野生下の生息数はわずか300~500頭のスマトラトラ。その原因は私たちの生活にもあり!?【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】
東京ウォーカー(全国版)
スマトラトラを人工哺育。ミルクの飲ませ方が難しい
――現在、国内で飼育されているスマトラトラは18頭。国内の飼育下の個体数としては今が最大値だ。そのうち八木山動物公園で生まれた個体は5頭。なかでも印象に残っているのが、2019年10月8日に誕生したオスのアオだという。当時のことを山崎さんは振り返る。
トラたちの様子は普段、ビデオで観察しています。バユがアオを産んで授乳していることもビデオで確認でき、問題ないと考えていました。しかし、数日後にアオがピーピー鳴くようになったので「これはおかしい」と、バユを外に出して確認することに。
その結果、体重がわずか920グラムで母乳をちゃんと飲めていないことがわかり、人工哺育に切り替えました。母親のバユは子育ても授乳もしていたのですが、なぜか上手くいかなかった。これは、少し高齢だった点も関係があると思います。

スマトラトラの出産可能年齢は大体3歳ぐらいからで、15歳では厳しいとされています。バユはこの時13歳で、トラとしては高齢出産だったと言えるでしょう。バユには子育てしたい気持ちがあったと思いますが、おそらく母乳がうまく出なかったのでは。通常なら4頭ほど出産しますが1頭しか生まれなかったことからも、高齢であることが影響したと考えられます。バユと同い年の姉妹がほぼ同じタイミングで出産した子供も同様に、1頭のみの出産で人工哺育になっていて、それを裏付けていると思いました。
現在、フンでホルモンを測定して発情を観察していますが、バユは発情が止まっている状況なので、たぶんアオが最後の出産だと思います。
――山崎さんにとってもトラの人工哺育は初めての体験。過去のトラの人工哺育に関する文献を確認し、手探りで進めていった。
スマトラトラ以外のトラの人工哺育例はほかの園館でもあるので、そういう文献を参考に、ミルクの量や回数、与え方を研究しました。毎日5回以上ミルクを与えた甲斐あって、アオも今では立派なオスのトラに成長しています。
期間は短かったもののとても濃い、私の飼育人生の中で特別な経験でした。ミルクは哺乳瓶で与えるのですが、最初のうちは上手に飲めず、飲ませ方が難しかったです。
人工哺育の危険な点として、ミルクの飲ませ方が無理矢理すぎて誤嚥が生じ、死亡するケースがあります。なので誤嚥しないよう、少しずつ注意して飲ませました。でも、量はしっかり飲ませないといけないので、その点で苦労しましたね。しばらくしたらとても上手に飲めるようになったので、安心しました。
授乳をはじめてから離乳までは約3カ月程度。まずは離乳食としてフードプロセッサーで肉をミンチ状にして、10グラム程度から少しずつなめさせて味を覚えさせます。味を覚えるとお肉大好き!になって、どんどん食べるようになりました。急に肉を与えすぎるとお腹を壊してしまったりするため、少しずつ増やしていって、それに反比例してミルクを減らし、離乳していきました。
トラ同士のコミュニケーションを覚えてほしかった
――一見順調に見える人工哺育だが、山崎さんには葛藤もあった。
人工哺育した個体は人間慣れしてしまって、自分のことをトラだと思わないのではないかというのが、一番の懸念事項でした。私もできるだけ構わないようにして、注意していたのですが、それでもやっぱり飼育員が大好きになってしまって、飼育員を見ると喜んで、スリスリゴロゴロとじゃれてくるように。本当はそうではなく、バユのように人に向かって吠えるぐらいになってほしかったのですが、そこは人工哺育の仕方がない点かもしれません。
そうならないよう、できるだけお母さんの前にケージを置いて顔を見せて「君はトラだぞ!」ってわかってもらえるようにしたり、隣のトラの展示場に出したりと、努力や工夫はしたのですが、結果的にうまくいきませんでした。
今後繁殖していくことを考えると、アオ自身、自分がトラだと自覚し、トラ同士のコミュニケーションを学んでほしく思いました。兄弟がいればじゃれ合う中で噛んだらどれぐらい痛いかとか、あいさつはどうやってすればいいのかなど、たくさん学べたと思いますが、一人っ子なのでそれもできなかったのが残念でした。
だけどやはり子供の誕生はとてもうれしいこと。生まれたこと自体も喜びですし、来園者の皆さんが自分のことのように喜んでくれたのも、大変うれしく思いました。
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