コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーは流れる日常に刻む一拍の読点。「点珈琲店」が追求する深煎り・ネルドリップの醍醐味
東京ウォーカー(全国版)
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
関西編の第104回は、三重県名張市の「点珈琲店」。奈良と県境を接する名張市は、山間の景勝地が点在し、関西圏からのおでかけ先のひとつとして知られている。のどかな田園風景が広がるこの町で、2018年にオープンした「点珈琲店」。店主の森岡真太さんは、深煎り・ネルドリップの味わいに触れたのを機に、独学で試行錯誤を重ね、開店後も自身が目指すコーヒーを追求している。「深いコクの中から香りや甘みが浮き上がってくる、そんな味の広がり方をイメージしています」と、今も進化を続けている森岡さんが目指す、深煎り・ネルドリップの醍醐味とは。
Profile|森岡真太(もりおか・しんた)
1986年(昭和61年)、兵庫県生まれ。大学卒業後、大阪の映画館に勤めていた頃に、深煎り・ネルドリップコーヒーの醍醐味を知り、自宅で焙煎を始める。その後、全国各地のネルドリップの名店を巡り、独学でコーヒーの知識、技術を吸収。2017年に、夫婦で名張市赤目に移住。近隣のコーヒーショップでの修業を経て、2018年、元郵便局の建物を改装して「点珈琲店」をオープン。開店以来、焙煎やブレンドに試行錯誤を続け、理想の味の追求を続けている。
転機をもたらした深煎り・ネルドリップとの出合い
奈良県境と接する名張市の最西端。名勝・赤目四十八瀧で知られる赤目町。駅前とはいえ、のどかな田園風景が広がり、木造の民家が立ち並ぶなかで、「点珈琲店」の黄色い建物はひときわ目を引く。元郵便局の跡を活かした空間は、どこか懐かしい往時の面影を残している。「40年くらい使われた建物で、移転のために空いた時期と、開店を考えていたタイミングがちょうど重なったんです」とは店主の森岡さん。奥行きを広くとったカウンターで、じっくりとネルに湯を注ぐ姿も、この空間に似つかわしい。コーヒーを待つ間に、時間の流れが緩んでいくかのような感覚になる。
阪神間で育った森岡さんが、奥様の実家である赤目に移ってきたのは、開店の1年ほど前のこと。以前は、大阪の映画館に勤めていたが、「1年ほどで、会社員は向いてないなと感じて、自営業の道を考えた時に、コーヒーならいけそうと。当時は気軽に考えていました」と振り返る。転身を思いついたきっかけとなったのは、本連載にも登場した西宮の三ツ豆珈琲との出会い。「初めてコーヒーをおいしいと感じたのが、ここで飲んだ深煎り・ネルドリップの一杯。トロっとした濃いめの味が、自分の好みに合っていたんでしょうね。それまでペーパードリップしか知らなくて、あまりおいしいと思わなかったので」と森岡さん。当時、三ツ豆珈琲では手回し焙煎機を使っていたことから、自身も同じものを購入し、自宅で焙煎を始めたのが今にいたる原点。
以来、ネルドリップが評判の店にも方々訪ねた。当時は西宮にあった廣屋珈琲店、昨年惜しくも店を閉じた大阪の老舗・ばん珈琲店、同じく大阪から東京に移転した星霜珈琲店といった、関西の名店に加え、東京の珈琲屋うず、草枕、福岡のレジェンド店・珈琲美美など遠方にも足を運んだ。「そもそも深煎り・ネルドリップの店が少なく、知らないことが多かったので、どんなことでもいいので、とにかく知りたいという思いで、あちこち巡りました。その中で、最も影響を受けたのが、東京・青山の大坊珈琲店の店主・大坊勝治さん。店はすでになくなっていましたが、やはりこの世界では伝説の人なので、イベントに参加したり、書籍を読んだりして得るものが大きかった」。そう話す森岡さんが、店で使う手回し焙煎機も、富士珈機が限定生産で復刻した大坊珈琲店モデルの機体だ。
深みから浮き上がるような味の広がりを目指して
移住後は、修業を兼ねて名張や伊賀のコーヒー店に勤めながら、開店を視野に自身が理想とするコーヒーの追求を続けた。「店を始めることは決めていましたが、場所はあまりこだわらず、知らない土地もかえっていいかなと思っていました。何の経験もないので、いきなり都心のエリアではハードルが高い、田舎のほうがじっくりできるかなと」と森岡さん。物件を探す中で折よく出合った郵便局の跡を活かして、2018年に「点珈琲店」としてスタートした。
とはいえ、「これまで特別、誰かに教えを乞うたというのはなくて、抽出も完全に独学。開店後も試行錯誤が続いています」と森岡さん。果たして、開店当初に店の顔となるブレンド作りに取り組んだが、イメージする円みのある味わいと香味の広がりを出すのに苦戦。まずはシングルオリジンのみで、軽め・濃いめと抽出で濃度を変えて提案する形で始めた。その後もブレンドの試作は続き、納得できる味にたどり着いたのは、およそ2年を経た頃だった。
現在の定番ブレンドは、軽味と円味の二枚看板。中深煎りのエチオピアとグアテマラを合わせた軽味は、豆15グラムで150㏄。深煎りのブラジル、コロンビア、ハラール・モカを合わせた円味は豆25グラムで100㏄と、異なる豆の量・濃度で抽出する。抽出時の湯温も82℃とやや低め。ゆっくりと豆の旨味を引き出す。中でも、森岡さんの思い入れ深い円味ブレンドは、目指す味わいの表現がユニークだ。「イメージは、水の中に飛び込んだ時に、いったん深く沈んでから、ふわっと浮いてくるような感覚、深いコクの中から香りや甘味が浮き上がってくる、そんな味の広がり方が理想です」。ひと口飲めば、滑らかな口当たりと共に、トロりとした濃密な香味に満たされるが、余韻には徐々に香ばしい甘味が冴えてくる。芳醇にして軽快な飲み心地が印象的だ。「コロンビアのボディ感、ブラジルの苦味、ハラールの華やぎの調和が円味ブレンドの醍醐味。もっと味に円みを出したいし、店の味として磨きたい」と、森岡さんにとっては今も進化の途上だ。
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