「私たちは大丈夫」サンリオピューロランドが“コロナ禍で得た自信”と、“これからのテーマパーク運営”

東京ウォーカー(全国版)

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東京・多摩市にある「サンリオピューロランド(以下、ピューロランド)」は、「ハローキティ」をはじめとするサンリオキャラクターに会える屋内テーマパークだ。

ピューロランドは、昨年2020年2月22日から7月19日までの約5カ月間、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため臨時休館していた。さらに、2021年3月現在も入場者数を規制して営業している。

今回は、そんなピューロランドを運営する株式会社サンリオエンターテイメントの代表取締役社長であり、ピューロランド館長も務める小巻亜矢さんにインタビューを実施。コロナ禍で学んだことや、これからのテーマパーク運営について話を聞いた。

【写真】今年25周年のポムポムプリンと10周年のウィッシュミーメルの間に立つピューロランド館長の小巻亜矢さん撮影/於ありさ

5カ月間の休館中は、やる気に満ち溢れていた「エンターテイメントってぐずぐずしていたら熱量が下がってしまうもの」だから


ーー昨年、コロナ禍においてピューロランドは初めての長期休館をしました。休館が決まった当初の社内の雰囲気を教えてください。

【小巻 亜矢】休館に踏み切った当初は「よし!今だからやれることをやろう」と前向きな人が多かったですね。もともとピューロランドは「社員とお客様を大切にする場所」ということもあり、スタッフもきっとどこかで休館になる覚悟はあったのだと思います。

ーーなるほど。「今だからやれること」というのは、具体的にどんなことでしょうか?

【小巻 亜矢】時間をかけて研修をしたり、いつもはなかなかできないレイアウトを変えての清掃をしたりですかね。普段は休みが取りづらい業種の人たちの中にはまとめて休暇を取る人もいました。

ピューロランド館長の小巻亜矢さん撮影/於ありさ

また、キャラクターのコンテンツ作りをする部署においては、真っ先に「オンラインでなにができるか」ということを考えて、連日SNSで発信し続けたり、オンライングリーティングや、ショーの無料配信といった新しい試みにもチャレンジしたりしていました。注力の度合いがすごくて、アイデアがどんどん湧いてきている様子はすごく頼もしいなと感じましたね。

ーーでは、ピンチな状況の中でもかなり前向きに取り組まれていたのですね。

【小巻 亜矢】もちろんそうではあったのですが、しばらくすると「休館がこんなに続くの?」「会社は大丈夫なんだろうか?」といった不安が少しずつ出てきたのを感じました。

ーーなぜ不安が生まれたのでしょう?

【小巻 亜矢】1つは思った以上に休館期間が長引いていたからだと思います。いつ再開できるか分からない状況で、後ろ向きになってしまっていたのでしょう。

また、テーマパークという業種柄、普段お客様と接するポジションにいるスタッフはリモートで仕事をするのが難しいことも原因の1つかなと思います。

ーーたしかに。テーマパークの場合、完全にリモートワークということはできないですもんね。

【小巻 亜矢】そうなんです。でも、その中で、若手が中心となってオンライン飲み会をしてみたり、それぞれが工夫して、自発的に前向きになろうとしている様子は印象的でした。

全てを把握しているわけではないんですが、リモートで仕事をするのが難しい業種のスタッフたちが 「どんなテーマパークだったら喜ばれるか」や「もっと改善できる点」についてのレポートをまとめていました。それらを見た時に、今一度「ピューロランドで働くこと」の意義について一人一人が向き合っているように思えましたね。

ーー休館中は、オンライングリーティングなど新しいコンテンツがたくさん生まれました。 その様子を見て、「新しい企画の構想ができてから、形にするまでのスピード感が早いな」と感じていたのですが、その秘訣はなんなのでしょう?

【小巻 亜矢】もともと「新しいことをやってみよう」という体質の会社なんですよね。一般的には、企画ができて、部署で確認して、上長がブラッシュアップして、さらに別の部署で同じことが行われて…という流れだと思います。ただ弊社の場合は、そのようなシステムはありつつも、電子決済があることで、上がってきている情報を私も速攻で見ることができるんですね。ですから、企画が上がってきて、経費をどうするかがクリアになりさえすれば、すぐにGOサインを出すんです。

ーースピード感を大切にしてきたのはなぜですか?

