コーヒーで旅する日本/関西編|生産国が豊かになるためにロースターとしてできること。「KOTO COFFEE ROASTERS」がコーヒーを通してつなぐ“幸せの連鎖”

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

土・日曜のみ建物の玄関が販売スペースに


関西編の第33回は、奈良県五條市の山間に店を構える「KOTO COFFEE ROASTERS」。店主の阪田さんは開業から2年で、ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ(以下、JCRC)で優勝し、“日本一のロースター”の一人として注目を集める存在だ。若い頃から世界中を旅して巡り、80カ国を訪れた阪田さんが、コーヒーの道に進んだきっかけは、各地で目にした貧困問題。「生産国の人たちが豊かになるように、というのが開業の理由であり大きな目標」という阪田さんが、コーヒーを通して幸せの連鎖を広げるためにたどってきた道のりと、これから見据える先にあるものとは。

店主の阪田正邦さん


Profile|阪田正邦(さかた・まさくに)
1975(昭和50)年、岐阜県大垣市生まれ。学生時代からバックパッカーとして世界を巡り、大学卒業後も実家の民宿やアルバイトで資金を稼ぎ、述べ80カ国を訪問。各地で見聞した貧困問題に関心を抱く中で、スペシャルティコーヒーと出合い、世界の貧困を解決するソーシャルビジネスとしての可能性を感じ、ロースター開業を志す。2017年、奈良県橿原市で「KOTO COFFEE ROASTERS」をオープンし、2019年にJCRCで優勝、台湾の国際大会でも3位入賞。2020年、五條市に移転。2022年夏、コロナ禍で延期されていた世界大会に出場。

開業に至る原点は、世界を旅する中で遭遇した貧困問題

風格ある木造家屋を改装した、ロースターらしからぬ店構え

大阪府、和歌山県と境を接する、奈良県五條市。修験道で知られる金剛山系の山麓に開けた住宅地を上っていくと、棚田や畑を縫うように徐々に道は狭くなり、“本当にこんなところに店があるのか?”と思いかけた頃に、「KOTO COFFEE ROASTERS」の大きな看板が現れて、思わず安堵の息をつく。

「アニメや映画の世界に出てきそうな場所でしょう?」と、笑顔で迎えてくれた店主の阪田さん。店とはいいながら、木造家屋を改装した見た目は年季の入った農家の趣だ。学生時代から世界中を旅してきた阪田さんが、ロースターとしてスタートしたのは2017年。同じ奈良県内の橿原市で創業し、ひょんなことから、この地に移転してきたのは2年前のこと。傍目には不便に見えるこのロケーションだが、阪田さんにとって心和む場所のようだ。「いろんな国や町に行きましたが、にぎやかな都会よりも、まだ開発の進んでいない国やコーヒーの生産地のような場所の方が自分の性に合うなと感じて。ここは、そういったところと似ていて、気持ちが落ち着くんです」。いまや“日本一のロースター”の一人として、注目を集める阪田さんだが、コーヒーの世界へと進んだのも、数々の旅での経験がきっかけだった。

店先からは五條市街、紀伊山地まで一望するパノラマが広がる


若いころから、バックパッカーとして多くの国を巡る中で、たびたび遭遇したのがさまざまな形で存在する貧困層の姿。「旅をする楽しさを満喫する一方で、繰り返し貧困の問題を目にするうちに、旅行者の自分には何もできないな、という無力感が募っていきました」と阪田さん。自分にもできることはないのか、思い悩んでいた時に、一つの方法を教えてくれてのが、スペシャルティコーヒーだった。「ちょうどコスタリカに発つ前日、成田での乗り換えで時間があって、ふと目に留まった雑誌のコーヒー特集を見て、東京のコーヒー店を巡ってみたんです。ただ、どの店もあまりピンとこなかったんですが、最後に訪ねたマンモスコーヒーで衝撃の出合いがありました。それまで、コーヒーの何がおいしいのかが分からなかったんですが、この時飲んだフルーツのような風味にびっくりして。それがスペシャルティコーヒーとの最初の出合いでした。このことがきっかけでスペシャルティコーヒーについて調べていくうちに、味ではなくその仕組みに惹かれるようになったんです」

