コーヒーで旅する日本/九州編|時間を気にせず、ただ海を眺めて。「きまま焙煎所」に流れる物語がコーヒーを特別なものに
九州ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
九州編の第73回は長崎市にある「きまま焙煎所」。長崎市といっても眼鏡橋や中華街があって、路面電車が走ってという市街地ではない。長崎市中心部から南西に車を走らせること約40分。東シナ海をはじめ、軍艦島の愛称で知られる端島などを横目に海沿いドライブが気持ちいいエリアをさらに南へ。視界はさらに開け、美しい白砂のビーチ、脇岬海水浴場が目の前に広がる。
「こんな場所でコーヒーショップができたら最高だ」。素直にそう思わせる最高のロケーション。「きまま焙煎所」があるのはそんな海沿いの小さな町だ。秋田県男鹿市出身の菅原洋樹さんが定住を決め、ここでコーヒーを焼いて生きていくと決めた理由を聞いてみたい。
Profile|菅原洋樹(すがわら・ひろき)
秋田県男鹿市生まれ。東京のアパレル、飲食業界で約13年働く中、東日本大震災を機に、東京を離れることを考え始める。一人旅をしていたところ知人の誘いもあり、長崎県の東彼杵町へ。その流れから野母崎地区の地域おこし協力隊を募集していたことを知り、地域おこし協力隊となる。野母崎の魅力を広く知ってもらいたいと脇岬海水浴場の廃屋寸前の建物を再活用し、コミュニティカフェを立ち上げる。そのカフェでも手回しで自家焙煎していたことから、徐々にコーヒーのおもしろさに開眼。2015年に屋号を「コミュニティカフェ リップル」から「きまま焙煎所」に改名。足掛け5年ほど脇岬海水浴場の建物でカフェを運営し、2019年に現在の場所に移転。長崎市出身の奥さん、真希さんと一緒に店を営む。
小さな漁村でコーヒー屋を
レコメンドしてくれた
珈琲人町
の店主、竹下さんが「天気がいい日に『きまま焙煎所』さんに行ったら最高。僕も行きたいなー」と何度もつぶやいていたように、「きまま焙煎所」はロケーションに恵まれている。店に向かう道中の開放的な海の景色はもちろんのこと、店から見える漁港の雰囲気もどこかのんびりとした空気が流れ、さらに情緒もあっていい。
店はもともと別荘のように使用されていた住居をリノベーションしており、店内はソファ席、カウンター席を用意し、カフェ利用OK。さらにテラス席もあり、気候がよければ潮風を浴びながら屋外でのんびり過ごすのもおすすめだ。
秋田県出身と、九州とはなんの縁もない店主兼ロースターの菅原洋樹さんが長崎市に移り住んだのは、2011年。野母崎地区の地域おこし協力隊になったのがきっかけだ。菅原さんは「秋田から東京に移住し、13年ぐらい東京で暮らしました。東京を離れるきっかけとなったのは東日本大震災。最初は故郷の男鹿市に戻ろうかとも思ったのですが、縁あって長崎に来ることになり。その流れから、野母崎地区の地域おこし協力隊に採用していただき、3年の任期を務めました。野母崎で暮らす中でこの土地の魅力に惚れ込み、さらに妻との出会いもあって結婚して、ここに定住することに決めました。野母崎に来てもう12年ぐらいになりますね」と話す。
菅原さんはそうナチュラルに話すが、すごいのは完全に地元になじんでいることだ。まだ若いこともあり、どこか周囲から頼られているというのもあるのかもしれない。ただ話を聞いていくと、頼られているというより、地元の人がおせっかいを焼きたくなるような性格なのだろうというエピソードを聞かせてくれた。
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