ブームでは終わらない!?空前のサウナブームはどうやって起きたのか?
東京ウォーカー(全国版)
タナカカツキ氏の「サ道」がきっかけで広がった現在のサウナブーム、キーとなったのは水風呂

スーパー銭湯は郊外を中心に定着し、その数を増やしていった。身近な癒やし施設として幅広い年齢層に支持される。そこに今のサウナブームのきっかけとなる出来事が起こる。タナカカツキ氏の「サ道」だ。2016年に発表した「サ道 心と体が『ととのう』サウナの心得」(講談社)のエッセイのことだが、実は「サ道」(パルコ)が刊行されたのは2011年。タナカ氏がサウナにはまっていく過程をエッセイとイラストで記したもので、これに加筆して刊行されたのが「サ道 心と体が『ととのう』サウナの心得」。さらに「2019年、テレビドラマとして『サ道』(テレビ東京)が放映されたことで、特に若年層を中心にサウナが広まり、昭和サウナの“サウナはおじさんが行くところ”というイメージを払拭。現在のサウナブームのきっかけになりました。タナカカツキ氏は日本サウナ・スパ協会が公式にサウナ大使に任命し、サウナの本場フィンランドやラトビア、リトアニアへの外交など、漫画家でありながらサウナ・水風呂の素晴らしさを世に知らしめる広報大使としても活躍しています」(若林氏)。

タナカ氏が「サ道」で注目したのは水風呂の存在。いわゆる昭和サウナにも水風呂はあったが、あくまでサウナの付属品。熱いサウナには冷たい水風呂があったらいいといった具合。タナカ氏はこの水風呂の存在こそがサウナの醍醐味だと示した。「日本サウナ・スパ協会では昭和の時代から、サウナ(8~12分)→水風呂→休憩という入り方を提唱していましたが、水風呂の良さにフォーカスしたのは『サ道』だと思います。“サウナの後の水風呂は気持ちいい”と。またこのころから世界的にもサウナブームが起こり、都市型のスタイリッシュなサウナや移動可能なモバイルサウナ、自然を感じるネイチャー系サウナなど、さまざまなスタイルの新しいサウナが増えてきました。日本でもちょうどアウトドアブームとなり、キャンプ場にサウナを導入したり、テントサウナや、水風呂代わりに自然の川や海に入ったり、冬場に雪の中に飛び込んだりする新しい楽しみ方が出てきました」(若林氏)。こうした複合的な要素が絡んで今のサウナブームは躍進していった。

今のサウナブームのキーとなったのは水風呂だと若林氏は話す。実際、サウナ好きの中には「水風呂のためにサウナに入る」、「水風呂がメイン」という人も少なくない。水風呂はただ水を溜めた浴槽ではなく、例えば地下水や天然水、軟水、温泉などを使用し水の質にこだわったり、冷却装置を使って一定の水の温度を保ったり、ひとつのサウナ施設内にタイプや温度の異なる水風呂を数種類設置したり、水風呂に力を入れて工夫している施設も増えてきた。そして水風呂のあとの休憩。これも今のサウナでは大切な要素。サウナでしっかり温まってから入る水風呂にこそ、サウナの良さがあるとし、その後に休憩をとることでしっかりとリラックスできる。それを実感した人たちがサウナにハマっていったと思われる。
昭和のサウナブームにはなかったサウナの新しい魅力

さらにサウナストーブの上にあるサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる「ロウリュ」や、タオルなどを使ってその蒸気を撹拌したり、風を送ったりする「アウフグース」、白樺などの枝葉を束ねたウィスク(ヴィヒタ)を使ってマッサージを行う「ウィスキング」など、“昭和サウナ”にはなかった世界のサウナの文化が融合しているのも今のサウナブームの特徴。サウナ室の中で頭や髪を熱から守る「サウナハット」が一般的になり、ファッション的な面でも人気となったり、サウナ施設や銭湯が多彩なオリジナルグッズを作ったりするようになったのも今のサウナブームならでは。

スタイリッシュなデザインの施設や、アウトドアで楽しむサウナや自分のペースで楽しめる個室サウナなど、楽しみ方の幅も広がりつつある。しかし、興味のない人もまだまだ多く、いまだにサウナを敬遠する人も少なくない。もちろんすべての人がサウナを受け入れることはないだろうが、サウナを知らなかった人や体験したことがない人が多いということは、今後サウナを好きになっていく人が増える可能性があるということでもあると思う。ではサウナは今後どうなっていくのか。

「中高年男性のものというイメージはかなり薄まってきて、サウナ好きの幅は各段に広がっていると思います。各施設がより利用者を楽しませるように、癒やせるようにさまざまな工夫をしているのも大きく、また、利用する側もSNSなどでサウナのよさ、施設のよさを発信し共有することでさらなる広がりを見せています」(若林氏)。今後サウナがどのようになっていくのかは、もちろんはっきりとしたことはわからない。しかし、昭和の時代から続いていたサウナがなくなることはないだろう。

よく例えられるラーメンやカレー。もともとは日本発祥のものではないが、日本で独自の進化と発展を遂げて、今や日本を代表する“日本グルメ”となった。サウナも同様に、すでに諸外国にはない日本独特の進化と発展を続けている。ここ数年で新たに誕生した施設は唯一無二の特徴ある個性派がそろい、サウナも多様化の時代に突入。これまでなかった新しいサウナができる一方、昭和サウナを愛する層のための施設も残っていて、自分に合ったサウナを見つけたり、さまざまなタイプのサウナを試したりといった、以前にはなかったサウナ体験もできるようになった。
ブームは遅かれ早かれ終わっていく。しかしブームが文化となればすたれない。日本のサウナが日本ならではの文化となって根付いていくことを、いちサウナ好きとしては切に願う。
取材・文/岡部礼子
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