コーヒーで旅する日本/九州編|店には広がりを求めず、自身の世界観は深く。「マルハチ珈琲焙煎舎」がまとう心地よさのワケ

九州ウォーカー

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未来のために、今できることを

「目指す味わいは、毎日飲んでも飲み疲れしないコーヒー」と八児さん

その当時、東京で暮らしていた八児さんは、会社員をしながらやれることをできるだけ実行。コーヒーショップを開業するという明確な目標ができてからは、抽出や焙煎のセミナーに積極的に参加し、一度は産地訪問ツアーでタイにも足を運んだという。当時は会社員だったため、店を営んでいるわけではないし、物件や開業地さえ決まっていなかったというから、その探究心と行動力には驚かされる。まさに将来の自分への自己投資だ。

いよいよ勤めていた会社を退職し、大学時代と社会人の足掛け12年を過ごした福岡県北九州市にUターンした八児さん。北九州市で暮らしながら、物件を探し始めた2カ月後、知人の紹介でcobaco tobataと出合う。

ノスタルジックな雰囲気のcobaco tobata

「cobaco tobataに足を運んでみると、私がスケッチで描いていた理想の物件そのものだったんです。まだほかの物件の内覧などを一つもしていなかったのですが、『絶対にここだ』と直感的に感じて、その場で入居のための面談を申し込みました。その後正式な契約へ至りましたが、その段階で建物のオープンまでは約4カ月。そこから店舗の工事、什器やエスプレッソマシン、焙煎機など必要な道具探し、トレーニングなどを行うことになったのですが、本格的な準備期間は正味2カ月程度で…。初めて自分の店を開くという高揚感に後押しされたからこそできましたが、今思い返すと無謀だったな、と(笑)」

芯があるから、ゆとりが生まれて

【写真】おっとりとした雰囲気の八児さん

「マルハチ珈琲焙煎舎」は開業当初から自家焙煎を行い、生豆もスペシャルティ規格のものを選んでいる。コーヒーは日常的に嗜むものという考えから、毎日飲んでも飲み疲れしないという点に重きを置いて焙煎、抽出を心がけており、その言葉通り店の顔でもあるブレンドはすっきりとした味わいでとても飲みやすい。ワイン同様、テロワールが感じられる産地、生産処理の豆を選ぶことも多いそうだ。開業間もないころはそういったこだわりや自身が学んできた知識や技術を前面に打ち出すこともあったが、店を日々営むにつれ、「そうじゃない」ということに気付かされたという。

「九州工業大学の目の前にあることから、トレンドに敏感な学生さんもたくさん来てくれます。一方で昔ながらの住宅街でもあるので、ご年配の方、お子様連れなど、本当に幅広いお客さまにご来店いただいております。お客さまの中には“コーヒー=ブラック、ブレンド”という認識の方もいらっしゃって、そういった方々にこちらのこだわりを押し付けるのは違うと思い直したんです。お客さまにとって大切なのは、『コーヒーがおいしい』『居心地がいい』といったシンプルなこと。そう考えられるようになって、私自身、肩の力が抜けましたね」と笑って話す。実際、八児さんと話していると、心地よい余裕を感じ、焦らずひと休みしながらで良いと思えてくるのは、そんな彼女のおおらかさからくるものかもしれない。

ミルクとエスプレッソのバランスが秀逸なカフェラテ(500円)。豆は中深煎りのエスプレッソ用のブレンドを使用

そんな八児さんが営む「マルハチ珈琲焙煎舎」。最後にこれからどんな店を目指していきたいか聞いてみた。

「あまり先のことは考えていなくて、可能な限り『マルハチ珈琲焙煎舎』は長く営んでいきたいな〜、ぐらい(笑)。なんでもそうですが、私も店も目指すのは、“広く浅く”ではなく、どちらかというと“狭く深く”。とはいえコーヒーでお客さまからお金をいただく以上、コーヒーを取り巻く環境や情勢のことをインプットしておく必要はあり、それをもとに常にアップデートはしていかないといけないと思っています。今年2月に産地視察のためにエチオピアに行くのもそういった理由からですし、機会があれば県外でのイベントなどに出店しているのも、お客さまや関係者の方々から先入観なしのご意見をいただきたいから。『マルハチ珈琲焙煎舎』という場所はできましたが、ここにとどまっているだけでは“深く”は掘り下げていけませんよね」と八児さん。

ハンドドリップコーヒー(420円〜)。豆はブレンド1種、シングルオリジン4種から選べる

この話を聞いて感じたのは、八児さんに感じる心地よい余裕は、思いや考え方にしっかりと軸があるからこそ生まれるということ。コーヒーが与えてくれる癒やしの時間にプラスして、「マルハチ珈琲焙煎舎」には新しい考え方を見つけるヒントとの出合いもたくさんありそうだ。

八児さんレコメンドのコーヒーショップは「Jazzy coffee」

「福岡県北九州市にある『Jazzy coffee』の店長、にしきさんは東京の有名店で腕を磨いた凄腕のバリスタ。東京時代は昼と夜、ダブルワークしてバリスタ修業をしていたそうで、そのエネルギーには驚かされます。もちろん同店で飲んでいただきたいのは、カフェラテなど、にしきさんが淹れるエスプレッソベースのドリンク。本当においしいですよ」(八児さん)

【マルハチ珈琲焙煎舎のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル半熱風式3キロ
●抽出/ハンドドリップ(Kalita ウェーブ)、エスプレッソマシン(SYNESSO MVP HYDRA)
●焙煎度合い/中煎り〜中深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム580円〜


取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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