コーヒーで旅する日本/四国編|コーヒー界のレジェンドの薫陶を胸に一意専心。四万十川源流点の町で清らかな一杯を。「コーヒー7不思議」
東京ウォーカー(全国版)
いつか実現したいオリジナル器具の開発

「今はコーノ式=濃いというイメージが強いですが、ほとんど誤解されていると思います。濃く見えるけど、苦味にも酸味にも甘さを感じて、飲みやすいのが本来の味わい。濃い=純良成分が濃いと言う意味で、灰汁を含むすべての成分で濃いのとは全くの別物で、大事な部分が切り取られています。以前、故・河野敏夫会長が淹れたコーヒーを飲んだときは、極端に言うと眠くなるというか、温泉に浸かったみたいな温かさに満たされる感覚がありました。その味を舌で記憶している人はいまや数少ない。自分の体に染みこんだ、故・河野会長と現社長、それぞれのコーヒーに対する“イズム”は、当時のまま変えないようにしています」。まさに老舗の正統を体現する味わいに、今では、“本来のコーノ式のコーヒーを飲むなら高知に行くしかない”という声もあるほどだ。
開店当初は、「小舟で大洋に漕ぎ出したような気分」だったという山本さんだが、2023年には、開店して10年の節目を刻んだ。最初のころは、“モーニングないの?”、“ランチもないの?”という声が多く、客層が定まるのにおよそ2年。半分程度の来店客はお断りしていたそうだが、今では海外からも来店があり、高知では知る人ぞ知る存在となっている。「今は好きな釣りもいけないくらい、忙しくなりました。店はお客様とのキャッチボールだと思います。コーヒー好きの方とは延々と話ができる。初めて会った気がしないですね」。そう笑う山本さんは、見ず知らずだったこの地で、意外な縁も発見している。

明治時代、日本の第1回ブラジル移民団長を務め、帰国後、全国にコーヒーを広めたカフェーパウリスタの創業者・水野龍の出身地が、隣の佐川町だったというのだ。「寄り合いに出席したとき、近隣のおばちゃんの口から、普通に水野龍の名前が出てきてびっくりしました。隣町の佐川町には顕彰碑もあって、コーヒーのイベントを開いたり、水野龍のお孫さんを高知ファイティングドッグスという野球チームの練習生として迎え入れるなど、現在でも交流が続いています」。高知県のあちこちで見られるイペーという黄色い花を咲かせるブラジル原産の樹木は、当時の移民が持ち込んだものだという。日本のコーヒー史に残る偉人とこの店の不思議な縁は、ひょっとすると偶然ではなかったのかもしれない。
ところで、そんな数奇なつながりにもまして不思議なのは、この店の屋号。「コーヒーはいまだにわかってないことがいっぱいあります。師匠がコーヒー研究家だったこともあって、一つでも解明したいという思いを今も持っています」という山本さんは、実は以前からコーヒーの焙煎よりも、器具の開発への強い思いを秘めてきた。「珈琲サイフオン株式会社でも試作品などをいっぱい見てきましたから、器具のアイデアはめちゃくちゃいっぱいあります。前職では叶わなかったけど、自分でオリジナルの器具を作ってみたいですね」
いつか、この店が“ヤマモト式”器具の源流となる日を楽しみに待ちたい。

山本さんレコメンドのコーヒーショップは「ふるーと」
次回、紹介するのは、徳島県の「ふるーと」。「50年ほど続いた喫茶店を、若い2代目夫婦が、8年前にリニューアルして継承されました。高知県の出身だそうで、うちの豆を使いたいと訪ねてこられて、以来、ずっと使ってもらっています。まだお店には行けてないのですが、リニューアルをきっかけに、界隈でものすごく人気を得て、今は予約制で営業されているユニークな純喫茶です」(山本さん)
【コーヒー7不思議のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル5キロ(直火式・コーノ式改造仕様)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)
●焙煎度合い/浅~極深煎り
●テイクアウト/あり(690円~)
●豆の販売/ブレンド3~5種、シングルオリジン1~2種、100グラム690円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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