コーヒーで旅する日本/四国編|たった一度の“会心の焙煎”が誘ったコーヒーの深淵。手間と時間が醸す深煎りの真価を求めて。「手焼珈琲RODAN」

東京ウォーカー(全国版)

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初心を呼び起こした深煎り・ネルドリップの醍醐味

アイス珈琲は濃度を保つため、氷の上で回して間接的に冷却

通信販売を機に、豆の販売は増え始めたが、「だんだん焙煎がワンパターンになってきて、気づいたら焙煎が浅煎り気味になっていました。そのほうが売れるからですね。このころは、初めて土鍋で焼いた、あの“会心の豆”を再現しようという気概を失いかけていました」と西口さん。そんな折に、従二さんの墓参を兼ねて訪ねた札幌で、忘れていた初心を呼び起こされる。「札幌の老舗・宮越屋珈琲で飲んだコーヒーに衝撃を受けまして。いわゆるローカルチェーンですが、スタッフ誰もが高いクオリティで抽出し、多くの人に深煎り・ネルドリップの魅力を広めているのを見て、自分が情けなくなった。まだ師匠に恩返しができてない、と忘れていた気持ちを思い出しました」
 
ここから心機一転、2017年、松山に姉妹店「rodan caffe 柳井町店」を開店し、喫茶を再開。すでにスペシャルティコーヒーが広まっていたころ、従二さんとの出会いを機に追求してきた深煎り・ネルドリップは少数派。「そこで焙煎度を再び深煎りに戻したら、お客さんが半分くらい減りました(笑)。でも、“もっと深く、もっと深く”が口癖だった師匠に倣って、苦味のない甘いだけのコーヒーを迷わず目指そうと思いました」。

アイス珈琲800円は銅に漆と金箔を塗ったカップで。冷やすことで香味が冴え、後味の甘さもキレを増す。底が透けて見えるよう氷のサイズも計算されている


豆はブレンド3種のみ。創業以来の定番、深煎りのフレンチ、中深煎りのソフト、後にNミックスが加わった。「“N”は常連さんのイニシャルから取ったもの。いつもフレンチ7:ソフト3の配合を注文されていて、いわばブレンドのブレンド。自分でも試してみたらこれがおいしくて。店でも出すようになったんです」

喫茶で提供する際は、豆はすべてフレンチを使用。25グラム・100ccのロダン、30グラム・100ccのクラシック、30グラム・60ccのデミタスと濃度を変えて提案する。さらに、銀座の老舗カフェ・ド・ランブルの名物、琥珀の女王をアレンジしたエヴァンス珈琲は、50グラム・40ccで低温抽出。エバミルクの代わりに生クリームを浮かべるのが「RODAN」流だ。また、シェーカーを氷の上で回して冷やすアイスコーヒーは、福岡の名店・珈琲美美のスタイル。鉄瓶で沸かす湯も、茶会で釜の白湯のまろやかさを感じて以来、使い出したもの。「おいしくなるなら、何でもやります」と、よいものはどん欲に取り入れ、味作りに活かしてきた。

クラシック珈琲は貴重なアンティークカップで提供


手間ひまかけた一杯を待つ時間が作る味

細やかな工夫と繊細な仕事ぶりに加えて、西口さんが大切にしているのが、手間と時間だ。「コーヒーを淹れる=手仕事だから、なるべくアナログの道具を使うようにしています。手間をかけた一杯を、待つ時間が味を作るというのを伝えていきたい。たとえば、うちのカフェオレは、できるまでに15分はかかるけど、このプロセスも込みでレシピであり、味のうち。今ならもっと早く作る方法はいくらもあるが、だからこそ、時間をかけて作ろうとしているところもあります」

その言葉には、日本で生まれたネルの文化をなくしたくないという思いもにじむ。「昔の人が、コーヒーの甘さを追求してきたことを、若い人が知らないのはさびしい。これを残すのが使命のように思う。師匠からのバトンを誰かに渡せれば」と西口さん。喫茶を再開した時から、求める味に到達するまで、自分からはやめないと決めている。創業から一貫して、自作の焙煎機を使い続けているが、一時はメーカーの焙煎機の導入を考えたこともあった。それでも、「これに慣れてしまったら変えられない。それに、歴代の焙煎機を制作してきたことが、すごく勉強になった。排気・吸気の仕組みの重要性とかは、実際に仕組みを作ったからわかること。すごい遠回りしてますけどね(笑)」と苦笑する西口さん。ただ、自身の手で積み重ねてきた、一見、遠回りの時間もまた、西口さんのコーヒーの味のうちだ。

「rodan caffe 柳井町店」の店内。ヴィンテージ家具のセレクトにもセンスが光る


開店時から歩みを共にしてきた、奥様のさつきさんは、「RODAN」の味の歴史を知る、西口さんにとっての味作りの羅針盤だ。「同じ人が飲み続けて変化をとらえてもらって、よし悪しの判断を仰いでいる。もちろんダメ出しもある(笑)。それで34年やってきましたから」。今では西口さんのコーヒーを求めるファンは全国に広がり、なかには20年来の常連客も。これから、創業から支えてくれたお客に恩返しがしたいと考えている。「今まで通販のお客さんに助けられましたが、直接は会うことはなかったから、顔を合わせてお礼を言いたい。だから今度は逆に、僕らが出張喫茶をして、全国を回れたら」と西口さん。今年2月には、福岡で最初の出張喫茶を開催、かつて船乗りとして津々浦々を行き交ったように、今後も各地を訪ねる予定だ。

フランス製のばね計りや分銅式の計りなど、店内ではなるべくアナログの道具を使うことを心掛ける


西口さんレコメンドのコーヒーショップは「宿と珈琲 太陽と月 sun&moon」。

次回、紹介するのは、愛媛県宇和島市の「宿と珈琲 太陽と月 sun&moon」。
「店主の兵頭さんとは、彼のお祖母さん、お母さんが営むカフェ・ポラリスに豆を卸していたのが縁で知り合ったのを機に、コーヒーに興味を持ってくれて。ニュージーランドでバリスタの経験を積んで、帰国後に宇和島で初のコーヒースタンドを開店されました。久しぶりに、コーヒー愛あふれる若い世代と出会えたのはうれしいこと。2年前から、手回しの器具で焙煎も始めて、自分と同じ道を進む後進として応援したいですね」(西口さん)

【手焼珈琲RODANのコーヒーデータ】
●焙煎機/オリジナル焙煎機 10キロ(直火式)
●抽出/ネルドリップ
●焙煎度合い/中~深煎り
●テイクアウト/あり(690円~)
●豆の販売/ブレンド3種、100グラム880円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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