コーヒーで旅する日本/九州編|“好き”なことをただただ真摯に。コーヒースタンドの先駆け「ÉCRU.」

2022年3月2日 16:16更新

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

昭和通りから一本入った路地に面した立地。昼夜問わず、メニューは同じだ(C)KADOKAWA

九州編の第3回は、11年前からスタンディングで営む「ÉCRU.」(エクリュ)を紹介。コーヒーと自然派ワインを軸に、幅広い年代に愛されるショップだ。店主の原田達也さんのブレない芯に垣間見える、個性の大切さにも注目したい。

(C)KADOKAWA

Profile|原田達也
1976(昭和51)年、福岡県福岡市生まれ。20歳から飲食業一筋で、20代半ばまではオーセンティックバーでバーテンダーの修業を積む。その後、カジュアルなダイニングバーなどを経て、糸島市のカフェにて7年間勤務。その後、独立資金を貯める目的もあり、営業職を経験。2010年、「ÉCRU.」をオープン。

約3坪の小さなスペースならではの居心地の良さ

基本的に原田さん一人で店に立つため、目が行き届く広さを重視(C)KADOKAWA

フランス語で「自然のまま」「素直なまま」という意味を持つ「ÉCRU.」。店に入って左手に店主の原田達也さんが立つカウンター、右手にスタンディングのイートインスペースというシンプルな造りで、広さは約3坪と狭小だ。ただ、余計なものが一切ない洗練された空間で、流れる時間もどこかゆっくりと感じられるのは、この店の大きな魅力だろう。

原田さんは20歳のころから飲食の道で生きていくと決めたブレない人。きっかけはバイクに乗ってよく訪れていた糸島市のカフェだった。「25年前の糸島は、今宿から先は舗装されていない砂利道も多かったぐらいなにもなかった。そんな場所に今でも人気の、とあるカフェだけがあったんです。ただ、そこに集う大人たちは良い音楽を聞きながら、ゆったりと自由な時間を過ごしていて、20代そこそこの僕から見たら、めちゃくちゃかっこ良かった。将来は僕もこんな店を持ちたいと思いましたね」と原田さんは当時を振り返る。

エスプレッソマシンでの抽出のほか、フレンチプレス(550円)も用意(C)KADOKAWA

すぐに勤めていた美容室を辞め、オーセンティックバーでバーテンダーとして働き始めた。最初から憧れの店を選ばなかったのは、まず飲食業の基礎的な知識や技術を叩き込むためだったそう。そういったエピソードからも、原田さんの真面目な一面が見て取れる。

さまざまなお酒や食べ物、そして人に触れ、それを自身の経験値という引き出しに入れた6年間。その後、ダイニングバーを経て、糸島市に移住。大好きな店で”自身が一生続けていきたいこと=自分が好きなこと”を改めて見直す約7年間を過ごした。

コーヒーと自然派ワインのみというスタイルを一貫(C)KADOKAWA

原田さんが独立にあたり、柱に据えると決めたのは、大好きだったコーヒーとワイン。「自分自身の日常に当たり前にあるものだったら、自分に嘘をつくことなくやっていけると思ったんです。僕は自分が好きじゃないことを人に勧めたりするのはできない性格。だから11年間『ÉCRU.』も変わらないスタイルで続けてきました」と原田さんは話す。

コーヒーの裏側に流れる親友との物語

【写真】アメリカーノでもキャラメル色のクレマが浮かぶ。このクレマがコーヒーの旨味、甘味が凝縮している証だ(C)KADOKAWA

コーヒーの抽出はエスプレッソマシンがメイン。その理由を原田さんはこう話す。「エスプレッソマシンはハンドドリップやエアロプレスなどいくつかある抽出方法の中で、乳化現象が起こる淹れ方です。コーヒー粉が持っている成分を余すことなく引き出すことができ、旨味や甘味のエキスの凝縮度合いが違うと僕は思っています」

メニューはエスプレッソ(350円〜)、アメリカーノ(550円)、ラテ(600円)などシンプルで、「チョコレート入りのモカ(650円)などアレンジドリンクは、できれば出したくないのが本音」とまで話すように、できるだけコーヒー豆本来の味わいを楽しめるドリンクをおすすめしている。

