女子サッカーチームが担い手不足の棚田を守り、国際芸術祭を運営。日本唯一の取り組みをするFC越後妻有を支える選手と住民の絆
東京ウォーカー(全国版)
新潟県越後妻有地域で、2000年から開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」。越後妻有の広大な土地を活用し、トリエンナーレ期間以外も1年を通じてアートの展示を行っている。十日町市・津南町とともにその運営を担うNPO法人越後妻有里山協働機構は、担い手不足の棚田の保全を目的とした「まつだい棚田バンク」など地域おこしに取り組み、2015年には実業団チームのFC越後妻有が誕生。そこで今回、女子サッカー選手×農業×アートという日本初のプロジェクトに注目し、メンバーの藤井円香さん、三井愛里沙さんに話を伺った。
「本当にやりたいこと」を叶える場所
──まず、FC越後妻有に所属することになった経緯について、それぞれ教えてください。
【藤井さん】大学4年生になったタイミングで新型コロナが流行して、就職などへの不安が大きくなる中、自分が本当にやりたいことを見つめ直したんです。それで、高校で3年間やっていたサッカーをやりたいという気持ちに気づきました。FC越後妻有のことはSNSで知って、農業の経験はありませんでしたが、知らない土地で知らないことに挑戦するのもいいかなと思い、連絡をしてみました。
それで大学4年生の夏に一度、練習へ参加したのですが、そのときに地域の方が差し入れの甘酒を持って、ねぎらいにきてくれているのを見て、すごく温かい地域だなと感じたんです。これまでの生活でご近所付き合いみたいなこともあまりなかったので、そこに魅力を感じて2021年から所属しています。
【三井さん】私はもともと隣県の富山県でクラブチームに所属していたんですが、北信越女子サッカーリーグでFC越後妻有と対戦したんです。そのときに、おじいちゃんおばあちゃんが応援している様子や試合中の雰囲気がよくて印象に残っていて。学生が多いクラブチームではなく、同年代の社会人と一緒にサッカーができるところもいいなと思い、2025年に入団しました。
──藤井さんは入団して初めて農業を経験したということですが、やってみていかがでしたか?
【藤井さん】4月に入社したときにはまだ雪が積もっていて、最初の仕事は田んぼの除雪をすることでした。それから春になり、田植えの時期を迎えて作業していく中で、普段食べているお米がどうやって作られているのか、あらためて学ぶ機会になりました。
また、力仕事が多くて、最初の頃は30キログラムの米袋を運ぶのもなんとか…という感じでした(笑)。でも、今では30キログラムの米袋を何個も運べるようになって、体づくりやトレーニングにもなるのでいいなと思っています。
──現在は美術館チームということで、今は農業よりそちらのお仕事がメインですか?
【藤井さん】最初は農業チームとして農業を専門にやってたんですけど、だんだんと「まつだい棚田バンク」の事務局を担当するようになって、今はそれがメイン業務です。秋には「まつだい棚田バンク」の会員の皆様に収穫したお米をお届けするんですが、その米を詰める作業や田植え、草刈りの時期は農業チームのメンバーと一緒に作業しています。
──三井さんは富山県のご出身ですが、農業は身近でしたか?
【三井さん】富山では介護職に就いていまして、農業には全く関わったことがなくて。やっぱり30キログラムのお米ってすごく重いなって思いましたし、あと、服もすごく汚れるので、最初はそういうことも気になっていました(笑)。
初めての農業もトレーニングの一環に
──1日の流れでいうと、農業チームの三井さんと美術館チームの藤井さんとでスケジュールは異なるのでしょうか。
【三井さん】スケジュール的には同じですが、作業内容が違います。9時にみんなで朝礼をしたあと、私は12時のお昼休憩を除いて、練習が始まる15時まで田んぼにいます。
【藤井さん】私は9時から15時まで、事務所で事務作業をしているという感じです。
──15時から何時間くらい練習されているんですか?
【三井さん】チームでの練習は18時ぐらいまでですが、そこから自主練やストレッチダウンに入って、だいたい18時半頃までグラウンドや体育館にいる感じです。
──ちなみに現在のチームの人数やそれぞれのお仕事はどういった感じなのでしょうか?
