コーヒーで旅する日本/九州編|確かな技術、知識を持っているからこそ発信できる、飾らないコーヒーライフ。「amillcoffee」

2022年4月25日 16:11更新

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。今回は九州を少し離れて、山口県のロースタリーカフェが登場。

飾らない、町のコーヒーショップ「amillcoffee」

九州編の第22回は、山口エリアを初取材。山口県・周南市に店を構える「amillcoffee」に足を運んだ。第21回の KUROMON COFFEE の八田さんと同じく、東京のアマメリアエスプレッソでバリスタの経験を積んだ酒井直樹さん、アンナさん夫妻が営むロースタリーカフェで、下町感が漂う周南市政所地区に2021年4月にオープンしたばかり。最寄りのJR新南陽駅は1時間に1、2本程度の電車が走るのみと、町の規模としては決して大きくはない。この町で開業を決めた理由、表現したいコーヒーの味わい、今後どんな店を目指していきたいかなどを聞いた。

Profile|酒井直樹さん(右)、アンナさん(左)
直樹さん/1987(昭和62)年、山口県下松市生まれ。大学卒業後、大阪で食品関係の会社に就職。コーヒーを商材の一つに扱っていたことから、コーヒーに興味を抱く。赴任先の沖縄県で自家焙煎店を巡り、サンプルロースターを購入するなど、ますますコーヒーの世界にのめり込む。コーヒー業界への転職を決意し、会社を退職。コーヒーの先端の知識、技術を身につけるため上京。インターネットで注文したコーヒーに感銘を受けていたことから、アマメリアエスプレッソの門を叩く。同店でおよそ6年勤務。ワタルカップテイスターズチャンピオンシップで2015年、2018年、2019年と3度優勝。

アンナさん/1988(昭和63)年、東京都墨田区育ち。学生時代、イタリアンバールなどのアルバイトを入口にコーヒーの世界へ。都内のコーヒーショップでアルバイトを掛け持ちしながら、幅広くコーヒーの知識を身につける。直樹さんが働き始める約1カ月前にアマメリアエスプレッソのスタッフに。2015年、東京の清澄白河に日本1号店としてオープンしたブルーボトルコーヒーのオープニングスタッフとなり、数年間はアマメリアエスプレッソ、ブルーボトルコーヒーの両店で働きながら、抽出の技術を磨く。2016年、アマメリアエスプレッソのスタッフとして出場したジャパン ブリューワーズカップで5位入賞。

町に根付く=生活の一部に

車で来店する際は、近くにある共同のまどころ商店街駐車場を利用(無料)

「amillcoffee」を営む酒井直樹さん、アンナさん夫妻は、それぞれにコーヒーのスペシャリストだ。直樹さんはカッピング技術を競う全国大会、ワタルカップテイスターズチャンピオンシップで3度優勝。アンナさんは抽出の国内競技会、ジャパン ブリューワーズカップで全国5位入賞。これらの結果は夫婦ともに高い技術、知識を有する証の一つであり、2人がひたむきにコーヒーと向き合ってきたことは言うまでもない。

直樹さん、アンナさんともに競技会で優秀な成績を残す

そんな2人が山口県周南市を開業地に選んだのは、直樹さんが隣の下松市出身であることが理由の一つ。ただ、当初は山口県内で最も人口が多い下関市などで開業を考えていたそう。直樹さんは「妻とも相談して、僕の地元である山口県で開業することは決めていました。まず、一番栄えている下関市で物件探しを始めたのですが、なかなかしっくりくる出会いがなく、少しずつ東へと選択肢を広げていきました。そこで出会ったのが、現在の場所でした」と話す。

【写真】できるだけシンプルな店にしたことで、下町感あふれる政所地区にもなじむ

周南市政所の町並みを見た瞬間、直感的に「この町だ」と直樹さん、アンナさんそれぞれに感じたそう。「お店を開く前から主人とも話していたのが、町の暮らしに根付くようなコーヒーショップにしようということ。私は東京で生まれ育ったため、周南市の土地勘はまったくなかったのですが、この政所という地区はスーパーマーケット、精肉店、ベーカリーなど、さまざまな商店があり、ここで暮らす方々の生活が自然とイメージできたんです。それに車社会の山口県ですが、政所は町を歩いている人たちも多くて。ここだったら、私たちが目指す店づくりができると思いました」とアンナさん。

スケルトンにするなど、できることは自ら行い、店舗を作り上げた

JR新南陽駅から北へ伸びる、政所地区の目抜き通り沿いに空き物件を見つけ、すぐに開業準備に取り掛かった酒井さん夫妻。気軽にフラッと立ち寄れるように、開放的なファサードとし、カフェスペースも設けた。直感的に選んだ場所だっただけに、当初は不安もあったそうだが、すぐに政所の町で親しまれる存在となり、今では豆購入、カフェ、テイクアウトとさまざまなシーンで利用されるようになった。新南陽高校の通学路沿いにあり、高校生の常連もいるというから、着実に2人が目標としていた“町に根付くコーヒーショップ”になっている印象だ。

何気なく日常にある一杯を目指して

中煎り〜深煎りがメイン。パッケージデザインやメニュー表はアンナさんが自作。豆200グラム以上購入で1ドリンクサービスも

コーヒー豆はブレンド1種、シングルオリジン3、4種を常時用意。生豆は商社から仕入れ、産地の特性を素直に感じられるナチュラル(※1)、ウォッシュド(※2)といった生産処理の豆をセレクトすることが多いと言う。

韓国製の焙煎機、CEROFFEE PRO CRF-1600。焙煎量が増えたため、もう少し容量の大きい焙煎機の導入も検討しているそうだ

焙煎を担当する直樹さんは「毎日飲んでも飽きが来ず、落ち着いて飲んでいただけるよう、中煎り〜深煎りにすることが多いです。妻も私もコーヒーの味わいで重視しているのは、飲みやすさ。個性が際立つ豆ももちろん魅力的ではあるのですが、それよりも、酸味、苦味、甘味のバランスの良さを表現できたら」と話す。

「エスプレッソ系のドリンクよりも、ドリップコーヒーがよく出ます」とアンナさん

抽出をはじめ、店頭で接客を主に担当するアンナさんも同じ考えで、自宅で淹れる際のアドバイスも湯は熱湯よりも少し低温の90度ぐらい、メジャーカップの豆1杯に湯は200グラム程度など、シンプルで端的。競技会で優秀な成績を残しているだけに、独自のロジックも当然持っているが、あえて専門性を排除した提案。こういったスタンスも町に根付き、愛される大きな理由だと感じた。

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