コーヒーで旅する日本/関西編|汲めども尽きぬ創意で、無限に広がるコーヒーとスピリッツのシナジーを追求。「Knopp」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

あまおう苺のレアチーズケーキ×コロンビア・インマクラーダ・ゲイシャと赤ワインのホットカクテル・ペアリングセット(2000円)。カクテルの熟した果実味とフローラルな香りが、乳製品の酸味との出合いでより鮮やかに


関西編の第56回は、大阪市中央区の「Knopp」(クノップ)。店主の吉田さんは、果物や野菜、時に肉や魚介まで、生の素材を合わせたカクテルの新潮流・ミクソロジーをコーヒーの世界に取り入れた“コーヒーミクソロジスト”の第一人者。2022年には、コーヒーカクテルの競技会・ジャパン コーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップ(JCIGSC)で初優勝を飾り、コーヒーカクテルのさらなる可能性を日々、追求している。前回登場したCafe mannaの長田さんも感嘆した意想外のイマジネーションで、次々と新たな味の扉を開く吉田さんに、コーヒーカクテルの醍醐味をうかがった。

店主の吉田さん


Profile|吉田奈央 (よしだ・なお)
1983(昭和58)年、三重県生まれ。学生時代にジャズボーカルとして活動し、卒業後、大阪のジャズクラブで勤務する中で、お酒の魅力に触れてバーテンダーに。カフェ&バーの開業を目指し、難波のカフェ・シェーカーズカフェ ラウンジでバリスタの仕事も並行。在籍中にアメリカのSCAA展示会で当時、最新のコーヒーシーンを体感したことで、本格的にバリスタに転身し、2013年に「Knopp」をオープン。競技会にも毎年出場し、2022年、コーヒーカクテルの競技会・ジャパン コーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップ(JCIGSC)で優勝。

ミクソロジーとの出合いでコーヒーの新たな楽しみを開拓

カウンターは、赤い壁の色が空間のアクセントに

近年、カクテルの世界で広がりを見せている、“ミクソロジー”という言葉をご存知だろうか。ロンドン発祥のミクソロジーは、フレーバーシロップなどを一切使わず、フレッシュな食材の風味を生かしてレシピを構築。果物や野菜、香辛料やハーブ、時に肉や魚まで使う、新感覚のカクテルとして世界的に注目を集めている。「ミクソロジーを初めて体験したのは、NYのバーテンダーが大阪でセミナーをした時、バーボンにベーコンの肉汁を合わせるベーコンバーボンを飲んで、料理に近い自由な発想が新鮮で、感銘を受けました」という店主の吉田奈央さん。関西でいち早くミクソロジーの手法を取り入れ、コーヒーと融合させた“コーヒーミクソロジスト”として、新たな可能性を追求してきた第一人者だ。

バリスタとして20年近い経験を持つ吉田さんだが、実は、元々はバーテンダーとしてキャリアをスタート。その道へ進むきっかけとなったのは、音楽だった。学生時代、ジャズのボーカルとして活動していたことから、「仕事をするなら、音楽に関われる場所がいいなと考えていました」と、大阪のジャズクラブで働き始めた。ここで身につけたスピリッツの知識やカクテルの技術が、今に至るベースになっている。

バックヤードにはカクテルのベースとなるスピリッツがずらり


ただ、「いずれ店を持つとしたらバーを想定していましたが、昼も営業できる店にしたいと思って。それなら、コーヒーが必要だなと考えたんです」と吉田さん。そこで、当時、大阪の商社が手掛けていたカフェ・シェーカーズカフェ ラウンジに、バリスタとして入店。昼はカフェ、夜はバーを掛け持ちし、寝る間も惜しんでスキルアップに取り組んだ。お酒とコーヒー、二刀流で経験を積む中で、コーヒーの世界へと大きく傾倒する転機となったのが、カフェのスタッフとして訪れたアメリカ視察だった。「カフェの母体が商社だったこともあり、アメリカで開催されるコーヒー業界の展示会・SCAAを訪ねて、当時の世界のコーヒーシーンを目の当たりにしました。まだ日本では浅煎りのスペシャルティコーヒーはほとんどなかった頃、現地で飲んだ驚くほど酸っぱいコーヒーに衝撃を受けて。帰国後、カフェで使う豆を現地から取り寄せてもらったり、この時を境にコーヒーにのめり込んでいった」と振り返る。

その後は、バリスタの競技会にも参加し、コーヒーを使って独自のアレンジを施したシグネチャードリンクの制作も経験。「アルコールのある・なしが違うだけで、シグネチャードリンクもカクテルの一種。コーヒーにミクソロジーを組み合わせようと考えたのは、自然な流れでした」という吉田さん。当時、ミクソロジー自体がまだ日本ではなじみのないものだったが、吉田さんにとって、コーヒーカクテルが作りたいという気持ちは日に日に大きくなっていくばかり。「自分がやりたいことをするには、独立するしかない」との気持ちに押されるように、2013年、「Knopp」をオープン。以来、コーヒーミクソロジストとして、新たな道を拓いてきた。

意想外のイマジネーションから生まれる魅惑の一杯

「時間と共に変化するコーヒーのアロマも楽しみの一つ」と吉田さん

もちろん、カフェ&バーとして開いた店には、ランチやスイーツ、コーヒーやドリンクもそろえるが、メニューの筆頭に来るのは、8~9種を時季替わりで提案しているコーヒーカクテルだ。「一番意識しているのは、素材の旬。日本独特の考え方ですが、食材だけでなく、コーヒーにも旬があるので、一番フレッシュな組み合わせを表現したい」と吉田さん。京都府長岡京市のスペシャルティコーヒー専門店・Unirから仕入れる豆は週ごとに入れ替わり、マイナーチェンジやアドリブを加えつつ、その時季限りの出会いの妙を作り上げるのが、腕の見せ所だ。その味合わせのベースは、コーヒーのフレーバーから考えるという。「今は、コーヒーの個性がどんどん広がっているから、発想も広がる。それをお客さんの目の前でプレゼンしながら出せるのが魅力。バリスタをしていてよかったと思える瞬間ですね」

「もっと自由にコーヒーを楽しむきっかけに」と考案した、味くらべ珈琲プリンセット(715円)は、開店以来の人気メニュー。2種のシングルオリジンは時季ごとに替わる


多種多彩な素材を取り合わせる、その発想の広がりはまさに縦横無尽だ。例えば、ある時は、果実味豊かなエルサルバドル・モンテシオンのコーヒーには、瑞々しい桃の甘味と凍頂烏龍茶の清涼感、さらに中国の花椒のスパイシーな香りを乗せて、華やかなオリエンタルテイストに。またある時は、ブラジル・バウーのコクのある香味には、同じブラジル産カカオ果肉とパインの甘酸っぱさを合わせて、共に果実であるコーヒーとカカオを新たなフルーツとして提案。鮮やかに響き合うアロマとフレーバーの広がりに、思わず引き込まれる。

「コーヒーカクテルは香りが大事。時間と共に味も移り変わり、最初のアロマから後味の鼻に抜ける余韻、さらに温度が上がるとコーヒーのアロマも出てきて。味の扉を次々に開けていく感じ」と吉田さん。斬新な取り合わせに目が行きがちだが、妙なる風味の競演は、ベースとなるエスプレッソの正確な抽出があってこそ。コーヒーのプロが手掛けるからこそうまれる一杯は、飲むほどに次々と新たな味わいが現れる稀有な体験で、お客を魅了している。

JCIGS2022で7年越しの優勝を実現。世界大会でも活躍が期待される


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