コーヒーで旅する日本/関西編|生産国が豊かになるためにロースターとしてできること。「KOTO COFFEE ROASTERS」がコーヒーを通してつなぐ“幸せの連鎖”

関西ウォーカー

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今ある豆の個性を生かして、多くの人に届けることが焙煎人の本領

コロナ禍でカッピングの方法も変化。スプーンを2本持ち、液体を移しながら口に含む

本来ならこの後、世界大会に臨むはずだったが、コロナ禍により開催は延期に。この間に、店には大きな転機が訪れていた。「台湾で行われた国際大会に出場して、帰国すると橿原店の入っている建物が取り壊しになるという知らせがあって。隣に入っていたアメリカ人の宣教師に相談すると、五條市に空き物件を所有していることを教えてもらって、出合ったのが今の店の建物。ひと目ですごく気にいって、すぐに移転を決めたんです。ちょうど、コロナ禍が広まる直前で、先駆けてオンライン販売メインに舵を切ったことは、結果的にいいタイミングでしたね」

広々とした家屋の一部を自らリノベートして、焙煎やカッピング、豆の発送のスペースを設置。期せずして、街の喧騒から離れた静かな環境で焙煎に取り組める、格好の拠点を得た。現在、店は土日のみの営業で豆の販売も行うが、基本はオンラインの販売や卸が中心。豆のラインナップは、ブレンド3種、シングルオリジン6種をそろえ、浅煎りから深煎りの焙煎度に合わせて豆を吟味している。 

自らも産地を訪ね、開業当初からの定番として人気のグアテマラ・エル・ソコロ農園


「自分の好みはあまり関係なく、いろんな豆の種類、焙煎度に対して焼き分けるのがロースターの仕事。料理でいえば、和食やイタリアン、フレンチもやるイメージですね。例えばCOE(カップ・オブ・エクセレンス)のような華やかな個性を持つ豆やフレッシュな新豆は、できれば和食やイタリアンのように素材の持つフレーバーを生かした浅めの焙煎で。また、スペシャルティのボーダーにある豆や少々鮮度が落ちた豆は、古典のフレンチがソースや素材の取り合わせを駆使するように、深めの焙煎でロースト由来の甘さを加えたり、ブレンドで補って味に奥行きを出したりしています。今、ある素材をいかに生かせるかがロースターの腕の見せ所。同じ豆でも状態によって焙煎度を変えることで、通年提供することもできるし、食品ロスも減らすことができるので、焙煎度のバリエーションは今後、増やしていこうと思っています」

料理人であれば最高の素材を使いたいと思うものだが、阪田さんが扱うのはトップオブトップの豆には限らない。料理の中にも、華やかなコースもあれば、普段使いでカジュアルに楽しめる一皿もあるように、コーヒーも楽しみ方はさまざま。むしろ阪田さんにとって、より大切なのは、スペシャルティコーヒーが世界を巡るサイクルにある。カッピングスコアの高低に関わらず、豆のポテンシャルを引き出し、少しでもおいしいコーヒーを多くの人に届けることが、生産者の支援につながる、その本質を忘れることはない。

コーヒーを通してつながる、“幸せの連鎖”を広げるために

豆を200グラム以上購入でドリップコーヒー1杯をサービス

「まだ、生豆をコンテナで買い付けるほどの力はないので、できる範囲でやれることをしていこうと。コーヒーはその国の宝物のはずなのに、産地に還元されていないのはずっと不思議に思っていました。実際、貧困問題の解決については、かけ声は出しても各々の利益優先の部分があります。本当に変える方法があるのかと考えた時に、スペシャルティコーヒーの仕組みなら、合理的なサイクルで貢献できる可能性があると思います。これだけ技術が進歩しているのに、コーヒーが1次産業にとどまっていて、消費国である先進国が搾取していることが問題。本来は、産地でコーヒーの付加価値を上げる6次産業化が、貧困問題を解決するために目指す方向だと思います。単純に考えたら、産地で焙煎・加工ができれば、もっと利益が得られるはずです。そこで自分ができることは焙煎の指導なので、もし、そういうプロジェクトが起こった時に、自分に声がかかるように、常に発信しておく必要があるんです」

郊外に店を移転し、オンライン販売中心に切り替えたのも、実は、自身がいつでも動けるように、店に縛られない形を模索した結果でもある。「今の店は、街中と違って固定費があまりかからないですし、対面販売がほぼないので、焙煎をする人さえいれば店は稼働します。自分の本領は焙煎なので、国内外を問わず各地に赴いて、コンサルタント的な立場で関わる形をイメージしています。なにしろ根が旅人で、バイヤーとして世界中の産地に行きたいという動機からコーヒーの道に入っているので」

広々とした座敷は訪れたお客の休憩スペースに。冬は薪ストーブも焚かれる


新たな拠点を得た後の2022年、 2年越しにイタリア・ミラノで開催された世界大会・WCRCに出場した阪田さん。成績だけでいえば、残念ながら世界の壁は厚かったが、それでも、この舞台を経て得るものは大きかったようだ。「世界大会に出て分かったのは、これまでやってきた焙煎は、感覚的な部分が多く、焙煎の良し悪しを結果論で評価しがちだったこと。科学的なプロセスが分かってなかったんですね。すべてを科学的アプローチに基づいて、どう味作りをするか、もっとローストをデザインする意識が必要だと感じました」と振り返る。

この経験を元に、帰国後はすぐさま海外から講師を招聘して、技術や考え方をアップデートしたことで、よりロジカルな焙煎の理解が進んだという阪田さん、今後は、自らも焙煎のセミナーに力を入れていくという。「今までは人に教えられる確証がなかったのですが、ようやく、おいしく焼けるメソッドに手ごたえが出てきました。自分が焙煎を始めた時みたいに、開業時に焙煎に悩む人は多いはずなので、この間に得た知見をもとに技術を伝えていくことを、本業の主軸にしたいと思っています」

やがては世界中の産地で焙煎指導ができるようになれば、“旅人”の阪田さんとしては願ったり叶ったり。ただ、そのためにも焙煎世界一の称号は、これからも目指すべき目標の一つだ。「今は一人で店をやっていますが、拠点は確保できたので、いずれは世界中のオファーに応えられるような体制にするつもりです。旅をしながら仕事をするのが理想なので。焙煎世界一になれば、おのずと世界各地から声がかかるはずですから、また世界大会の舞台に立ちたいですね」。店のモットーとして掲げたのは、“Chain of Happiness from Seeds to Cup”。コーヒーを通した幸せの連鎖をつなぐ阪田さんの旅は、まだ始まったばかりだ。

「焙煎世界大会の舞台は興奮で鳥肌が立ちました。表彰式を見て、もう一度戻ってきたいと思いましたね」と、次の挑戦を見すえる阪田さん


阪田さんレコメンドのコーヒーショップは「LANDMADE」

次回、紹介するのは、神戸市中央区の「LANDMADE」。
「店主の上野さんは、4年前に焙煎の勉強会で知り合って以来、お互い切磋琢磨して、競い合う仲間の一人です。コーヒーの知識、技術に精通し、さまざまなセミナーや料理学校などの講師の経験も豊富で、多くの人にコーヒーの魅力を伝えています。普段使いのお客さんから開業希望者まで、コーヒーのことを気軽に相談できるスペシャリストが揃うお店です」(阪田さん)

【KOTO COFFEE ROASTERSのコーヒーデータ】
●焙煎機/ギーセン 6キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(フラワードリッパー)
●焙煎度合い/浅煎り〜深煎り
●テイクアウト/ なし
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン6種、100グラム800円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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