西島秀俊と斎藤工の最新作は“居場所がない人たちの物語”、自分たちの居場所は「映画しかない」
東京ウォーカー(全国版)
主演の西島秀俊をはじめ、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和など豪華俳優陣が集結した映画『グッバイ・クルエル・ワールド』。互いに素性を明かさない5人が強盗に成功し、その後ヤクザや警察を巻き込んだ大波乱を巻き起こす様子が描かれている。妻子との穏やかな暮らしを望む元ヤクザの男を演じた西島と、悪だけが恋人のヤミ金業者を演じた斎藤、そして監督を務めた大森立嗣監督に、撮影秘話や作品を通して感じたこと、三人で語り合いたいことなどを聞いた。
元ヤクザの安西を「リアリティのある人物として表現したいと思いました」
――オリジナル脚本である本作は、どういった経緯から企画がスタートしたのでしょうか?
【大森立嗣】映画プロデューサーの甲斐(真樹)さんと飲んでいた時に、「カッコいい男たちが出てくる映画を作りたいね」と盛り上がったのが最初のきっかけでした。近頃僕らは“男くさい映画”を撮っていなかったので、「いろいろな世代の俳優が出ていたらおもしろそうだよね」とか「いい音楽使いたいね」と飲みながら、3時間ぐらいでなんとなく方向性が固まって。そこから本格的に企画がスタートしていきました。
――西島さんと斎藤さんは大森監督とご一緒するのは今回が初となりますが、監督に対してどのような印象を持たれましたか?
【西島秀俊】大森監督の作品に出演されている俳優たちがみなさん魅力的で、ほかの作品では見たことがないような、体温が感じられる生々しいお芝居をされているという印象を持っていました。だから“大森監督は一体どんな演出をされているんだろう”と以前からとても興味があって。それでようやく今回ご一緒できたので、すごくうれしかったです。
【斎藤工】僕も大森監督作品のファンだったので、いつか声をかけていただけたらいいなと思っていたのですが、2020年にPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の審査員を一緒にさせていただいたことで、“これはもしかしたら俳優部として大森監督から呼ばれなくなるのでは?”と不安になってしまって(笑)。ところが本作で声をかけていただいたので“あ〜よかった”とホッとしましたし、うれしかったです。
――元ヤクザの男の安西と、ヤミ金業者の萩原という人物をどのように捉えて演じられたのでしょうか?
【西島秀俊】“アンダーグラウンドな世界から抜け出そうとしてもなかなか抜けきることができない”という安西のようなキャラクターはいろいろな作品で描かれているので、自分が演じるならばどこかリアリティのある人物として表現したいという思いで挑みました。
例えば、安西にとって家族の存在はとても大きいので、そこを丁寧に見せることでお客さんに“安西はこの世界に本当に存在しているかもしれない”と感じていただけるのではないかと考えて。そこを大事にしつつ、妻役の片岡礼子さんとしっかり関係性を作っていきながら演じていました。
【斎藤工】僕にとっての撮影初日が冒頭のヤクザ組織のお金を強奪するシーンだったのですが、強奪後の強盗メンバー5人それぞれの車内でのワンショット撮影の時に、監督から「なにも考えずに呆然とした表情をしてほしい」とリクエストがあったんです。
実はご指示をいただくまでは、強奪に成功した直後なので終わってホッとしているとか、各々のキャラクターが少し見え隠れするような表情をするものだと思っていたのですが、監督の言葉を聞いてそのようなスケベ心はいらなかったのだと気付きました(笑)。そこから萩原という役に対して純然たる向き合い方ができたように思います。
居場所は「映画しかないと思ってやっています」
――監督はどのような意図で「なにも考えずに呆然とした表情をしてほしい」とリクエストされたのでしょうか?
【大森立嗣】例えば、安西の場合は元ヤクザだけど今は家族を持つ父親でもあるので、そのどちらにも当てはまらないような表情をする瞬間があるはずで、僕はそういった“隙間”を切り取るのが好きなんです。なぜなら、その瞬間にこそ“キャラクターを超えた人間味みたいなものが溢れてくる”と信じているから。
そして、その表情にこそキャスティングされた俳優のオンリーワンの良さが出ると思っているので、冒頭の強奪後のシーンに限らずそういったことは意識しながら撮っていました。
――強盗メンバーはお互いの素性を知らず、安西、萩原、三浦友和さん演じる浜田、玉城ティナさん演じる美流などそれぞれが孤独を抱えているような、居場所がない人たちの物語でもありますよね。みなさんは本作を通して“自分の居場所”についてどんなことをお感じになりましたか?
