コーヒーで旅する日本/九州編|女性ロースターが営む自家焙煎店「豆乃木」。香りを大切に、ひたむきに焙煎と向き合ってきた16年

九州ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

ラッキーコーヒーマシンの直火式4キロと共に歩んだ16年

九州編の第47回は、福岡県北九州市にある「豆乃木」。目の前に足立山を望む小倉北区の郊外にあり、住宅街になじんだ小さな豆売り専門店だ。開業したのは2006(平成18)年11月。店主兼ロースターの板倉寛美さんは会社員時代に感じた“コーヒーがもたらす和み”をきっかけに、ふとカフェ巡りを始め、自然な流れで焙煎に興味を抱いた。昔から「コーヒーショップをやりたい」と思っていたわけではなかったが、コーヒーや焙煎の世界に魅了されてからは一気に惹き込まれた板倉さん。16年にわたり、北九州市で愛される「豆乃木」の魅力を探ってみたい。

店主兼ロースターの板倉寛美さん

Profile|板倉寛美(いたくら・ひろみ)
福岡県北九州市生まれ。高校卒業後、ケーキショップの店員として約10年勤務。その後、事務員としておよそ3年働く中で、趣味でコーヒーショップ巡りを始める。焙煎に興味を抱き、とある雑誌で偶然目にした東京のカフェ・バッハの2日間の焙煎セミナーに参加。右も左も分からなかったが、純粋におもしろさを感じ、本格的に焙煎を学ぶために福岡市・平尾の日々ノ珈琲の焙煎教室に約半年間通う。2006(平成18)年11月、「豆乃木」を開業。

女性だからと軽んじられたくない

Qグレーダーの資格は2013年ごろに取得。過去にはハンドドリップ チャンピオンシップのジャッジも務めた

「豆乃木」の店主兼ロースターの板倉寛美さんは、とにかく勉強熱心だ。とてもマジメで、2006(平成18)年に店を開業してから16年、常に真摯にコーヒーと向き合ってきた。米国スペシャルティコーヒー協会のルールに則ってコーヒーの味わいを評価できることを証明するQグレーダー、J.C.Q.A.(全日本コーヒー商工組合連合会)認定のコーヒーインストラクター2級など、さまざまな資格を取得してきたのはもちろん、2010(平成22)年、2011(平成23)年には、全国のエリアごとにチームを組み、焙煎技術を競うロースト マスターズ チーム チャレンジのメンバーの一員として競技会に参加。すべては、自身の知識を深め、技術を磨き、焙煎を通してよりおいしいコーヒーを多くの人に届けるためだ。

【写真】店は豆売り専門。詰め合わせやリキッドタイプのアイスコーヒーなどギフト系の商品も充実

「焙煎に興味を抱いた時、『女性でも焙煎ができるのか』ということを気にしていたんですね。ただ、カフェ・バッハさんのセミナーでも、日々ノ珈琲のオーナーさんも、『まったく問題ない』と言っていただき、焙煎のことをちゃんと勉強したいという思いを強くしました。私が理想とした味わいは日々ノ珈琲さんのコーヒーで、開業を考えている人向けに焙煎指導をしていると聞いて、すぐに受講を決めました」と板倉さん。

生豆の仕入れはすべてLCFから

板倉さんの焙煎の土台を築いた日々ノ珈琲が、東京にある堀口珈琲が運営するリーディングコーヒーファミリー(LCF)から生豆を仕入れていたことから、「豆乃木」開業に際し、堀口珈琲に生豆を仕入れさせて欲しい旨を伝えた板倉さん。「堀口さんから『一度お店に来て、セミナーを受けてみませんか?』とお誘いいただき、その翌週には東京に向かいましたね。今はLCFに加盟するのはハードルが高いのですが、私がお願いした時期はメンバーを募っていて、タイミングにも恵まれました。以来、ずっと生豆の仕入れはLCFにお世話になっています」

香りに重きを置いた焙煎

焙煎度合いは中深煎り、深煎りがメイン

一方で、開業に際し、日々ノ珈琲の焙煎指導で使っていた焙煎機とは違うメーカーのものを選んだ板倉さん。「自分なりの味わいを表現したいという考えから、ラッキーコーヒーマシンの直火式を選択したのですが、最初は苦労の連続でした。メーカーが違うだけで、こんなにも焼き上がるコーヒーの味わいも変わるのか、と…。日々ノ珈琲さんと同じ原料なのに、自分で焙煎すると、私が理想だと思っている味わいが表現できない。本当に毎日悩んでいましたね。ただ、ラッキーコーヒーマシンのグループ会社であるUCCのご担当者さんがとても親身になってくださいまして。たくさん相談にのっていただき、少しずつ自分が理想とする焙煎に近づけることができました」と、板倉さんは焙煎を始めた当時を振り返る。

テイクアウトのコーヒーはブレンド(500円)、ストレート(550円)

「焙煎のプロファイルの大枠はできましたが、もっと研究して、ブラッシュアップできる点はたくさんある」と話すように、店を開いて16年経った今も、よりおいしいコーヒーを焙煎するために日々努力を重ねる板倉さん。大切にしているのは豊かな香りだ。「コーヒーの第一印象はやはり香りだと思うんです。生豆が本来持っている香りのポテンシャルを、熱を加えることでどれだけ消さずに、ひいては引き出せるか。どんな豆でもこの点を最も重視しながら焙煎しています。最初に感じる香り、余韻に残る心地よい香り。そして、コーヒー豆が持つ甘さ。飲んだ方にそんなことを感じていただけたらうれしいです」

その言葉通り、板倉さんが焙煎したコーヒーは深めの焙煎でも、豆ごとに香りの個性を感じられる。ただ、際立った個性というよりも、どこか優しく、ホッとする印象。これは女性ロースターならではかもしれない。

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