の甘さを出すこと。

「生豆に急激なストレスを与えないために、ゆっくり丁寧に火を入れていきます。良質な豆を仕入れても、焦がしてしまうと、せっかくの甘さや風味が台無しになってしまうので。豆によっては高火力で焼くこともあるんですけど、どの程度の火力でいくかはしっかりと見極めないといけない。焦げる手前の微妙な火加減は難しいけど、どこまで焼くか絶妙なタイミングがあって、そこは焙煎士としての技術が問われるものだと思います。そんなときに『富士珈機』で学んだことが活かせているのかなと思ったり。『富士珈機』あっての“maruca”なんだなと実感します」

「ホットコーヒー」(480円)。柑橘系の甘さとまろやかな酸味を感じるブルンジ産の豆を注文

「豆の種類に関しては“街の豆屋”という意識のもと、日常的に飲めるものを用意するようにしています。エチオピアやブラジル、グアテマラ、コロンビア、少し珍しいものだとブルンジなど。基本は定番でそろえるようにして、たまに変わり種を入れるようなラインナップです。常連さんも“いつもの”があったほうが迷わず選べるという利点もありますよね。生豆はもちろん上質なものをしっかり選んで、ハンドピックでさらに選定。ただ風味を強く出すのではなく、おかわりしたいくらいのクリアでなめらかな飲み口に仕上げることを心がけています」

中浅煎り〜深煎りまでそれぞれ2〜3種類ほどを用意。すべてテイクアウトOK

名店のスペシャルティコーヒーで感じたおいしさを、これからも“街の豆屋”として多くの人々に届けていく「maruca coffee」。加藤さんは一見朗らかな雰囲気だが、コーヒー愛に溢れた人物。店内では軽くイートインもできるので、お試しでコーヒーを楽しんだり、豆選びをするとともに、加藤さんとの会話もぜひ満喫してほしい。

アーティストとコラボしたミニ展示・販売会を定期的に行う。詳細は公式Instagramを要チェック

加藤さんレコメンドのコーヒーショップは「COFFEA EXLIBRIS」

「東京都世田谷区にある『COFFEA EXLIBRIS(コフィアエクスリブリス)』。店主の太田原さんとは20年来の付き合いで、開業前にはさまざまなアドバイスをいただいた恩人です。『丸山珈琲』に勤めたあと、開業されたお店でテイクアウト専門店。太田原さんが名店で培った技術を一杯のコーヒーに表現されています。太田原さんのコーヒー愛に溢れまくったお話もおもしろいんです。普段は東府中の本店で焙煎をされているので、気になる方はこちらにもぜひ!」(加藤さん)

【「maruca coffee」のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 3キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(CAFEC)
●焙煎度合い/中浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり(460円〜)
●豆の販売/100グラム880円〜

取材・文/GAKU(のららいと)
撮影/大野博之(FAKE.)

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