コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーを通して素晴らしいつながりが生まれる場を目指して。「GRANKNOT coffee」が続ける“深化”と“進化”

関西ウォーカー

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持ち前の“深化の気性”で一杯の口福をとことん追求

カフェラテ600円。左右対称に描かれた精緻なラテアートが、芝野さんのこだわりを体現

試行錯誤を重ねながら、芝野さんが店を構えた大阪の堀江は、心斎橋・アメリカ村の西側にあって、古くから家具の街として知られたエリア。一時は寂れた界隈だが、90年代に当時、注目のセレクトショップやインテリア・雑貨店が相次いでオープンし、一躍、大阪のトレンド発信地へと様変わり。折しも、カフェブームの真っ只中にあって、話題のカフェも続々と登場し、現在でも感度の高い店が集うエリアとして定着している。

「店のテーマは、“Good taste , tastes good”(趣味がよくて、おいしい)。アパレルの仕事を経験していることもあり、メニューがおいしいことはもちろん、おしゃれな場所で楽しんでもらうことを大事にしているので、店の立地は意識しました。堀江は街の気質が好きで、よく買い物に来ていましたが、出店した頃は堀江の勢いが一回下火になったときで、周りにコーヒースタンドもなかったので、そのときはちょっと勇気がいりましたね」。いまや、多くのマイクロロースターやスタンドが点在する界隈にあって、「GRANKNOT coffee」は先駆け的な存在でもある。

ドリッパーもさまざまな形状を試し、現在は上部にハリオのMUGEN、下部に同社のスイッチが合体したカスタム器具を使用


「カフェのようにデザートや軽食をいろいろ置くと、どうしてもコーヒーが脇にいってしまう。あくまでコーヒーを主役に楽しんでもらえる店に」と、創業以来、メニューはほぼコーヒーオンリー。なかでも、21グラムから23グラムと贅沢に豆を使い、旨味と香味がギュッと詰まったリストレットで提供するエスプレッソは、店の顏だ。「どんなにトレンドが変わってもエスプレッソは深煎り一本。当初、ブレンドに配合していたロブスタこそ、今は使っていませんが、本場イタリアの味をイメージしています」と芝野さん。ぽてっとしたクレマから立ち上る分厚いアロマ、どしっとしたボディ感は、思わず目が覚める一杯だ。

エスプレッソS300円・W350円は、砂糖をどっさり入れて、凝縮したアロマを楽しんだあとは、溶け残った砂糖も残さず味わいたい


カフェラテにすると、エスプレッソの芳香がミルクの甘味と溶け合い、まろやかなコクとビターな香味の余韻が後を引く。「ラテのデザインは常に同じ柄、自分が一番きれいに描ける1種類に決めています。複雑さを追求するあまり、味が損なわれては本末転倒。あれこれ絵柄を変えるとブレてしまうので。その代わり、判を押したように同じ形に描くことを心掛けています」。ラテアートも今や当たり前になったが、シンプルな柄でも精度を突き詰めると、一朝一夕でできるものではない。正確に描かれた柄は、安定した味わいの証。ここにも、芝野さんの“深化の気性”が発揮されている。

ドリップコーヒー550円~はオリジナルのマグでたっぷりと。ホームメイドブラウニー280円


初心を忘れず新鮮な気持ちで、常に刺激がある店に

定番のブレンドは、ドリップ用、アイス用、エスプレッソ用と、用途に合わせて提案

また、開店当初は、府内で深煎りに定評のあるロースターから豆を仕入れていたが、2018年から自家焙煎に切り替えた。「仕入れるとなると、どうしても細かいニュアンスまで伝えきれない部分もあり、原料から味をコントロールしたいという思いが年々強まってきて。今は自分のイメージを元に焙煎の仮説・検証を重ねて、毎日飲んでもおいしいと思える豆を吟味しています」と芝野さん。3種のブレンドを中心に、年に1,2回は個性の際立つシングルオリジンを提案。変化をつけることで逆に、定番の味の魅力を再認識してもらいたいとの思いもある。

堺市の浜寺公園にオープンした「BATON coffee & pastries」


これまで、焙煎機は懇意の店に間借りの形で置かせてもらっていたが、2023年、堺に待望の焙煎所を開設。奥様が手掛ける菓子の工房・販売スペースも併設した、新ブランド「BATON coffee & pastries」として展開する。「新しい店があるのは、海に面した浜寺公園のパークサイド。今の店が街なかにあるので、次にやるなら外に自然の眺めが広がる場所で、自分たちができる範囲で携われる、家族経営的なスタイルをイメージしていました。自分が子供の頃、喫茶店で両親を見ていたように、家族にもモノづくりをしている姿を見てほしいという思いもあります。コーヒーでなくてもいいけど、いいものを作ったら人に喜んでもらえる、というのが伝わったらうれしいですね」

「最近は豆の卸も増えていて、常に安定したクオリティで提供することも、新しいチャレンジの1つ」と芝野さん


ロースターとしての拠点ができたことで、堀江の店を離れることも多くなったが、それゆえに逆に愛着が増したという芝野さん。「堺にいることが多くなったなかで、ここに戻ってくると改めて、“この場所が好きだな”と思える自分に気付きました。店を10年続けてきた今、次の10年を続けることがいかに難しいか、よくわかります。これからも、オーセンティックなスタイルに敬意を払うと同時に、今の時代に求められるものも取り入れてアップデートしていきたい。いつ来ても新しい部分がある、刺激を感じられる店にできれば」。

長年、コーヒーに向き合いながら、「今でも飽きることはない」という尽きぬ探求心は、変化を求めながらも初心を失わない、謙虚な姿勢の賜物だ。「コーヒーを出すときは、実はいまだに緊張します。今も、開業して最初の一杯目を出した時と同じ気持ちを持ちながら、新しい器具を試したり、浅煎りの焙煎にもチャレンジしたり、新しい試みを続けています。だから、開店当初から自分のスタンスは変わってないですね。これからも人のつながりを大切に、相変わらず一杯のコーヒーにありえないほど熱意を注いでいると思います」

GRANKNOTは“素晴らしいつながり”の意


芝野さんレコメンドのコーヒーショップは「THE INY COFFEE」

次回、紹介するのは、奈良県葛城市の「THE INY COFFEE」。
「店主の稲田さんは、大阪・心斎橋でバリスタとして働いていた頃に、よく店に来てくれていたお客さんの一人。お互いエスプレッソが好きで、理想とする味の傾向も近くて、独立してからは店作りについて相談することもあります。カメラマンとしても活動しているだけに、センスと人柄のよさは折り紙付き。のどかな葛城山麓という立地と、スタイリッシュな店構えのギャップにも、彼のキャラクターが出ていて、開業時から応援している一軒です」(芝野さん)

【GRANKNOT coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバトーン 5キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ・ムゲン+スイッチのカスタム)、エスプレッソマシン(シネッソ)
●焙煎度合い/中浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド3種、シングルオリジン3種、100グラム800円

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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