コーヒーで旅する日本/九州編|まじめにコツコツ、自分のペースで。「自家焙煎珈琲 萌香」が19年にわたり愛される理由

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

窓の外には木々の緑が広がる

九州編の第43回は、福岡県筑紫野市にある「自家焙煎珈琲 萌香」。店のすぐ横を小川が流れ、緑に囲まれた雰囲気の良さから、喫茶利用のために遠方からも多くの客が訪れる。もちろんそこにはおいしいコーヒーが飲めるという理由がある。自身が考える、よりおいしいコーヒーを求め、自然と自家焙煎にシフトし、そして技術を高めてきた店主の帆足拓哉さん。同業の仲間との親交を深めつつ、だれかと競うこともなく、とにかくコツコツとコーヒーと向き合ってきた19年。そんな帆足さんが営む「自家焙煎珈琲 萌香」の歩み、そして魅力を掘り下げていく。

店主兼ロースターの帆足拓哉さん

Profile|帆足拓哉(ほあし・たくや)
1978(昭和53)年、福岡県筑紫野市生まれ。高校、大学と空手と柔道を組み合わせた空道にのめり込み、道場の師範が整骨院を営んでいたことから、自身も柔道整復師を志す。資格を取得するために専門学校に進学したが、入学早々、大病を患い、入院。1学期丸々休んだことで留年が決定し、学費の面などから、退学。その後、もともと大学時代からコーヒーが好きだったことから、実家の畑だった土地に喫茶店を建て、2003(平成15)年に「萌香」を開業。開業当初は大手コーヒー商社から豆を仕入れていたが、開業から約3年で自家焙煎にシフト。屋号を「自家焙煎珈琲 萌香」に改め、今に至る。

理想の味を求め、自家焙煎の道へ

店があるのは筑紫野ICのそば。名水処としても知られ、豆購入で無料で水を汲むことができる

19年前に「萌香」を開業した時は、コーヒーは大好きだったものの、知識はほぼゼロだった店主兼ロースターの帆足拓哉さん。ただ、やると決めたことはとことん突き詰める性格だけに、開業前、そして開業してからも行けるだけたくさんのコーヒーショップを巡った。さらに技術を上げるために抽出セミナーなどにも積極的に参加。

着実にコーヒーの知識、抽出の技術は磨かれていったが、「当時は焙煎した豆を仕入れるスタイルだったので、豆の鮮度管理だけは思うようにコントロールできなかったんです。取引先は大手のコーヒー商社でしたので、焙煎直後のコーヒーが店に届くわけはなく、店に納品された時点で焙煎後2週間ぐらい経過している。さらに、そこから店で消費していくと、日に日に鮮度は落ちていきますよね。これにジレンマを感じていました」と帆足さんは振り返る。

16年前から使い続ける、PROBAT LG5

そういった理由から自家焙煎にベクトルが向いた帆足さん。焙煎の知識はないため、当初は無難に日本製の焙煎機の導入を検討していたが、コーヒー業界に勤める知人から、PROBATという焙煎機のメーカーがあることを教えてもらい、PROBATを使っているコーヒーショップに足を運んだ。

「それが大分県の湯布院にあるBON VOYAGE!さんでした。そちらの店のコーヒーを飲んでみたところ、自分が理想とする味わいだったんです。私はもともと浅めの焙煎が好きで、コーヒーショップ巡りをしていた時も、浅煎りをオーダーすることが多かった。ただ、その当時の浅煎りはしっかり豆の芯まで火が通っていない、生焼けのような状態のコーヒーが多かったと思います。もちろんそのころは焙煎の知識はないので、焙煎後の豆がどんな状態なのかは詳しくはわからなかったのですが、『渋味がある』『嫌な酸味がある』と感覚的に、ネガティブな要素を感じていました。BON VOYAGE!さんで飲んだ浅煎りは、きれいですっきりとした味わいで、こんな味わいを焙煎で引き出したいと素直に思いましたね。すぐにPROBATの導入を決めました」

“おいしい”、“おいしくない”のものさし

【写真】喫茶店の隣にある小さな小屋で、焙煎をする

焙煎機を導入し、生豆を仕入れ、さぁ焼くぞとなったものの、焙煎は初めての経験。「最初は理屈がまったくわかっていないので、失敗の連続でしたね。焼いてはテイスティングしてを繰り返し、どうしてもクリアできない壁にぶち当たったら、BON VOYAGE!に焼いた豆を持って行って、相談して…。自分で焙煎した豆を店で出すのに数カ月かかり、すべての豆を自家焙煎に切り替えるのに1年ぐらいは要しました」と帆足さん。

勉強のために巡っていたコーヒーショップで、常に“おいしい”“おいしくない”を、自分なりのものさしで計っていたのは大きい。その当時は今のようにスペシャルティコーヒーが浸透していたわけはなく、風味特性やクリーンカップなどという概念も弱かったはずだ。帆足さんが『渋味がある』『嫌な酸味がある』と感じていたのは、言葉は違えど、スペシャルティコーヒーの評価基準に近い概念。自然とそういう基準でコーヒーの味わいを感じ取っていたのは帆足さんが持っていた天性の才能かもしれない。

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