コーヒーで旅する日本/関西編|汲めども尽きぬ創意で、無限に広がるコーヒーとスピリッツのシナジーを追求。「Knopp」
関西ウォーカー
7年越しの競技会優勝を経て得られた気付き

日々の営業やメニューの考案に携わる一方で、今も競技会に毎年出場を続けている吉田さん。前職時代は、ラテアートやジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)に出場していたが、開店後は一貫して、コーヒーカクテルを競うジャパン コーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップ(JCIGSC)に参加。ほぼ毎回、ファイナルに進出し実力を示してきたが、2022年の大会でついにチャンピオンの座に上り詰めた。
初優勝をもたらしたカクテル・Discver P.O.Dは、すでに店の定番としてオンメニュー。4種のスピリッツを使用した一杯は、同じベースを用いるスタンダードカクテル・ロングアイランドアイスティーに想を得て、レシピを考案した。乾燥ホップの香りを移した4種のスピリッツに、カカオピューレとシロップ、エスプレッソを合わせ、炭酸ガスを充填したカーボネートシェイカーで攪拌。工程は意外にシンプルだが、驚くべきは、果実を全く使っていないのに、次々に現れるフルーツのフレーバーだ。柑橘、パイン、ライチなど、移り変わる多種多彩な風味は、ホップのほろ苦さで一層鮮やかに輪郭を帯びる。紅茶を使わずに紅茶を表現したロングアイランドアイスティーに対して、フルーツを使わずフルーツを表現したのが、このカクテルだ。

以前から、コーヒーでフルーツカクテルを表現することを目指していたという吉田さん。「フルーツを使わず、フルーツ感を出すために、豆のポテンシャルを引き出し、コーヒーの果実味をボトムアップして体験してもらうのが狙い。“コーヒーとスピリッツには無限の掛け合わせがある”、という大会趣旨にも合致したと思います。これまでは、毎回、果物やリキュールを使っていましたが、今回はコーヒーの力を信じて、アルコールとのシナジーを証明できたと思います」と胸を張る。その言葉通りの、精緻な味作りと鮮やかなフレーバーの広がりには思わず目を見張る。
まさに渾身の一杯を生み出した吉田さんだが、チャンピオンに至る7年の道のりの中で、気付いたことがあるという。「もう一回飲みたいと思えないカクテルを、出したらいけないなと感じた。新しいからいいというわけでなく、凝ったレシピはやりすぎると自己満足になること多い。今思えば、開店当初はお客さんを置いてけぼりにしていたかもしれない。そういう意味では、競技会と店はつながっていて、“また飲みたい”と思える味になったから優勝もできたと思う。競技会でもお店でも、その基準は同じなんですよね」。スピリッツとコーヒーで作るこのカクテルは、どこの地域にもある素材で、世界中の人がおいしいと思える一杯を作れる、その可能性を示したともいえる。
ペアリングでさらに広がる、コーヒーカクテルの可能性

優勝の喜びもつかの間、今年に入って、カクテルとスイーツといのペアリングという新たな試みを始めている。「昼からカクテルだけだとハードル高いので、スイーツがあれば気軽に受け入れやすい。カクテルを楽しむためのスイーツは毎週変わるのでお楽しみに」と吉田さん。その第1弾は、コロンビア インマクラーダ ゲイシャ✕赤ワインのホットカクテルと、あまおう苺のレアチーズケーキとのペア。ゲイシャ種独特の優しい甘さとワインの果実味に、チーズやヨーグルトの乳独特の酸味が加わることで、カクテル単体ではできない、より立体的なフレーバーの広がりを提案している。

もちろん、今もカクテルの試作は毎日取り組んでいるという吉田さん。ナッティなブラジルのコーヒーに、干し椎茸、黒文字を浸け込んだスピリッツ、ローズマリーの香りで、大地の風味を表現したユニークなカクテル、“木と土と森と”もその成果の一つ。「今は、ケニアのコーヒーと発酵トマトの取り合わせを試してますが、すごく合うんです」と、意想外のイマジネーションは止まることを知らない。素材の個性を一杯のカクテルに仕上げる過程は、さまざまな楽器がアドリブも交えてグルーブを作り出すジャズに通じるものがある。日々、繰り返される素材のセッションには、ひょっとするとかつて親しんだ音楽の感性も生かされているかもしれない。
奇しくも、開店から10周年を迎える今年の秋、台湾で開催されるコーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップ(CIGSC)の世界大会が控える。「英語のプレゼンと、海外の人の嗜好にいかに合わせるのがが新たな課題。日本選手がまだ進んだことがない、ファイナルを目指したい」と吉田さん。Knoppとはつぼみの意味。日本のチャンピオンとして開花した吉田さんが、世界の舞台でさらに大きな花を咲かせるか、楽しみに待ちたい。

吉田さんレコメンドのコーヒーショップは「COCO COFFEE」
次回、紹介するのは奈良県香芝市の「COCO COFFEE」。「店主の由佳ちゃんは、シェーカーズカフェ ラウンジで一緒だった後輩で、数少ない女性バリスタとして活躍している一人。笑顔が素敵な、愛されキャラで、彼女の人柄もお店の魅力になっています。コーヒーのクオリティのはもちろんですが、人のつながりを生み出す場を広げている、地域に根付いた取り組みも素晴らしい一軒です」(吉田さん)
【Knoppのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(Unir)
●抽出/エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/浅~中煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/なし
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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