コーヒーで旅する日本/九州編|新進のロースターながら着実に規模を拡大。九州のコーヒーシーンの次世代を担う一店「KUROMON COFFEE」

2022年4月18日 09:00更新

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

大濠公園からほど近い住宅街にある「KUROMON COFFEE」。店は築90年の古民家を改装

九州編の第21回は、福岡市・黒門にある「KUROMON COFFEE」。多くの名バリスタを輩出している東京のアマメリアエスプレッソで腕を磨いた八田洋輔さんが営む店だ。八田さんは修業先で培った高い抽出技術を持ち、さらに2015年からはロースターとしても日々研鑽を積む。現在は卸先も増え、毎月1トンほどの生豆を焙煎しているというから、その成長ぶりは飛躍的だ。福岡市内の専門学校でエスプレッソマシンによる抽出を専門に教える講師としても活躍する八田さん。2022年5月には、新たに2号店の開業も決まり、今後ますます注目を集めるであろう「KUROMON COFFEE」。バリスタ、ロースター、そして経営者としての八田さんの思考に迫る。

Profile|八田洋輔さん
1983(昭和58)年、宮崎県日向市生まれ。宮崎県内の大学を卒業後、一度は教師の道に進む。人になにかを教えることは自身も好きだったため、教師の道を選んだが、本当にしたいことではないと感じ、退職。その後、福岡へ移住し、役者になる目標を叶えるために上京。さまざまなアルバイトを経験する中、大手カフェチェーンの研修などを通して、コーヒーの世界のおもしろさに開眼。自身でカッピングやラテアートのセミナーに参加するようになり、本格的にコーヒーを学びたいと、東京の武蔵小山にあるアマメリアエスプレッソで働き始める。およそ5年勤務し、退職。福岡に戻り、2015年12月、西新にFOREST MARK ESPRESSOを開業。2017年2月に薬院に移転し、2019年6月、黒門への移転を機に屋号も「KUROMON COFFEE」に改めて、今に至る。

競技会は絶好の勉強の場

アイスのドリップコーヒーにはKalitaウェーブドリッパーを採用

さまざまな仕事を経験し、その中からコーヒーの道を選んだという人は珍しくないし、そういった人は実際に多い。「KUROMON COFFEE」のオーナー・ロースターの八田さんも同様に、教師を経験した後、福岡で役者を志し、東京では自身で劇団を立ち上げるなど、一風変わった経歴を歩む中で、コーヒーを一生の仕事に選んだ一人だ。

2015年12月に福岡市西部の副都心、西新でFOREST MARK ESPRESSOを開業。わずか1年ほどで一度店を閉め、薬院に移転。さらにその2年後に、大濠公園からほど近い黒門に移転し、「KUROMON COFFEE」としてリスタートした。移転を繰り返したのは、西新の店舗がコーヒーよりもスイーツなどのオーダーが増え、カフェ色が強くなったこと、さらにとある縁から薬院に新たにできる雑貨店の中に店舗を構える機会に恵まれたことなど、さまざまな理由があるが、八田さんの中で一貫していたのは、「自家焙煎したコーヒー豆の販売だけで成り立つ店に」という考え。

エスプレッソを使ったメニューはエスプレッソトニック(560円)、エスプレッソバナナシェイク(620円)など多彩

もともと、修業をした東京のアマメリアエスプレッソではバリスタとして店に立っていた八田さん。当時、焙煎をする機会はほぼなかったものの、すぐそばで焙煎のロジック、プロセスなどに触れてきたことは大きかった。

独立した時から自家焙煎に着手した八田さんは、競技会などにも積極的に参加。何事も突き詰めるのが好きな性格から、日々研究を重ね、焙煎士としての腕を着実に磨いた。八田さんは「競技会にエントリーするからには、いい結果を残すために自ずと勉強にも力が入ります。それに、競技会に参加することは、ほかの競技者の技術、知識に間近に触れられる好機。例えば競技者が20人いたなら、一人ひとり、1年かけて研究してきた結果をその場で発表するわけで、1人=1年の研究量と考えたら、極端な話、20年分の知識を得ることができると僕は考えています」と話す。

もちろん、その場だけですべての知識を吸収できるわけではないが、それこそ自身とは違った視点やヒントは山のように転がっているわけだ。さらに、「競技会を通して生まれる人との繋がりも、大きな財産になっています」と八田さんは続ける。

ラテアートもさらりと美しく描く八田さん

競技会に出場する以外にも、関西や関東などで気になるセミナーなどがあると聞けば、必ず足を運ぶようにしている八田さん。今では1カ月におよそ1トンもの生豆を消費するまでに規模を拡大しているが、「まだまだやれることはたくさんありますし、なにより内にこもっているだけでは、視野が狭くなる。外とのつながりこそ、気付きを与えてくれるものだと思います」(八田さん)

新発見も提案する、“いつもの”コーヒー屋さん

ハウスブレンドは中深煎りの「月あかり」と、中煎りの「夕暮れ」の2種。ほかはシングルオリジンだ

現在、「KUROMON COFFEE」ではブレンド2種、シングルオリジン6種、計8種ほどの豆をラインナップ。まだまだ種類を増やそうと思えば、生豆のストックはたくさんあるが、あえて種類は絞っているそう。