ピューロランド館長の小巻亜矢さん撮影/於ありさ


【小巻 亜矢】エンターテイメントってぐずぐずしていたら熱量が下がってしまうものだと思っています。だから、「今、届けなきゃ」という思いが強かったんですよね。

それにお客様はもちろん、スタッフ自身も「お客様が喜んでくれた」というのがエネルギー源になる。そういう意味では誰にとっても早くやったほうがいいなと感じたんですよね。おかげさまで内製でできることも増えて、いいトレーニングになったなと感じています。

お客様に喜んでもらうのはもちろん、働く人たちへのメンタルケアも大切


ーーその後、7月13日に年間パスポート所持者向けに、7月20日には一般の人向けに営業が再開されました。再オープンに踏み切ることが決まった当時のお気持ちを教えてください。

【小巻 亜矢】本当に待ち遠しかったですね。お客様を前にした時は本当にうれしくて、図らずも「おかえりなさい」という声が出てしまいました。

ーー一方で、再オープンに踏み切るに当たっての不安はなかったのでしょうか?

【小巻 亜矢】オペレーションの面における心配事はありましたね。人数をかなり絞っての再開とはいえ、熱を測ったり、消毒をしたりと今までよりも入館するまでのオペレーションに時間がかかってしまうことが想定されていたので、お客様に不便をかけないかということは懸念していました。

また、スタッフ側が「感染してしまうのではないか」と不安を抱えていないかということも不安でしたね。やはり誰もが想像していないことだったがゆえに、正解のないことですから、皆さんそれぞれの向き合い方があるのも当然。再開にあたって、社内でもどこまで対策すべきかと話す中で、温度差を感じることがありました。だから「不安を閉じ込めないで、ちゃんと言おうね」とイントラを通して何度か発信し、メンタルケアをするようにはしましたね。

ーー再開後のピューロランドを訪れた人からは「前のように触れ合うことができないのは悲しいけれど、マスク姿のキャラクターとソーシャルディスタンスでグリーティングするのも、それはそれで楽しい」との声があがっています。“ソーシャルディスタンスグリーティング”のアイデアは、どのようにして生まれたのでしょう?

【小巻 亜矢】「こうしたらかわいいのでは?」というよりも、「お客様にマスクを着用してきてくださいとお願いしているのなら、キャラクターたちもマスクをして、一緒に予防しようよ」と、自然な流れで生まれましたね。

マスク姿がかわいらしい(画像は2020年8月に撮影したもの)

サンリオキャラクターの魅力って悲しい時は一緒に悲しんで、うれしい時は一緒に喜んでくれる共感力だなと思っています。だから、キャラクターたちとお客様が同じように感染予防対策に取り組むことは自然なことなのかなって。その後、もっと一緒だとうれしいだろうなということで、キャラクターと同じ柄のマスクもすぐに販売しました。

ーーウケることを狙わずに自然と出たアイデアだったんですね。日頃、企画を形にするにあたって、大切にしていることがあれば教えてください。

【小巻 亜矢】商魂逞しく というよりも、「これならもっと喜んでくれるんじゃないか」という気持ちが大きいですね。私自身、コアなファンというのは恐れ多いですし、デザイナーさんのように直接商品をデザインすることもできません。だからこそ、1人のお客様としての目線を大切にしています。

ピューロランド館長の小巻亜矢さん撮影/於ありさ

そういう目線で見ると、ピューロランドには“喜んでもらえるチャンス”って、たくさん転がっているんですよね。ピューロランドにとっては売り上げにつながるし、お客様はうれしいし、ということなら、絶対にやったほうがいいなと思ってます。

テーマパークは、オンラインでもオフラインでも楽しめる「発信基地」でありたい


ーーコロナ禍のもとで、小巻さん自身が得た新しい気づきがあれば教えてください。

ピューロランドという場所が持つ“場”の力を感じました。休館中、お客様からいただく声の中で「キャラクターを好きなのはもちろんだけど、ピューロランドという場所が好き」という声が非常に多かったんです。だから、多摩センターという場所にピューロランドがあり、大分県にはハーモニーランドがある、この場所を使ってどんなことができるんだろうと考えさせられましたね。

ーーコロナ禍前後で、スタッフの人たちのマインドに変化はありましたか?