【斎藤工】俳優として呼ばれた場合、限られた時間の中でひとつの作品をチームと一緒に作り上げ、それが終わったらそのチームはそこで終了します。では次の現場があるかというと、必ずしもそうではないので不安定な職業なんですね。でも、だからこそ集中して力を発揮し、なにかを成し遂げることができるのではないかと、そんな風に思っているんです。
萩原のやっていることは良くないのですが、チームという意味ではどこか俳優という仕事とリンクしているようにも感じて。なので本作の撮影中は、自分の人生は作品の中で描かれているものと地続きなんだと実感する瞬間がたくさんありました。
【西島秀俊】今は、まっとうな社会から少しでもズレたら簡単にはじかれてしまいます。本作の登場人物たちも、昔はちゃんと居場所があったはずなのに、彼らは“人生最後の勝負”をかけなければいけないほど追いつめられている。そしてそれは、現実社会でも多くの人たちが突きつけられている問題でもある。撮影を通してそういったことを考えさせられました。
また、自分に関して言えば、長い間仕事がない時期があったので、いまこうやって本作についてお話しできていることがすごく幸せだなと。これからも俳優として居場所を与えていただけるように、精一杯励まなければいけないなと感じています。
【大森立嗣】僕は“居場所=その人が存在を肯定される場所”だと思っているので、現場で俳優さんと向き合う時はその気持ちを大事にするようにしています。そんな風に誰かの居場所を作ることができるのが映画の良さでもあるし、僕にとっての居場所も映画しかないと思ってやっています。
作品を媒介にしているほうが「お互いの真意が見えてくる」
――今後ゆっくり三人で過ごす時間があったとしたらどんなことをお話しされたいですか?
【斎藤工】少し話はズレてしまうのですが、『シン・ウルトラマン』のプロモーション時期に西島さんと一緒に取材を受ける機会がありまして、何度かツーショット取材を繰り返しているうちに西島さんが仰った言葉を自分が先にしゃべっていたりすることがあったんです(笑)。
【西島秀俊】いくつも受けているとそういうことってありますよね(笑)。
【斎藤工】その時に思ったのが、なにもない状態でお話しするよりも作品を媒介にしたほうがお互いの真意が見えてくるというか、相手の伝えたいことがすごくよくわかるんだなということでした。それは大森監督と審査員を一緒にやらせていただいた時も感じたことで、なにかひとつの作品を通して語るからこその本音が聞けるというのはすごく素敵なことだと思います。なので、まさに今幸せな時間を過ごしていますし、本作についてお二人とじっくり語り合いたいですね。
【西島秀俊】工くんも作品を撮ってらっしゃるので、お二人には映画監督という立場から見た近年の映画の作り方の変化についてじっくり聞いてみたいです。例えば、“カット数はこのまま無限に増えていくのか”とか“機材がどれだけ進化しているのか” “いろいろな場所から音を録音できるようになったことで作品にどんな影響を及ぼしているのか”など、俳優として携わっているだけではわからないことがたくさんあるはずなので、そういったことを細かくお聞きできたらいいなと思います。
【大森立嗣】僕は「あの映画どう思う?」とか「○○組の現場はどうでした?」といったことをお二人に聞いてみたいです。あと西島さんには「アカデミー賞授賞式どうでした?」とか「ポール・トーマス・アンダーソン監督に会ってみてどうだった?」とか聞きたいな(笑)。
【西島秀俊】いつでも聞いてください(笑)。真面目なことをじっくり語り合うのも素敵ですが、「『トップガン マーヴェリック』どうでした?」とか、最新の映画についてお二人と感想を話し合うのも楽しそうですね。
【大森立嗣】コロナ禍でクランクアップ後の打ち上げができなかったから、状況が落ち着いたタイミングで三人でゆっくり飲みましょう!
取材・文=奥村百恵
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