八田さんは「屋号をFOREST MARK ESPRESSOから『KUROMON COFFEE』に変えたのは、この黒門という街に根付きたいという思いから。日常的にコーヒー豆をご購入いただく常連の方々の“いつもの”にお応えすることが僕らの使命ですし、ご年配のお客様が比較的多い土地柄、選択肢が多すぎるのも良くないと思い、常時8種程度をご用意しています」とその理由を説明。

【写真】ドリップコーヒー アイス(520円)。すべての豆からチョイス可

一方で、アナエロビックファーメンテーション(※1)、ダブルファーメンテーション(※2)など、生産処理によって個性が生まれる豆をスポットで焙煎するなど、“いつもの”にプラスし、遊び心あるエッセンスを加えているのも八田さんらしい。実際、取材時に淹れてくれたアイスコーヒーはエチオピア イルガチェフェのアナエロビック。

「急冷することで、華やかなフレーバーがより開き、どこか紅茶を思わせる味わいです」と出してくれた。おそらく、日々常連ともこんなやり取りがあったりもするのだろう。そう考えると、「KUROMON COFFEE」がコーヒーを通して、この街の暮らしに彩りを与えていると感じた。

ジブラルタル(560円)。エスプレッソ2、スチームドミルク1.5、フォームドミルク0.5の割合

カフェでは豆が選べるドリップコーヒー(520円)をはじめ、カプチーノ(520円)、フラットホワイト(560円)、ジブラルタルなどを用意。チーズケーキ(480円)、フィナンシェといったスイーツに加え、月替わりのランチ(1200円)も準備しているが、メインはやはり豆売り。さらに大濠公園のすぐそばという立地柄、ドリンクのテイクアウト利用が多いそうだ。

コーヒーと相性の良い焼き菓子系がそろう。写真はスコーンサンド(350円)、フィナンシェ(230円〜)


焙煎の可能性を広げる新たな挑戦

生豆は2つの商社、スペシャルティコーヒーコミュニティのTYPICAから仕入れ

2022年5月に「KUROMON COFFEE」は、新たなステージへと踏み出す。福岡市中央区、薬院から六本松を東西に走る城南線沿いの警固エリアに2号店が開業間近だ。焙煎をメインに行う店舗で、現時点では豆売りに特化した店にする予定。

2017年からラッキーコーヒーマシンの半熱風式8キロで焙煎を行ってきたが、新店舗では新たにアメリカ・ローリング社のスマートロースター15キロの導入が決まっている。完全熱風式の焙煎機で、2022年4月現在、九州で使用しているのは、鹿児島の ヴォアラ珈琲 、福岡市のmanucoffeeなど。外気の影響を受けにくく、クリーンカップ(※3)に秀でたコーヒーが焙煎できるのが大きな特徴だ。

八田さんは「屋外への煙の心配がなく、煙突掃除が不要。さらにランニングコストも抑えられるとあって導入を決めました。なにより、多くの情報を得ることができるので、焙煎の幅が格段に広がると期待しています」と話す。ゆくゆくは、新店舗で焙煎のトレーニングなども行っていきたいと話す八田さん。

「KUROMON COFFEE」に据えている、ラッキーコーヒーマシンの半熱風式8キロ

今までは運や縁、タイミングに恵まれていたと振り返るが、2号店の開業、新たな焙煎機の導入は積み上げてきた経験がないとできないことであり、なにより成果の証。毎月およそ1トンを消費するという焙煎量、さらに今後も競技会への挑戦を続けていくにあたり、新設される警固のロースタリー。バリスタからコーヒーの道に入り、ロースターとしてさらなる高みを目指す八田さんの夢を、後押しする場所になりそうだ。

「KUROMON COFFEE」は2022年5月以降も変わらず、カフェと豆売りの2軸で営業


八田さんレコメンドのコーヒーショップは「amillcoffee」

次回、紹介するのは山口県周南市にある「amillcoffee」。
「『amillcoffee』は、ともにアマメリアエスプレッソ時代の後輩である、酒井直樹くんとアンナさん夫妻で営む店。直樹くんはカッピングの技術を競う全国大会『ワタル カップテイスターズ チャンピオンシップ』で3回優勝、アンナさんも高い抽出技術を有し、過去には『ジャパン ブリュワーズ カップ』で5位入賞を果たしています。夫婦ともにコーヒーの知識、技術は申し分なし。2021年4月にオープンしたばかりですが、地域に根付く店づくりに励み、今後、山口エリアを代表する一店になっていくはずです」(八田さん)

【KUROMON COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/ラッキーコーヒーマシン半熱風式8キロ、LORING Smart Roaster15キロ(2号店)
●抽出/ハンドドリップ(ホット:CAFECフラワードリッパー、アイス:Kalitaウェーブドリッパー)、エスプレッソマシン(SYNESSO CYNCRA)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/シングルオリジン6種、ブレンド2種、100グラム640円〜

※1…嫌気性発酵。コーヒーチェリーを密閉容器に入れて酸素を遮断し、微生物の活動を活発化させる方法
※2…果肉を除去したコーヒーチェリーをタンクに入れて、2回発酵させる方法
※3…口に含んだ際の味わいがクリーンで、雑味がないこと

取材・文=諫山力(Knot)
撮影=大野博之(FAKE.)


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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