コーヒーで旅する日本/関西編|世界を巡った2人の道が京都で一つに。「Sentido」が提案する産地と日常をつなぐコーヒー
関西ウォーカー
好みは誰もが違って良い。“ウシウマ”が示すコーヒーの多様性

「Sentido」開店4年後に結婚を経て、遵也さんはカフェタイムを辞し、 一時コーヒーを離れ料理人に戻ろうと思い立った。しかし、店を手伝いコーヒーを提供する中で、「すでにコーヒーがかけがえのない存在になっていたことに気がついた」と遵也さん。一転、自分のコーヒーを更に追求することを決意をする。
開店から長らく、カフェタイムから豆を仕入れていたが、10年目になる2021年に焙煎所を立ち上げ、自家焙煎をスタート。遵也さんは焙煎という新たな仕事に携わることになる。 現在、店頭に並ぶ豆は時季替わりで5~6種。逸美さんが選別をした生豆を、遵也さんが焙煎して2人でカッピングするというのが、一連の流れになっている。「カッピングについては前職で社長をはじめ、ロースターの実力者と共にカッピングする機会が多く、生産国でのカッピングにも参加する中で、感覚的な土台が身についたと思います。それでも、1人でやっていると煮詰まったりし、視野も狭まったりしますが、2人でやると味の評価に客観性が出てくるのがいいところ。原料選びに関しては、個性がしっかりとある豆が好みで、それぞれの酸や甘さのキャラクターが素直に出せるように焙煎しています」
今までに、2人が訪れた産地は合わせて6カ国以上。最近は産地も品種も多種多様になって、豆の個性もより多彩さを増してるが、実際に訪ねた産地への思い入れはひとしおだ。なかでも2人が一緒に訪れたルワンダのKivu Belt地区の豆は、農園は替えながらも毎年仕入れる定番的な銘柄の一つだ。

また、豆の品揃えだけでなく、コーヒーを使ったメニュー提案の幅広さも魅力の一つ。ペーパードリップ、フレンチプレス、エスプレッソと言った抽出法に加えて、コーヒースムージーやゼリー入りラテなどドリンク、スイーツまで。なかでも、「エスプレッソを生かしたスイーツを」と考案したコーヒーゼリーパフェは、夏の限定メニューとして始まり、いまや通年提供となった看板スイーツ。マスカルポーネアイス、コーヒーケーキのクラッシュにエスプレッソをかけた上半分は、いわばティラミスとアフォガートの合わせ技。芳しい香りとまろやかな甘味の下は一転、エスプレッソとラテのゼリーのビターな香味が涼やか。上から下まで、スペシャルティコーヒーならではの鮮やかな風味がギュッと詰まった一品は、食べ進むほどコーヒーの多彩な風味に満たされる。また、フードの中には、逸美さんがオーストラリアにいた頃に影響を受けたメニューも。「海外で食べた物を自分が食べたくて」とオリジナルで作ったというスパイスが効いたバナナブレッドやグラノーラなどの一品とのペアリングをも楽しい。

メニューの中心にコーヒーがあることは確かだが、専門店然とした堅苦しさはほとんどない。そうした店のスタンスを体現するのが、店のマスコットキャラクター・ウシウマだ。「その名の通りウシとウマの掛け合わせで空想上の動物です。この動物に出合ったのは私がコスタリカでコーヒー屋台を手伝っていた時です。買いにやってきた10歳のパブロくんが絵をプレゼントしてくれたんですが、描かれていたたくさんの動物の中の1匹の動物が何かわからなくて。周りの人に見せると“ウシじゃない?”とか、“ウマに見える”とかいろいろで。それがコーヒーみたいだと私には思えたんです。人によって、同じコーヒーに対して味の感じ方も好き嫌いも違う。みんな好みが違って良い、というスタンスで店をやりたいと考えた時に浮かんだのが、このウシウマの絵でした」
10年の節目を超えて、ロースターとしての新たなスタート

店として節目の年を超えたが、ロースターとしてはまだ1年目。実質、2度目の創業といっていいかもしれない。焙煎を担う遵也さんも、日々、試行錯誤を重ねている。「最初は誰でもできるだろうと思いましたが、自分なりの焙煎プロファイルを確立するのは容易ではなく、回数を重ねる必要があると感じています。ただ、コツコツ積み上げていく作業は苦になりません。焙煎を始めてから、ロースター同士で交流するようになり、コーヒーの面白さが広がっていますね」
その中で、変わらないことがあるとしたら、コーヒー産地への思いだろう。「コーヒーも一期一会で、おいしい豆に出合う機会が少ないから、出合いを大切にしています。そのコーヒーを美味しいままに飲んでもらうことが今の喜びですが、将来は生産者とつながれるチャンスを作り、生産者を含めてコーヒーを紹介したいですね」と逸美さん。 遵也さんもそのスタンスは同じだ。「焙煎を始めた今、産地を訪ねたらまた違う視点での発見があるかもしれないし、その時にはもっと沢山の豆を買えるようになっていたいですね」

スペイン語の店名「Sentido」は、英語で言えばSense。スペイン語では「感覚」や「意味」「方角」を表す時に使われる。「カフェに1人で行って考えごとをしたり置いてある雑誌を見て、新しいアイデアや自分の知らない世界に出合うのが好きでした。ここを訪れるお客さんにも、雑誌や本を読んだり、コーヒーを飲んだりしてるうちに、発想や味わいの新しい『感覚』に出合ってほしいなと思っています。そして自身には、スペシャルティコーヒーの『意義』や『方向性』について考えることを忘れないように、とこの名前を付けました」
数々の産地を訪れて得た思いは誰より強いと想像できるが、店に立つ2人は肩ひじ張らず、あくまで軽やか。2人にとってスペシャルなコーヒーは、街の憩いのお供として、日常の一コマに溶け込んでいる。「“まずやってみよう”と目の前にあることを続けて、次に進むべき道を見つけるのが、私たちの歩み方。店も少しずつ良くなり、ようやくコーヒーを中心にして進み始めています。10年経って、これからまた気持ちを新たにしていきたいですね」。何気ない日々の一杯がもたらす産地への貢献。小さな店の向こうは広い世界へとつながっている。

垣江さんレコメンドのコーヒーショップは「KOTO COFFEE」
次回、紹介するのは、奈良県五條市の「KOTO COFFEE」。
「店主の阪田さんとは、カフェタイム時代に知り合って、ルワンダの農園訪問ツアーにも一緒に参加して以来、今も交流が続いています。今年は焙煎の競技会JCRCで優勝して、世界大会にも出場されました。常に謙虚に学ぶ気持ちを忘れず、焙煎を追求する姿勢は、ロースターとして目指すべき存在です」(垣江さん)
【Sentidoのコーヒーデータ】
●焙煎機/ローリング スマートロースター 7キロ(完全熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、フレンチプレス、エスプレッソマシン(シネッソ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(450円~)
●豆の販売/シングルオリジン5~6種、150グラム1150円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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