【小巻 亜矢】一人一人に聞いたわけではないのですが、コロナ禍において多くのスタッフは「働くこと」や「ピューロランドという場所」などについてゆっくりと思考する機会がありました。その結果、仕事をタスクとして考えるのではなく、仕事に対する深みが増した気がしますね。愛着や誇りを強めたことで「自分たちは大丈夫。ピューロランドはなくならない」という自信がついた気がしますね。

ーー「訪れる」のが前提だったテーマパークのあり方は大きく変わってしまいました。そのような状況を踏まえて、今後、ピューロランドはどんな場所になっていくと思いますか?

【小巻 亜矢】来て楽しむ場所ではあるけど、来なくても楽しめる「発信基地」のような場所でありたいなと考えています。オンラインやデジタルの発信は続けていく、でも、それはリアルな場所があるからこそ成立すると思うんですね。

だから、この後、なんの気兼ねもなく楽しめる時を待たずに、遠方に住んでいる方や海外とも繋がっていたいなと思います。そういう思いを込めて30周年の記念パレード「Hello, New World ~虹を、つなごう~」の”Hello New World”というコピーは、私たちは世界中を可愛いで塗り替える、かわいいはどこにでも飛ばしていけるというつもりで選んだんですよね。

ーーなるほど。ピューロランド以外のテーマパークもいろいろな施策を打ってくると思います。その中で、ピューロランドはどのような存在でありたいですか?

【小巻 亜矢】テーマパークという業種としては、東京ディズニーリゾートさんやユニバーサル・スタジオ・ジャパンさんと一緒ですが、私たちは圧倒的に規模が小さいですし、集合シアター型の珍しい形態ですから、全くライバルとは思っていないんですね。

その中で、ピューロランドは小粒であってもピリリと存在感を持ち続けていたいなと考えていて、ピューロランドだからこその特徴を出すことが大事だと思っています。

ピューロランド館長の小巻亜矢さん撮影/於ありさ


ーー小巻さんが考えるピューロランドの特徴と、それを生かして今後やっていきたいことを教えてください。

【小巻 亜矢】来て楽しめる、来なくても楽しめることだと思います。

この場所が好きといってもらえるのであれば、そういう場所を持っている私たちが「だからこそ」できることってあるんじゃないかな、もっと深いところに寄り添うこともできるんじゃないかなと思っています。

具体的には、SDGsなどの社会課題にもアプローチしていきたいですね。先日キックオフした「Let’s talk! in TOKYO」 は、「テーマパークを舞台にタブーについて話してみようよ」というものなのですが、拳を上げて訴える、立ち上がるものではありません。あくまでもピューロランドらしく性別問わずみんなが生きやすい世界を考えていけたらいいなと思っています。ここがハブになって、いろんな組織と考えて、優しい社会が広がっていったらうれしいですね。

ーー最後にこれからサンリオピューロランドがどのような場所になってほしいか、実現したい未来を教えてください。

【小巻 亜矢】私が想像できないような場所になっていくんだろうなと思っています。取締役に就任してから7年が経ち、ものすごく成長したんですね。 私はみんなを見ていると、ピューロランドってどこまで成長するんだろうって、すごく楽しみになってしまうんです。

また、2021年はピューロランドに携わるみんなで育てたキャラクター・ウィッシュミーメルが10周年を迎えます。10年前はグッズもなかったウィッシュミーメルが、今ではショップもできて、常設のショー「Wish me mell のChance for you」ができたことを考えると、本当に喜ばしいですし、感慨深いんですよね。

ですから、“キャラクターとスタッフと場所”が成長していくのとともに、“お客様自身”が周年と成長を重ね合わせて、長きにわたって愛してくれるような場所でありたいなと思います。


取材・文/於ありさ

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