【三井さん】現在のメンバーは5人です。農業以外の業務としては、「大地の芸術祭」の作品のメンテナンス、ツアーガイド、企画販売などツアーの運営、美術館やレストランの運営を地域の方にお手伝いいただきながらやっています。
そのほか、雪まつりなどのイベントに呼んでいただき、地域の方との雪上サッカーを通してスポーツを普及したり、地元の人が健康に暮らせることを目的としたプロジェクトとして毎月1〜2回体操教室を開催したりしています。
──サッカーをきっかけに始めた農業ということですが、やりがいについて教えてください。
【藤井さん】ちっちゃい芽が出て、それが稲に成長した姿を見るとすごくうれしいですね。「まつだい棚田バンク」では年に3回、農作業イベントを開催していて、春は田植え、夏は草刈り、秋には稲刈りをやっているんですけど、農業をやったことがない関東からのお客さんが多いんです。そんな方々と一緒に農作業をしながら、農業や食をきっかけにこの地域の魅力を知ってもらえることがすごくいいなと思っています。
地元の人の家族のような温かさが魅力
──越後妻有の魅力をあげるとしたら、どんなところですか?
【藤井さん】冬は4メートルぐらい雪が積もったりして大変ではありますが、それを含めて季節を感じることができます。それに、やっぱり人の温かさですね。地域のお父さん、お母さんたちがまるで家族のように接してくれるんです。環境だけじゃなく、ここに暮らす人たちもとても魅力的だと思います。
【三井さん】私もやっぱり人の温かさが魅力的だと思います。「まつだい棚田バンク」のイベントも地域のおじいちゃんたちが手伝ってくれるのですが、「こうやってやるんだよ」とかいろいろと教えてくれて、本当に家族みたいだなと思います。
──方言が難しくて大変だった、みたいなことはなかったですか?
【藤井さん】今でもそうです。5年経ちますけど、まだ「え?」って聞き返しています(笑)。
──お話を伺っていると、「知らない土地で、地域になじめなくて悩んだ」といったことは全くなさそうですね。
【藤井さん】もう、地域の皆さんのほうからグイグイと(笑)。
【三井さん】気づいたら巻き込まれてるような感じです(笑)。練習中にグラウンドから地域の方の姿がけっこう見えるんですけど、向こうから手を振ってくれたり、練習中に野菜を持ってきてくれたりとか、支えられているなと思います。
──農業がトレーニングにもなるというお話がありましたが、食も体作りに欠かせないと思います。この地域で食べて印象に残っているものはありますか?
【藤井さん】見たことがないくらい大きな瓜を差し入れでいただいて。それが金糸瓜(そうめんカボチャ)だったんですが、初めて食べたときはシャキシャキした食感に驚きました。今では夏の定番になっています。
【三井さん】私は、移住して初めてイノシシのお肉を食べました。地域の応援してくれている方からの差し入れで、すごく大量にいただいてみんなで焼肉にして食べました。においが気になるのかな?と思っていたけど、全然そんなことはなくおいしかったです。
──いわゆる一般企業のチームとの違いやFC越後妻有の特徴を踏まえて、入団してよかったと思うのはどんなところでしょうか?
【三井さん】一般企業だとスポンサーの元で18時くらいまで普通に働いて、その後19時から21時まで練習…というようなスケジュールだと思うのですが、このチームはサッカーも業務の一部なので、練習時間を含めて18時に終業するようなスケジュールなんです。それはほかのチームと違っていいところだなって思います。
【藤井さん】同じNPOの中で働いているので、サッカー以外の場面でもお互いが何をしているかわかっていて、大変なときにフォローし合えることで、距離が近くなるのがいいところですね。それがプレーにも還元されていると思います。
──FC越後妻有の一員として掲げている目標や叶えたい夢について、それぞれお聞かせください。
【三井さん】「おじいちゃんおばあちゃんを笑顔にする」ということを掲げて活動していまして、北信越リーグに優勝し、皇后杯本大会への出場を目指しています。
──たくさんの魅力があるFC越後妻有ですが、アピールポイントとしてどんなところを見てもらいたいですか?
【三井さん】試合での応援に注目してもらえたら楽しいと思います。地元の方が作ってくれた曲があって、方言が入っていたり、ギターで演奏したりと、独特な応援歌なんです。しかも毎年新作が生まれていて。本格的なサッカーファンには邪道だと思われるかもしれないけど、私たちからしたら、その気持ちがとてもうれしいです。サポーターは60代以上の方が多いんですけど、その年代で新しいことを始める姿というのは私たちの支えや力にもなっています。
──FC越後妻有の皆さんが地域の方の刺激にもなっているんですね。お互いにいい影響を与え合って相乗効果が生まれているのかなと感じました。
【藤井さん】富山県や長野県、石川県など県外まで、サポーターのおじいちゃん、おばあちゃんたちが車に乗り合わせて全試合を見にきてくれるんです。いろんな場所に仲間と一緒に行けることも楽しみにしているそうで、FC越後妻有を応援するのが生きがいだと言ってもらえるのがうれしいですね。
取材・文=大谷和美
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