焙煎機が取り持つ縁がきっかけで乗り越えた苦境

「先々はプロ向けのシェアローストや焙煎の出張セミナーもやりたい」と阪田さん

いい豆を作れば生産者に還元され、消費者もよりおいしいコーヒーを楽しめる、そのサイクルを知った時、「これなら、自分でも少しでも貧しい人々の助けになるのでは」との感慨が湧いたという阪田さん。そのために、当初は生豆を扱うバイヤーを目指したが、コンテナ単位で買い付けを行うスケールの大きさは、個人の手に余るものだった。そこで、目を移したのが生豆を焙煎するロースターの仕事だった。「生豆のバイヤーを個人でやるのはハードルがかなり高くて、生産者と消費者の橋渡し役という役割は変わらないと思って、本格的にロースターを目指すことにしたんです。ただ、コーヒーができるまでの、どの過程においても、風味を細かく評価できるスキルが必要と考えて、まずカッピングを勉強することから始めました」

コーヒーの世界への初めの一歩として、カッピングの技術を身に着けるべく、京都のカフェタイム、名古屋の豆珈房など、スペシャルティコーヒー専門店を訪ねて教えを乞うた阪田さん。カフェタイムでは同時に、コスタリカ、ニカラグア、グアテマラ、エルサルバドル、ルワンダと産地の訪問も経験。さらに、豆珈房のマスターが副委員長を務めるSCAJの主催するカッピングセミナーに参加するなど、着実に経験を重ねていった。

その後、焙煎機を購入し、いよいよ自家焙煎に着手することになった阪田さん。ただ、ここからは一筋縄ではいかなかった。「焙煎機メーカーのセミナーで一通り勉強はしたのですが、自分でやり始める時はまったくの手探りで、最初の頃は絶望的な気持ちになりました。素人の時は面白さが勝っていたのですが、プロとしては通用しないなと。当時の豆の仕入れ先に、焼いた豆を持って行って評価してもらっていましたが、開店後しばらくして“お客さんに出せるレベルではない”と言われて、店を閉めて焙煎の改善に取り組んだ時期もありました」と振り返る。

生豆の保管室の温度は夏場でも25度を超えないように品質を管理


2017年の開店以降も四苦八苦する阪田さんに、救いの手を呼び込んだのは自らが選んだ焙煎機だった。阪田さんが奈良県内で最初に導入したギーセンの焙煎機は、関西ひいては国内でも持つ店はまだ少なく、実際に触れることができるのは貴重だった。この機体に注目していた同業者の一人に、焙煎の競技会・JCRCの優勝者で、その年の世界大会を控えた神奈川のいつか珈琲屋の近藤さんと、翌年の世界大会を控えた豆ポレポレの仲村さんがいた。「ギーセンの焙煎機は豆珈房でも使っていて、その味わいも好きだったので、自店でも導入したんです。これが、実は世界大会の公式焙煎機で、近藤さんからこの機体を使ってトレーニングしたいという申し出があって、奈良まで訪ねて来られたんです。思わぬ形で焙煎の日本チャンピオンたちと接することができて、逆に自分が焙煎を学ぶまたとない機会になりました。この幸運な出会いがなければ、今はなかったと思いますね」

阪田さんにとっては、まさに地獄に仏の思いだっただろう。これを機に、焙煎のスキルも飛躍的に向上。さらに、同業者が集まる焙煎の勉強会にも参加して、JCRCのチャンピオンや気鋭の若手ロースターが集う場で腕を磨き、手ごたえと自信を深めていった。やがて阪田さんもJCRCの競技会に出場。2018年の初出場では17位に終わったが、翌2019年、2度目の挑戦でなんと優勝を果たす。開店2年目にしての快挙だった。「もちろん、出るからには優勝目指して、という思いで参加していましたが、こんなにも早く実現するとは、ラッキーとしか言いようがないですね。勉強会ではプロファイルを公開するのですが、評価されたプロファイルを参考に、見よう見まねで焼いていたら、いつの間にかここまで来ていたという感覚です。日本一になったことは、これ以上ない店の名刺代わりになって、以降は“うちのコーヒー、おいしいですよ”って言いやすくなりました(笑)」

玄関にはコーヒーができるまでを描いたチョークアートが


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