コーヒーで旅する日本/関西編|空間からメニューまで、一つ一つに語るべき“ストーリー”が息づくブックカフェ。「DONGREE BOOKS & STORY CAFE」

関西ウォーカー

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敬愛する京都の焙煎人の個性を引き継ぎ自家焙煎をスタート

五焙のパッケージには、それぞれのコーヒーが踏襲する5人の焙煎人のイメージを、家紋のデザインで表現

以前と大きく変わったことの一つがコーヒー。以前は仕入れた豆を使っていたが、「この界隈には豆を買える自家焙煎コーヒー店がなかったので、“町のコーヒー店”として、ここで焙煎するのがいいなと思った」と、開店にあたり自家焙煎をスタートした。京都の店では、“五焙”と銘打った地元の5人の焙煎人の豆を使って、コーヒーを提供していたドリーさん。「当時も焙煎に興味はありましたが、ちょうど個人の自家焙煎コーヒー店が京都に増えてきた時期で、地元の焙煎人にスポットを当てようと考えていました。クラフトもコーヒーも、暮らしを豊かにする手仕事ということでは同じ。1杯のコーヒーを通して焙煎という手仕事に注目してもらいたかった」と、それぞれの個性を紹介してきた。新たな店でも、5人の焙煎人への変わらぬリスペクトを込めて、“五焙”の味わいを引き継いでいる。

5つのコーヒーの個性が楽しめる、五焙飲み比べセット1200円


現在、メニューに並ぶ“五焙”は、明るく華やかな浅煎り・華、風味柔らかな中浅煎り・柔、上品でキレのある中煎り・誠、苦味と酸味の個性が際立つ中深煎り・遊、深い苦味と余韻の甘さの深煎り・重の5種をシングルオリジンで表現。京都にいた時に、5人の仕事場を訪ねた経験を元に、いずれ劣らぬ個性派ロースターのコーヒーの個性を踏襲している。「焙煎の技術や豆の仕入れなど、それぞれの仕事を隅々まで取材するつもりで、お話を伺いました。5人の方々から聞いたキーワードをもとに、自分で試行錯誤を重ねましたが、見るとやるとは大違い(笑)。コーヒーに親しんでいるからこそ、難しく感じる部分がありましたが、京都の店で毎日淹れていた記憶を頼りに、味のイメージを再現していきました」

五焙の豆は時季ごとに銘柄が入れ替わるが、プロファイルは変えず同じ味わいに仕上げる


自宅で簡易な焙煎機を使って半年ほど練習を重ね、店に導入したのは1キロサイズの半熱風式焙煎機。「数値のデータだけでなく、温度変化を示すカーブの形から捉えた感覚を合わせて、仕上がりをイメージします。焙煎機のサイズが大きくなると、窯内の蓄熱量や豆同士の接触熱の影響が大きく、温度変化の反応が鈍くなりますが、小型だと自分の操作に対して釜の中の反応が短時間で伝わる。5種を焼き分けるには、小回りが利くこのサイズが使いやすいですね」とドリーさん。

とりわけ、フルーティーな浅煎りの風味を生かすために工夫を凝らし、煙突を屋外に延ばさず、室内にまっすぐ立てて、直上に業務用の強力なダクトを設置。ダンパーによる排気量をアップし、熱効率を向上させることで、クリーンな風味を引き出している。片や2種のブレンドは、“町のコーヒー屋”の顔として位置づけ、石部と湖南の地名を名前に冠した。「町の名を付けることで、今までなかった、界隈の新しいお土産にできればと考えました」と地元のデザイナーと共に考案。海外からのお客にも喜んでもらえるよう、浮世絵風、アール・ヌーヴォー風のテイストを取り入れたデザインが好評だ。

コクのある中煎りの石部ブレンドは宿場町の歴史と穏やかな暮らしを、爽やかな浅煎りの湖南ブレンドは広々とした田園風景をイメージ


丁寧な暮らしと仕事から生まれた“ストーリーを楽しめるカフェ”

滋賀湖南の星屑 チョコとコーヒーゼリーのアンティークパフェ1200円。+400円でペアリングコーヒーがセットに

また、広いカフェスペースを得て、フードやスイーツのメニューも充実。ランチでは、土日限定メニューとして、地元産の食材を使ったメニューも。沖島の漁師から仕入れる琵琶湖のブラックバスは、レモンの風味が爽やかなベトナム麺・フォー仕立てに。湖南市に多く暮らすブラジル人が主食とするキャッサバ芋は、地産の野菜と共にヘルシーなプレートに。タピオカの原料でもあるキャッサバ芋は、奥様の寛子さんが移住後に地元のブラジル人コミュニティとつながり、実際にブラジル人から仕入れ、ランチニューを考案。現在は自家栽培したものを使い、町の新たな食の魅力も発信している。

湖南 旬の食材とキャッサバ芋のランチプレート(味噌汁付き)1080円。肉・魚を使わない、ヘルシーなプレートには地産の野菜がたっぷり


さらに、「本を読み進めるように"最後の一口までゆっくり"楽しめるブックカフェならではの一品を」と、考案した看板スイーツが、アーティスティックなパフェ。シチリア発祥のアイスケーキ・カッサータやラム酒が香るブラウニー、“五焙”の豆を使ったコーヒーゼリーのビターな風味に、多彩なドライフルーツ、ナッツ、オリジナルのグラノーラの食感がアクセントを加える大人の味。物語を読み進めるように、時間が経つとともに味わいが深まる逸品だ。

2021年、店の外にコーヒースタンドを増設。無添加の天然木に囲まれた清々しい空間で、豆の販売とドリップコーヒーを提供


当初は京都と滋賀の2店舗で続けるつもりだったが、コロナ禍の影響によって2020年に京都の店は閉店。結果として移転という形で新たな店をスタートさせたドリーさん。とはいえ、大きく環境を変えたことで、自身の心境にも変化があったようだ。「ここに来て、暮らしがシンプルになりました。経営の大変さは一緒ですが、目指していた職住一体の生活になって、時間が緩やかに感じるようになりました。何より、移住者に対してポジティブな人が多く、同時期に移住したコミュニティがあったことで交流も広がり、気持ちのいい関係ができているのが大きいですね」

この店を形作るさまざまなモノ・コトは、すべて人との出会いから生まれたもの。このカフェ自体が、ドリーさんが立ち上げの過程で得たつながりの集合体でもある。「平日はほぼ界隈のお客さんですが、週末は遠方からも来られます。この場所で店を開くなら、わざわざ来てもらえるだけの価値を作りたいと思って、“ストーリーを楽しめるカフェ”を目指しました。いかにこの空間ならではの体験ができるかに注力して、お客さんが過ごす時間が素敵なギフトになれば嬉しい」とドリーさん。五焙のコーヒー、栞本、インテリアからフード、スイーツに至るまで、語るべき物語がある。丁寧な暮らしと仕事から生まれた、その1つ1つが、この場所の心地よさを醸し出している。

座卓を囲んでくつろげる、お座敷感覚のスペースも人気


ドリーさんレコメンドのコーヒーショップは「きみと珈琲」

次回、紹介するのは、滋賀県彦根市の「きみと珈琲」。
「店主の小川さんが訪ねてくれた時、同じ半熱風の焙煎機を使って、フルーティーな浅煎りの味を目指していることを知って以来、親近感を持っている一軒です。その難しさを知っているから、気持ち的に通じるものがあります。まだお店にはうかがえていないのですが、ここと行き来しているお客さんも多く、自分も行ってみたいお店の一つです」(ドリーさん)

【DONGREE BOOKS & STORY CAFEのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 1キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン5種、100グラム700円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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