品質で勝負をかけたい。宮城県のベンチャー酒蔵「一ノ蔵」の挑戦
東京ウォーカー(全国版)

一ノ蔵は、宮城県のベンチャー企業の先駆けだ。創業は1973(昭和48)年。当時、国内の日本酒出荷量はピークを迎える。一方、大手日本酒メーカーが安い酒を生産し始め、小さな酒蔵の経営が苦しくなっていった時期でもあった。
大手メーカーは酒販店に、何本買えばもう一本おまけに付けますよ、ということをやる。得意先もどんどん大手メーカーの仕入れを増やした。そんな状況のなか「このままではやっていけない!」と声をあげたのが一ノ蔵の創業者たち、当時20~30代の若手蔵元だった。「新しい会社をつくろう。品質で勝負して、いい酒をつくろう」と。
10の酒蔵に声をかけて、残った4つの蔵が一ノ蔵を創業した。仙台の浅見商店、塩竈(しおがま)の勝来(かちき)酒造、矢本(現・東松島市)の桜井酒造店、松山(現・大崎市)の松本酒造店。
どの蔵も地域に根付いた老舗だったが、自らの蔵を閉じてそれぞれの商権を持ち寄り、新しい会社に勝負をかけた。社名は、地元の河北新報社で公募。宮城県の人たちに愛着を持ってほしいという想いからだ。
「『一ノ蔵の一は、オンリーワンのワンだ。ナンバーワンよりオンリーワンだと言い出したのは、あのヒット曲より自分たちのほうが先なんだ』というのが、父のお決まりのセリフでした」と笑うのは、代表取締役社長の鈴木整(ひとし)さん。4人の創業者たちの子どもの世代、いわば第2世代のひとりだ。

「起業したはいいものの、売れない。3、4年は役員報酬が出ず、代々の土地や建物を売ってつないだと父は言っていました」。
仙台の繁華街を全社員で「ローラー営業」したこともあったという。そのかいあってか、徐々に売り上げは伸びていく。
そんななか、一ノ蔵の名を全国に知らしめた『一ノ蔵 無鑑査(むかんさ)』が生まれた。当時日本酒は、アルコール度数や酒質によって一級、二級を定めるという級別制度がとられていた。しかしこの基準は、品質に紐づいたものではなかった。
「父も、酒税の矛盾について話すことがずいぶん多かった。東京の一級酒より、地方の二級酒の方がうまいのはおかしいって」。
この想いから誕生したのが『一ノ蔵 無鑑査』だった。ラベルには、級を定める酒税の矛盾や酒に対する想いを書き連ね、「この酒を最後に鑑定するのはお客さまご自身です」と締めくくった。これが受けた。1977(昭和52)~78(昭和53)年のこと。地酒ブームの追い風も受け、一ノ蔵の名前は全国に広がった。
「日本酒の近代史の本を読んでいると、一ノ蔵の名前が2回登場するんです。1回目は、『無鑑査時代』を切り拓いたとして。もう1回は『発泡清酒』をつくった酒蔵としてです」。
歴史を動かす「革新」を20年かけて「伝統」にする
今でこそ一般的になってきたが、シャンパンのように泡があがる発泡タイプの日本酒も一ノ蔵が時代の先陣を切った。契機は現社長の父(鈴木和郎)のヨーロッパ旅行。ドイツでまだ炭酸が残っている生ワインをのみ、ベルギーでまるでワインのようなビールをのんだことだったという。
それまでの酒に対する概念が崩れた。じゃあ、ワインのような日本酒もつくれるのではないか。ワインやビールの製法を取り入れ、炭酸を加えずに発泡する日本酒をつくることに成功した。それが『一ノ蔵発泡清酒 すず音』で、2018年で発売20周年を迎えた。
「仕込み樽を木からホーローにしたのだって革新ですし、そもそも現在のような大きな樽を使うのだって、伊丹の酒蔵の革新でした。毎日工夫し続けること。それが10年20年続けば伝統になるんです」。

そんな想いで革新を続けた一ノ蔵が今、力を入れているのが「純米酒」だ。「さまざまなお酒をつくり続けるなかで、原点である純米酒を、お客さまにおすすめするのを忘れているのではないか、自分たちの自信の源をしっかり売っていこうという気持ちで2018年『絶対純米酒宣言』を打ち出しました」。宮城は純米酒の県だ。純米酒の出荷割合は全国では約10パーセント。宮城県は約37パーセントと突出して高い。
「純米酒は、ハレの日の酒ではありません。食事と一緒に味わう日常の酒です。暮らしの中で味わえる酒がしっかりした味わいであればあるほど、将来的に日本酒の消費量につながるのではないかと考えています」と鈴木社長は言う。
「『絶対純米酒宣言』の『絶対』は絶対評価の『絶対』です。この純米酒が、お客さまの中で基準となるような酒になればと思います」
総杜氏、門脇豊彦さんもこの酒に力を入れている。
「純米酒は日本酒の原点です。食べ物との相性がよく、クリアでキレがよい日本酒らしい日本酒にしていきたい。この酒をのむと一ノ蔵だなとわかるような、素直で若々しい味わいを大切にしていきたいと考えています」。
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