コーヒーで旅する日本/関西編|日々、新たなコーヒーとの出合いが生まれる、大らかな里山の憩いの場。「Cafe manna」
関西ウォーカー
鋭敏な味覚で多彩な豆の個性を正確に捉えて提案

UFSにいた約2年間で得た経験に加えて、「Cafe mannna」開店後もさまざまな競技会に毎年ジャッジとして参加している長田さん。バリスタといえば、以前は抽出に特化した印象があったが、今では豆のクオリティの判断、すなわちカッピングは欠かせないスキルの一つだ。自店のコーヒーの味作りにも、これまで培ってきた鋭敏な味覚が力を発揮している。
「焙煎の方向性を決めるのは、最終的にカップに淹れた時の味のイメージ。素材のポテンシャルを捉えて、個性的な風味を引き出せるかどうかが一番大事なポイント」と長田さん。豆の品揃えは、インドネシア・マンデリン、インド・モンスーンといった定番人気から、蓮華の蜂蜜のような甘味が印象的なエチオピア・アジェレ、赤ワインを思わせる芳醇な香りを放つメキシコ・アナエロ・ワイニーなどの個性派まで、シングルオリジンが常時15~16種。スペシャルティグレードを中心に、バラエティに富んだ顔ぶれだ。

ただ、スペシャルティコーヒーにまだなじみが薄い土地柄、豆の蘊蓄(うんちく)やスペックよりも、景色を見ながら気軽にくつろぎたいというお客が大半。そこで、飲みやすさを重視して、焙煎度はすべて中煎りの仕上がりに。「焙煎度が同じでも、豆ごとの風味の差は出てくるもの。豆のスペック云々よりは、まずは、その幅広さを感じて、コーヒーを楽しむ入口にしてもらうというのがコンセプト。だから、中煎りに向いた豆が選択基準の一つになりますし、風味の差をよりはっきり分かる“クリーンカップ”を何より大切にしています」
毎月、新しい銘柄が入れ替わるというコーヒーの中には、ミャンマーやコンゴなど聞き慣れない産地の豆もあるが、それもまた興味を引き出すきっかけの一つ。「できるだけ違う種類を味わってもらいたいので、ユニークなキャラクターを持つ銘柄が多いですね。コーヒーのメニュー構成は、毎回入れ替える時に一から味を取って考えていくので、正確に味を捉えて提案していくのは、カッピングの経験が生かされている」と長田さん。この多彩な味の幅をコントロールできるのは、今まで膨大な種類のコーヒーを味わってきた積み重ねがあるからこそだ。

その上で、フレーバーがイメージしやすいように、プレゼンも丁寧な伝え方に腐心する。細かく風味を解説したメニューからも、長田さんのスタンスがうかがえる。「一般的に豆の持ち味に近いフレーバーを伝えることが多いですが、それが酸味、苦味、香りなどの、どこに由来しているかを分かりやすく示すことを心掛けています。例えば、柑橘とかベリーといった言葉をポンと出すのでなく、“こういう要素があるから、このフレーバーになる”という味の組み立てですね。逆に言えば、飲んだ時にはっきり感じ取れる特徴的なフレーバーを持つ豆を提案するようにしています」

幅広い世代の客層に新たなコーヒーとの出合いを演出

盛りだくさんのコーヒーに加えて、メニューには眞由美さんが考案したランチや、長田さんが手作りするスイーツも充実。近隣で採れた野菜を使った、自家製カレーやキャロットケーキを目当てに訪れるファンも少なくない。中でも、店の看板メニューとして人気なのがティラミスだ。小瓶に入ったユニークな一品は、ティラミス世界一を決めるGran Concorso di Tiramisu'日本大会で、コーヒー店として唯一、トップ10に選出。マルサラ酒の代わりに、アルコールを飛ばした白ワインにコーヒー粉を浸け込み、生地自体に香味をまとわせた、芳醇でまろやかな味わいは、もちろんコーヒーとの相性も抜群だ。

店の目の前は、北は丹波、西は三田へと別れる分岐点にあり、斜向かいの道の駅を訪れる行楽客も少なくない。また、サイクリングロードとしても人気で、地元のレーシングチームが走るルートにもなっている。界隈を走る際は、この店でモーニングやランチの時間を組み入れることも多いとか。「チームの方々は開店当初からの常連さんで、今では結婚して家族で来て下さることもあります。時には、母に子育てのことを聞きに来られることもあって、店の一角が育児相談所みたいになっています(笑)」と長田さん。立地選びやインテリアを手掛けた眞由美さんは、介護士の資格も持っていることから、店内は完全バリアフリー。介護施設の方も来てもらえるように、という配慮も随所に行き届いている。

「お客さんの要望に、お応えできることはすべて応えるのが、サービスマンでもあるバリスタの仕事。私のコーヒーを飲みたい思って来て下さる方々に、コーヒーの楽しみを見つけていただければ」と長田さん。幅広い世代の人々を大らかに迎えいれる里山の拠りどころでは、日々、個性豊かなコーヒーとの出合いが生まれている。清々しい空気と緩やかな時間に抱かれながら、自分好みの一杯をあれこれ思案するのもまた一興。街なかとは一線画した、贅沢なカフェタイムを味わうためなら、ここまでの道のりも決して遠くはない。

長田さんレコメンドのコーヒーショップは「Knopp」
次回、紹介するのは大阪市の「Knopp」(クノップ)。
「店主の吉田さんとは、JBCで選手として何度も顔を合わせるうちに、親しくなっていった間柄。彼女はうちのカレーが好きで、今もお互いの店をよく行き来しています。昨年はコーヒーカクテルの競技会、コーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップで、7年越しの優勝を獲得。技術もさることながら、目を見張るのはレシピの発想。焼茄子とコーヒーの取り合わせなど、創造の上を行く素材使いと、それをまとめあげる力はずば抜けています」(長田さん)
【Cafe mannaのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 1キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/中煎り
●テイクアウト/ あり(580円~)
●豆の販売/シングルオリジン15~16種、200グラム1080円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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