<福岡うどん愛>やわらかなダシが絡む手打ち平麺をツルッと頂く「恵味うどん」
九州ウォーカー
西鉄天神大牟田線と並んで南北に走る高宮通り沿い、平尾1丁目交差点のすぐそばに建つ「恵味うどん」(福岡市中央区薬院)は、1969年創業。店主・一ノ宮聡さんの叔母にあたる梶原恵美さんが、喫茶「エミ」からうどん屋に鞍替えして来年で50年になる。
高校卒業後、一ノ宮さんは麺作りを学ぶため、讃岐うどんの大手「かな泉」へ。2年の修業を経て福岡へ戻り、恵美さんと店を切り盛りしようとしたが、「当時はまだ、福岡では手打ちうどんに馴染みがなく、お昼休みに来られて、“なんで先に湯がいとかんと?”ってよく怒られていました」。その後も茹で置きせず、紆余曲折しながら、茹で時間を短くするために、麺は徐々に細くなってきた。現在、開店前に100人分を手打ちする麺は細めで平らになっている。
ダシが乗りやすいことに気付き、細めの平麺に


一番人気なのが、元々はまかないだったという「とりおろしうどん」(630円)。つけだれの中に、大根おろし、生姜、ゴマ、刻み海苔、ネギと、煮た鶏肉がゴロゴロっと入り、甘めのコクでさっぱりした麺をスルスルっと頂ける。また、お客さんからの要望でシェアできるように天ぷらを別皿にした「ごぼう天うどん」(550円)もおすすめ。ゴボウはあらかじめダシで炊き、下味を付けてから揚げるので、ほっこりした食感とともに優しい風味が楽しめると好評だ。

口当たりのいい、オリジナルの麺が好評の一ノ宮さんだが、今の形にするのはだいぶ前から考えていたそうだ。「平たくしているのには理由があります。湯がいた際、横の面が水分を吸って膨張しようとするので、広い上下の面がへこむんです。そこに、ダシが乗りやすくなるので、一緒にツルッと口に入る。それに、吸う時に上唇と舌の先が重なる部分は意外に狭く、それより大きな麺は太いと感じるので、今のサイズに落ち着きました」。
すっきりした喉越しの麺に合うよう、ダシもシンプルに天然羅臼昆布、ウルメ、サバのみを使い、角の無い丸い味わいを心がけている。お客さんには、1杯ずつ、味見しながら提供しており、かえしも50年ずっと継ぎ足したもので、“そういう部分はケチらない”と恵美さんから受け継いでいる。
生まれ育った場所で手打ちにこだわり続けたい

お客さんは地元の人が多く、この場所で生まれ育った一ノ宮さんは、薬院の人々への思い入れもひと際強い。「年配の方から小さなお子さんまで、それぞれの好みがあるんです。ごぼう天うどんの天ぷらを別皿に、という要望をもらったら、多少大変になっても叔母さんは対応していました。そういう部分にも応えながら、うどんのレベルを上げていきたいです」。

時代とともにお客さんの層も変わり、時間の無い中での食事から、食べることを楽しもうとする人も増えた。写真を撮るなんて、以前は考えられなかったそうで、「よりどりうどん」(650円)は、よく撮影されるため、どんどん具が増えて、現在のボリュームにまでなってしまった。メニューにある“少々お時間がかかります”も、いつの間にか自然に受け入れられている。
「今でもお客さんが何を求めているか、ちゃんと理解したいし、だからお店ではいつも緊張してドキドキします。手打ちうどんって、作る職人の人柄が出ます。今は、製麺機でもおいしく出来ますが、最終的にお客さんに提供するのは人なので、そこで変わってくるはずです」と一ノ宮さん。とことん手打ちにこだわる、熱い思いがたっぷり詰まったうどんをぜひ味わってほしい。
取材・文=井上幹彦(シーアール)、撮影=高尾正秀
井上幹彦
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