世界でも繁殖例はわずか5園のみ。サメ・シロワニは生まれる前からハードモード!?【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】
東京ウォーカー(全国版)
野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。
そんな時代が訪れないことを願って、本連載では会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館に取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。第14回の今回は、2021年にシロワニの繁殖に日本で初めて成功したアクアワールド茨城県大洗水族館の徳永さんに、お話を聞いた。
20年をかけてようやく繁殖に成功
――アクアワールド茨城県大洗水族館は太平洋に面した、国内屈指の規模の水族館。中でも、サメの飼育に力を入れていて、同館のシンボルマークにもサメが使われているほど。現在、60種類(2023年1月現在)ものサメが飼育されている海の総合ミュージアムだ。そんな同館に2021年2月、朗報がもたらされた。環境省の海洋生物レッドリストで2017年に絶滅危惧種に選定されているサメ・シロワニの妊娠が判明したのだ。
2020年3月に、シロワニの交尾が確認されました。それを見た我々は「うまくいって赤ちゃんができればいいな」と期待をかけてシロワニの様子を見守っていました。だんだんおなかも大きくなってきたのですが、それだけでは妊娠が確定したというわけではありません。シロワニの場合、おなかが大きくなった後に受精しなかった卵を一斉に排出するということもあるので、どうなるのか飼育員一同で見守っていました。
でも、いつまでたっても卵の排出は起こりませんし、おなかもどんどん大きくなっていきます。そして2021年2月、母親のおなかの胎動を認めました。ガラス越しでも赤ちゃんが、おなかの中でポコンと動いたのが分かりました。
そこで初めて妊娠が確定。それからはこれまで以上に力の入った観察、見守りの日々です。サメの妊娠期間は9カ月から12カ月ぐらいと言われていますが、その間飼育員が交代で24時間体制に近いぐらい、ガラス越しに見守りました。
シロワニは、とても穏やかな性格のサメです。ただ、子育てをしたり、子供を守るといった性質はありません。同じ水槽にはほかの種類のサメもいるので、赤ちゃんがほかのサメから攻撃されたり、噛みつかれたりする可能性があります。なので泊まり込みもしつつ、必ず誰かしらが水槽のそばにいる状況をつくり、赤ちゃんが生まれたらすぐに水槽からすくい出そうと、ずっと張り付いて観察していました。
24時間体制で出産に臨む
――飼育員たちは片時も目を離さず、母シロワニの状況をつぶさに見守った。そして2021年6月17日、ついにその時がやってきた。
生まれてきたのはお昼に近く、スタッフがたくさんいる時間帯でした。事前に確認した情報では出産直前に母親のおなかと排泄孔から白濁液が出ると聞いていて、確かに出産の数時間前にそれを観察できました。これを受けて「いよいよ生まれる!」となり、大人数のスタッフを動員してしっかり体制を組みました。その甲斐あって、無事に赤ちゃんを水槽からすくい出すことができました。
これは国内初の繁殖例で、海外でもわずか5例とほとんど例がありません。赤ちゃんを絶対に成長させなければいけないと、飼育員が付ききりでエサを与えて、とても大切に育てました。
私自身も生まれる瞬間をガラス越しで張り付いて見ていたのですが、生まれた直後は涙が出るぐらいうれしくて、実は興奮のあまり細かいところはほとんど覚えていないほどです(笑)。水槽の上で待機しているスタッフが赤ちゃんをすくい出してくれるまでは、祈るような気持ちで見ていました。
赤ちゃんがエサを食べない!
――赤ちゃんの誕生は同館にとっても大きな喜びだ。ただ、繁殖例が少ないということは飼育に関する情報も少ないということでもある。
国内では繁殖の成功例がなかったため飼育に関するノウハウがなく、手探りで飼育しなければいけないのが苦労した点です。
生まれて10日間は全くエサを食べてくれませんでした。私たちも心配になって棒の先にエサを付けたものを作り、それを口元まで持っていって匂いを嗅がせたりしたのですが、それでも食べてくれません。10日目になってようやく、アジをひと切れ私の手から食べてくれて、ひと安心しました。エサはイカやアジを与えてみましたが、どうもアジが好きなようです。
誕生時の赤ちゃんの体長は92.2センチ。成体は3.2メートルほどの大きさになるので、比べるとその小ささが分かると思います。その後4カ月ほどで常設水槽にて一般展示を開始し、このときの体長は108.8センチ。さらに誕生から約1年が経過した2022年6月13日の計測では160.5センチにまで成長し、体色も薄茶色からだんだんと濃くなり、成体に近い茶色に変化しました。
今でもエサをちゃんと食べてくれているのか、体調を崩していないのか、細かく注意を払って飼育しています。
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