コーヒーで旅する日本/九州編|持続可能性を自然に体現し、地域とコーヒーの繋がりも生み続ける。「KARIOMONS COFFEE ROASTER」

九州ウォーカー

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一生付き合っていける信頼関係を、生産者と築く

生産者の思いを汲んで日々焙煎に励む

2011年を機に、毎年必ず産地に足を運び、2017年からは単独で買い付けをしている「KARIOMONS COFFEE ROASTER」。現在はニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラスにある10の農園から生豆を仕入れている。一度、取り引きをすると、その後も継続して生豆を仕入れるのが、伊藤さんの生産者との付き合い方。その方法は年を重ねるごとにより信頼関係を強くし、毎年、クオリティの高い生豆を仕入れられることにつながる。さらに伊藤さんは、2021年からはダイレクトプライスと呼ぶ値付け方法を生産者に提案。

長年かけて築いた、生産者との絆あってのコーヒー

「当店のお客様にとって、僕たち店側は供給する立場にあたり、当然ですが僕らが商品の価格を決めて、それにご納得いただいた上でお客様にご購入いただいています。そう考えると、生産者さんと僕たちの関係性って、生産者さんが生豆という原料を供給する立場で、僕らは購入するバイヤー、つまり消費者にあたるわけです。僕らは日本では供給側として値付けをして、お客様に選んでもらうということを当たり前にやっているのに、生産者さんとバイヤーの場合、逆の値付け方法がとられている。そのことに違和感がずっとあったんです。それで、生産者さんたちが考える適正な価格をつけてもらえないか数年前から打診してきました」と伊藤さん。

ただ当初は、どの農園もその提案に消極的だったという。「生産者さんからすると、自分たちの希望する価格を提示した時に、購入してもらえないというリスクを恐れたんだと思います。もちろん初めての取り引きの場合、その可能性も出てくるでしょうが、僕と生産者さんの関係は、もう何年も続いている。それこそ、遠く離れた地に住んではいますが、家族のような存在です。だから僕は『あなたたちの労力に対してちゃんと利益が生まれる適正な価格であれば、仕入れないという選択肢はない』ということを伝え、ダイレクトプライスを実現しました。もちろん前提として、僕が農家のみなさんが作るコーヒーが好きであるということがあってこそです」。持続可能性が叫ばれる昨今、このような関係性を生産者と築けている「KARIOMONS COFFEE ROASTER」はまさに先進的だ。

不要になった紙袋を客から譲り受け、それを店のショッパーとして活用する取り組み、NICE PASS

さらに伊藤さんは、産地を実際に目にしているからこそ、環境問題にも独自の方法で取り組む。その一つが同店が発案し、現在、全国およそ130店舗が参画するなど、少しずつ広がりを見せているNICE PASSだ。店舗独自のショッパー(買い物袋)を廃止し、不要になった紙袋を客に寄付してもらい、それをショッパーとして活用するという取り組み。これは同店が独自に始めたリパックバッグという取り組みがもとになっており、長崎のアパレル企業、デザイナー、さらには長崎大学環境科学部などの協力を得て、全国規模でプロジェクト化されている。

コーヒーを媒介にさまざまな接点を作る

豆売りがメインの時津町の店舗。長崎市内の「KARIOMONS COFFEE NAGASAKI」はカフェ利用も多い

本店にあたる時津町の店舗は基本的に豆売りがメインで、2022年5月現在、ブレンド2種、シングルオリジン5〜6種を常時ラインナップ。どれも生豆の個性が引き立つ浅煎り〜中煎りがメインで、華やかな香り、アフターテイストの甘味、それにクリーンカップに秀でた印象だ。

ホットコーヒー(550円)。抽出はフレンチプレスかペーパーフィルターが選べる

店頭に掲示するプライスカードに風味などは書かず、端的にしているのは、飲み手が感覚的に自由に楽しんでほしいとの考えから。さらに、それによってスタッフと客のコミュニケーションのきっかけにもなっている。

「オンラインショップでは直接ご説明できないので、フレーバーや余韻、質感などについて詳しく書いていますが、店頭では必要であれば僕らの言葉でお客様にお伝えするのが一番良いと考えています。生産者さんの思い、栽培へのこだわりを伝えることが僕たちが担った大切な役目ですから」と伊藤さんはその理由を説明。オンラインショップからの購入でも発送時に一人ひとりに対して手書きのメッセージを同封するなど、開業時から変わらない客思いの姿勢を貫くのも「KARIOMONS COFFEE ROASTER」らしい。

オンラインショップからの購入者に一筆添える心遣い。真心を感じると好評だ

店を「人と人が交わり、さらに人と社会が交わり、新たなコミュニティが生まれるような場所でありたい」と話す伊藤さんは、現在、故郷である雲仙市小浜町に地域の子供たちを巻き込んだショップの開店を目指しているそうだ。

「小浜町の中学校では生徒たちが仮想の株式会社を作り、実際に地域住民に株を購入してもらい、それを運用資金に充てて、経済や社会の仕組みを学べるような授業を行っていると聞いたんです。それってすごいおもしろいことだと思って、僕らもコーヒーを媒介にして、地域の子供たちと社会との接点を作りたいと考えました」と伊藤さん。自身も体感してきたコーヒーを通して見る世界、社会の多様性を体験できる場を地方に作る。そんな伊藤さんのアクションは、これからもコーヒーと地域の新たな繋がりを生み出していくような気がしてならない。

コンセプトは「伝えきる、一杯。」。時津町をはじめ、長崎市内など地元に暮らす人々に愛されている

伊藤さんレコメンドのコーヒーショップは「nai」

「諫早市にあるnaiはもともと当店で長く働いてくれた、近藤彰くんのお店。地方では珍しい豆売り専門というスタイルを一貫するチャレンジングな姿勢が近藤くんらしい。当店で働いてくれていた時は抽出をはじめ、焙煎にも携わってもらっていました。今も交流はありますが、彼独自の世界観、スタンスでコーヒーと向き合っていて、今後の活躍がすごく楽しみなロースターの一人です」(伊藤さん)

【KARIOMONS COFFEE ROASTER のコーヒーデータ】
●焙煎機/PROBAT PROBATONE12キロ
●抽出/ハンドドリップ(クレバーコーヒードリッパー)、エスプレッソマシン(VIBIEMME)
●焙煎度合い/浅煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/150グラム1350円〜

取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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