コーヒーで旅する日本/関西編|追求するブレンドの可能性、「Yeti Fazenda COFFEE」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

現在ブレンドは7種類をラインナップ。瓶に入った豆の香りから、味わいを想像するのも楽しい


関西編の第19回は、2010年にオープンした滋賀県彦根市の「Yeti Fazenda COFFEE」。店主の打出さんは、長年、関西、関東のコーヒー焙煎・卸、器具製造の老舗で、あらゆるコーヒーの仕事に携わった後に独立。豊富な経験をベースに、「この店ならではのコーヒーを提案したい」と、豆の品揃えは作り手の個性が出るブレンドオンリーに。無限にある組み合わせから多彩な味の表現を追求するなかで、ブレンドの新たな醍醐味を発信するユニークな一軒だ。

店主の打出拓さん


Profile|打出拓
1974(昭和49)年、滋賀県栗東市生まれ。イタリアンレストランのサービス・ドリンク担当を務めた際に、コーヒーへの関心を深めたのを機に、上島珈琲貿易、UCC上島珈琲、東京の珈琲サイフォンと、東西のコーヒー関連会社で約10年の経験を積む。2010年、地元・滋賀県に戻り、彦根市内に「Yeti Fazenda COFFEE」をオープン。店の営業と並行して、全国各地のマルシェなどに出店し、2020年から、岐阜、名古屋で自らもコーヒーイベントを主催。

味の表現と焙煎の感覚を培った、コーヒー会社での豊富な経験

旧日夏村役場として1935年に建設。県内に点在する貴重なヴォーリズ建築の一つ

彦根の市街地から南へ、車で15分ほど。「Yeti Fazenda COFFEE」があるのは、広大な田園地帯の只中にあるのどかな町の元役場だった建物。瓦屋根の木造家屋の家並みに異彩を放つモダンな建築は、実は、日本で数多くの西洋建築を手がけたウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した貴重な一軒だ。

「自宅から近い場所で店をしたいと探していた時に、友人が“ここが空いてるよ”と教えてくれたのが、この建物でした。役場の後は公民館として使われていて、一度は取り壊しも検討されたのですが、幸い新しいオーナーが見つかり、スペースを貸し出していたんです」とは店主の打出さん。ヴォーリズは明治時代にアメリカから来日し、近江八幡市を拠点に各地で西洋建築を設計した滋賀ゆかりの人物。現在は登録文化財に指定されている歴史ある空間が、打出さんの日々の仕事場だ。

打出さんがコーヒーに関心を持ち始めたのは約20年前、イタリアンレストランのサービスとして、ドリンクを担当していた頃。「オーナーがコーヒーに詳しく、店でも都度、豆を挽いて淹れるというこだわりを持っていました。自分もいろんな豆で抽出するうちに、味の違いに興味を持ったのが、コーヒーの世界に進む入口でしたね」と振り返る。

店を飾るフラワーアートは、イベント出店時に知り合った舞台装飾作家の作品


当時から持ち続ける旺盛な探求心は、生来の気質だったのだろう。この時の体験をきっかけに、コーヒーを専門とする仕事に転身。しかも、関西ではMUCブランドでお馴染みの、大阪の上島珈琲貿易を皮切りに、UCC上島珈琲、コーノ式ドリッパーで知られる東京の珈琲サイフォンと、東西のコーヒー関連会社で10年余。コーヒーに関するあらゆる業務に携わってきた。「上島珈琲貿易では、IH式焙煎機を使ったオンデマンド焙煎ショップの立ち上げに、スタッフとして参加しました。2005年の当時、スペシャルティコーヒーの銘柄を50種くらい揃えていたのは画期的で、ここでさまざまなコーヒーの風味に触れられたのは貴重な経験でした」と打出さん。

また、UCCでは直営カフェの運営、珈琲サイフォンでは営業から製造、焙煎まで幅広い業務を担当。とりわけ珈琲サイフォンでは、多彩なタイプの焙煎機を扱ったことで、技術と経験を蓄積していった。「直火を使う焙煎機は、この時に初めて扱いました。フジローヤルの3・5・10・30キロ、さらにプロバットの25キロと、大小さまざまな機体を使ってわかったのは、釜のサイズが大きいほど焙煎が安定するという感覚。釜のサイズが小さいと周辺環境の影響が大きく、“安定した少量焙煎”がいかに難しいかを思い知りましたね」

40~50年前に作られた“ブタ窯”の焙煎機には、ガス圧計と温度計を後付け


ただ、打出さんが自店に据えた焙煎機は、フジローヤルのオールドタイプ、通称・ブタ窯と呼ばれる年代物。「近所の喫茶店で、たまたま使っていない焙煎機を譲ってもらうことになって、当初はメーターも何もない状態で、バーナーもドラムの下に一本だけという原始的な構造です。ただ、珈琲サイフォンで直火式のカスタム機を使って気に入って以来、味の傾向としても直火式の焙煎が自分の好み。特にこのブタ窯ならではの特色は、独特の香ばしさと甘さ。扱う人によっても変わりますが、味の密度は直火の方が出やすいと思います」と打出さん。豊富な焙煎経験を持つからこそ、アナログな機体での試行錯誤を楽しんでいるようにも見える。

バックヤードには、カラフルなコーノ式ドリッパーがずらり


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