コーヒーで旅する日本/九州編|スペシャルティコーヒーを黎明期から。筑豊のコーヒーの顔、「このみ珈琲」

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

【写真】コーヒーショップとしての歴史は1995(平成7)年から

九州編の第45回は、福岡県直方市にある「このみ珈琲」。JR直方駅から徒歩7分ほどの商店街。昔は多くの人で行き交っていたであろう長いアーケードは、現在は残念ながらシャッター街と化している。そんな商店街の一角、青いひさしに書かれた「KONOMI COFFEE」の文字。商店街の中でひときわ目立つファサードで、店内のカフェスペースも賑わいを見せている。2000(平成12)年に店のスタイルを一新した時からスペシャルティコーヒーにこだわり、筑豊エリアにコーヒーカルチャーを根付かせてきた同店。さびれてしまった商店街でも、生き抜く地力を「このみ珈琲」に見た。

店主兼ロースターの許斐善隆さん

Profile|許斐善隆(このみ・よしたか)
1970(昭和45)年、福岡県鞍手町生まれ。大学時代から学校の近くにあった自家焙煎の喫茶店に通い、コーヒーに関わる仕事に興味を抱く。一度はサラリーマンとして働いたが、コーヒーショップを開くという夢を忘れられず、1995(平成7)年、仕入れたコーヒーを販売するビーンズショップカフェを直方市にオープン。その後、コーヒーの知識を深めていく中で、スペシャルティコーヒーという特別な豆があることを知り、自家焙煎に興味を抱く。2000(平成12)年、自家焙煎に切り替えたと同時に屋号も改め、「このみ珈琲」に。

筑豊におけるスペシャルティコーヒーの先駆け

JR直方駅近くのアーケードに店を構える。駐車場は近くに2台分あり

福岡県直方市の殿町商店街に店を構える「このみ珈琲」。2000(平成12)年からスペシャルティコーヒーを扱っているというから驚かされた。2000年といえば、スペシャルティコーヒーという名前が出始めた時期で、その当時、ほとんど認知されていない状態。福岡県内でも数えるほどしか扱う店がないような時期、筑豊エリアでスペシャルティコーヒーの種を植え始めたのが、「このみ珈琲」の店主、許斐善隆さんだ。

カフェで飲めるドリップコーヒーは豆が選べるスタイル

「もともと、仕入れた豆を販売するフランチャイズのビーンズショップからコーヒーの世界に飛び込みました。店を営む中でコーヒーに対する知識が少しずつ深まり、そしてさまざまな情報に触れるようになり、スペシャルティコーヒーという特別な豆があることを知りました。仕入れたコーヒーを販売していた時期、やはり生豆自体の品質が悪い商品も少なからずあった。品質が良いコーヒーとは、どんなものかという純粋な興味から、先端が集まる東京のコーヒーショップを巡ってみたんです」と許斐さん。

ドリップコーヒー(500円〜)

東京でスペシャルティコーヒーを飲んだ許斐さんは、「正直なところ、当時は違いが明確にはわかりませんでしたが、“なにか、違うぞ”という印象は強く受けましたね。その中でも、堀口珈琲さんで飲んだコーヒーは特別おいしかった。ちょうどその時期、堀口珈琲さんでは開業する人向けに焙煎セミナーを開始した時期で、受講を即決しました。当時はスペシャルティコーヒーを仕入れたいという思いではなく、できるだけ品質の良い原料を仕入れて、それを自家焙煎してお客さまにお届けしたいというシンプルなものでしたね」と振り返る。

許斐さんはタイミングにも恵まれた。焙煎セミナーを受講していた時期、堀口珈琲は共同で生豆を買い付けるメンバーを募っており、許斐さんも迷うことなく、グループに加盟。それから20余年、「このみ珈琲」開業からずっと、堀口珈琲が運営する生豆の買い付けグループ、リーディングコーヒーファミリー(LCF)の一員というわけだ。

生豆の品質の良さをただただ信じて

店奥がカフェスペースになっている

仕入れた豆を売るフランチャイズはやめ、屋号も「このみ珈琲」に改めた上で新たなスタートを切った許斐さん。ただ、最初は苦労も多かったという。

「屋号を変えて、自家焙煎にしたことも発信はしていたものの、店の場所は以前と同じ。5年間、通い続けていただいていたお客さまから『前のコーヒーの方が好きだった』、『以前のものと全然違う』というご意見も多くいただきました。今ではスペシャルティコーヒーといえば、品質の良いコーヒーという認識が浸透していますが、当時は言葉で説明してもなかなか伝わらない。それでも、生豆の品質の良さはもちろん、いつかはこれがスタンダードになると信じて前に進むしかなかった」

ドリッパーは堀口珈琲にならい、KONO名門フィルター

許斐さんは自身がスペシャルティコーヒーに初めて触れて感じた“なにか、違うぞ”という体験をとにかく信じた。例えばこれが福岡市内といったトレンドに比較的敏感な地域であれば、もしかしたら、もっと苦労は少なかったかもしれない。ただ、許斐さんは地元に近い筑豊エリアで、スペシャルティコーヒーのおいしさを発信し続けた。まさに信念の人だ。

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