「イチオシは断然ホットのアメリカーノです。さらに言うと、より甘味を強く感じられる少し温度が下がった状態がベストな味わい」と原田さん。

店で使用するコーヒー豆は常時1種のみ(C)KADOKAWA

コーヒー豆は開業以来変わらず、糸島市にあるCOFFEE UNIDOS(TanaCafe+Coffee Roaster)から仕入れている。実は原田さんとCOFFEE UNIDOSのロースター田中さんはお互い独立する前からの友人で、原田さんは店を開いたら絶対、田中さんが焙煎した豆を使うと心に決めていたそう。「田中くんは生産国に行って直接生豆を仕入れると独立前から断言していました。だから僕は『田中くんが焙煎した豆をずっと使い続けたいから、僕の好みにあった豆を仕入れてほしい』と伝えて。それが11年間変わらず続いています。いわば田中くんは一生付き合っていく戦友のような存在」と笑う。

2021年12月現在、使用しているのはエルサルバドル ラスラデラス農園のハニープロセス(C)KADOKAWA

そんな原田さんがコーヒーに求める味わいは、チョコレートやキャラメルを思わせる甘味と深いコク、そしてしっかりとしたボディ感。ゆえに焙煎度合いは中深煎りが基本で、際立った個性というより、穏やかな余韻が長く続く印象。毎日、どんなシーンで飲んでも抵抗のないオールラウンダーなテイストだ。

「コーヒーも農産物なので、その年々で味も風味も異なります。なので、産地を限定することはありません。現在はエルサルバドルですが、時にはニカラグアを使ったりもします。だからこそ、僕の好みを理解してくれている田中くんの存在は大きい」と原田さんは話す。

「田中くんはピッキングも丁寧で豆が美しい。欠点豆が極めて少ないため、雑味がないのも魅力」と原田さん(C)KADOKAWA


自然派ワインに魅せられて

コーヒーを入口に10代で来店し、成人して初めての自然派ワインを「ÉCRU.」で飲むという人も多いそう(C)KADOKAWA

「ÉCRU.」のもう一つの柱が自然派ワイン。自身も大のワイン好きである原田さんがセレクトした自然派ワインは、セラーに300本ほどを用意。そのうち7割がフランス産で、残りがドイツやイタリアなどヨーロッパのものが主。

本日のラインナップから選べるグラスワイン(900円〜)をメインに、ボトルのオーダーも可能。土壌や植物、生物に優しい農法の哲学で育てられたブドウから作るビオディナミワインなど、作り手の思いやこだわりが味わいに反映されている銘柄ばかりだ。

原田さんは「実は幾度となくフードも出していたのですが、その道のプロフェッショナルが来店されたときに自信を持ってお出しできるかと問われると、胸を張って『はい』とは言えない。そこもやっぱり自分に嘘がつけない性格が大きく関係していますね。ですから、フードとペアリングはせず、味わいや香り、余韻に個性があるワインだけで楽しめるテイストを選ぶようにしています。フードがないのは飲食店としては珍しいでしょうが、そんなスタイルにご満足いただけるお客様に愛されて、今があります」と11年間を振り返る。

小さな店舗だが、全面ガラス張りの店内から灯りが漏れ、存在感がある(C)KADOKAWA

今後はどのような展開を考えているのか、最後にたずねてみた。

「僕にとってコーヒーも自然派ワインも、日常に当たり前にあるもの。そして良いものには必ず理由がある。年を重ねるごとにその思いを強くしています。数年後、十年後のことは正直どうなるかわかりませんが、僕は自分自身が感じたそんなことをひたすらお客様に伝えていきたい。店に立って日々お客様と接してきた年月を振り返ってみると、そうやって良いものに触れた経験をされた方々は、みんな人生が豊かになっている気がするんです。大それたことはできませんが、だれかの人生観を少しでも変えるきっかけになり続けられたらうれしいですね」と笑顔で話してくれた。

原田さんレコメンドのコーヒーショップは「MOMENT COFFEE」

次回、紹介するのは福岡市・舞鶴の「MOMENT COFFEE」。
「お互い店が近くということもあり、交友があります。店主の千葉くんは、すごく研究熱心で、コーヒーへのこだわりも強い。そういった姿勢は見習いたいといつも思っています」(原田さん)

【ÉCRU.のコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(焙煎はCOFFEE UNIDOS)
●抽出/エスプレッソマシン(LA MARZOCCO Linea-2)
●焙煎度合い/中深煎り
●テイクアウト/あり(550円〜)
●豆の販売/シングルオリジン1種、130グラム1250円〜

取材・文=諫山力(Knot)
撮影=大野博之(FAKE.)


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