西島秀俊「三谷組は楽しいけれどハードルも高い」、三谷幸喜監督最新作で松坂桃李と歌って踊る
東京ウォーカー(全国版)
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本を手がけた三谷幸喜監督が、「記憶にございません!」以来5年ぶりとなるオリジナル作品「スオミの話をしよう」を完成させた。三谷作品初参加の西島秀俊さんと松坂桃李さんが、本作で久々の共演を果たし、長澤まさみさん演じる主人公スオミを愛した4番目の男と2番目の男を演じている。お二人に、撮影秘話や三谷組の感想、さらにミュージカルシーンの撮影で印象に残ったエピソードなどを語ってもらった。
三谷幸喜監督の演出は「どんどん進化していくし、新たな発見もあっておもしろかったです」
――お二人は三谷幸喜監督作品初参加となりますが、ご一緒してみていかがでしたか。
【西島秀俊】三谷組はとにかく楽しいという話は周りからよく聞いていたのですが、その反面、ハードルも高いと聞いていました。そのため、とても楽しみなのと同時に、不安というかプレッシャーもありました。
【松坂桃李】僕もいろいろな方から三谷組は楽しい現場だと聞いていましたし、三谷さんの作品を拝見してもそれは伝わってきました。きっとその裏には、俳優のみなさんが事前にしっかりと準備をして、三谷さんからのさまざまな要求に瞬発的に応えていこうという気概があったからこそ楽しい現場になったのではないか、そんな風に思っていました。なので本作への出演が決まって少しプレッシャーを感じたといいますか、緊張感を持って挑まなければという気持ちになりました。
――実際に三谷組に参加されてみて、どんなところに楽しさを感じましたか。
【西島秀俊】大笑いしてしまうような楽しい演出もあれば、登場人物たちの関係性や役そのものを深く掘り下げて作っていくストイックな演出もあって、そこがとてもおもしろいと感じました。1カ月のリハーサル期間中も本番も、三谷さんから全員に対してテイクごとに「こういうのをやってみて」というリクエストが入るので、それによってシーンがどんどん進化していくし、新たな発見もあっておもしろかったです。
【松坂桃李】演出方法でおもしろかったのが、あえて一人だけに三谷さんがコッソリと何かを言ったり、逆に一人だけ知らされていなかったり、常に緊張と笑いが同居していたこと。それがすごく印象に残っています。
【西島秀俊】共有されていないために予想外のお芝居が飛び出し、思わず吹き出してしまうこともありましたが、毎シーン常に変わっていくおもしろさがあって非常に楽しかったです。
【松坂桃李】三谷さんはセットも細かく見ていて、使っていない部分があったら「次はここに行ってこういう動きをしてみてください」という風に指示を出されるんです。それもまた新鮮でした。
【西島秀俊】坂東彌十郎さん演じる寒川しずおの自宅リビングのセットで撮影することが多かったのですが、最初に寒川邸のリビングのセットに入った瞬間に圧倒されたのを覚えています。きっとセットをフルに活用できるように、監督は美術部さんと打ち合わせをされたのでしょうね。ただ、油断をしていると、本番中に小林隆(3番目の男・宇賀神守役を演じている)さんが急にビールを飲み出して、監督の演出だとわかっていても「あれ?いつの間にビール出した?」という風にびっくりすることもあって。
【松坂桃李】あれはびっくりしますよね(笑)。
――劇中、会話をしながらアンモナイトの置き物のようなものの中から柿の種を取り出して食べている人がいて気になりました(笑)。
【西島秀俊】監督が仰っていたのですが、あのアンモナイトのようなものはもともとオブジェとしてセットに置いてあったもので、柿ピーの入れ物は別にあったそうなんです。だけど本番前に監督と美術さんが打ち合わせをして、柿ピーをオブジェに入れることにしたらしく、監督が「ここで柿ピーを取って食べて」と指示を出した瞬間に、何も知らない彌十郎さんがいつの間にかびっしりと入っている柿ピーを見て驚いたという(笑)。そんな感じで「え!」と思うことがけっこうありましたよね?
【松坂桃李】ありましたね。寒川邸に個室サウナみたいな場所があるんですけど、監督から「『サウナ借りていいですか?』みたいな感じで個室サウナに入ってください」とか「高級そうなお皿を見て、そのお皿を盗もうとして」といった指示をいただくたびに驚いていました(笑)。三谷さんはセットの空間や美術をフルで活用されていたので、美術さんもうれしかったんじゃないかなと思います。
男性5人全員がスオミのことが好きで、「そこに各々のチャーミングさが出ているように思います」
――スオミの4番目の男で神経質すぎる警察官・草野圭吾と、2番目の男で見栄っ張りのYouTuber・十勝左衛門を演じてみて印象的だった出来事があれば教えていただけますか。
【松坂桃李】スオミを愛した男たち4人が会話をしている最中に、僕が演じる十勝がジョインしてくるのですが、三谷さんからは事前に「会話の途中で草野を無言で見てください」と、台本には書かれていない指示をいただいていたんです。それで、指示どおりに演じていたのですが、テイクを重ねるたびに「もっと冷たい目で草野を見てもらえますか」といった新たなリクエストが監督から入りまして、その度におもしろい演出だなと思いながら演じていました。
【西島秀俊】草野が発言するたびに十勝が無言でジッと見てくるので、 心の中でとても気になりつつもスルーして、何事もなかったように話し続けていたのですが、カットがかかるたびに十勝の視線を思い出して笑っていました。
【松坂桃李】三谷さんは、草野さんに対する十勝の敵対心が少し垣間見える瞬間を撮りたくて、僕にああいった演出をされたのではないかなと。側から見たらおもしろいシーンですけど、十勝の心情を細やかに汲み取っていく演出力に驚かされました。
――草野はモラハラっぽい発言も多かったですが、西島さんが演じていらっしゃるからなのか、不思議と許せてしまうチャーミングさがありました。
【西島秀俊】ありがとうございます。でもあれはちょっと許せないのではないかと(笑)。
【松坂桃李】草野さん、けっこう細かかったですもんね(笑)。
【西島秀俊】あまりに細かくてうるさい人は誰でも嫌だと思います。ただ、細かいからこそ事件を解決できたりもして、そういう草野の嫌な部分が警察官という職業に活かされているのはおもしろいと感じました。
【松坂桃李】男性5人全員がスオミのことが好きで、彼女への想いが純粋だからこそ、そこに各々のチャーミングさが出ているように思います。観ているうちに草野さんの嫌なところも許せてしまうのは、スオミへの想いがあるからかもしれません。
【西島秀俊】全員がスオミのことが好きすぎて、何も見えなくなっているからこそああいうとんでもない展開になっていくという。
【松坂桃李】5人は訳あってセスナ機に乗ることになるシーンがありますが、最終的に草野さんが「私が」っていうところに注目していただきたいです(笑)。
――今お話に出たセスナ機のシーンの撮影は大変だったのではありませんか。
【松坂桃李】詳しいことは言えませんが、草野さんの部下・小磯役を演じた瀬戸康史くんが一番大変だったと思います(笑)。
【西島秀俊】誰も体験したことがないようなシーンになっています。
【松坂桃李】セスナ機と同じようなサイズで作った仮のセットでリハーサルをしたんですけど、そのときからもうおもしろくて(笑)。
【西島秀俊】5人で入るとギチギチの狭い場所でリハーサルをやっていたよね。
【松坂桃李】懐かしいですね。セスナ機のシーンもおもしろいので期待していてほしいです。
――スオミはフィンランド語で「フィンランド」という意味ですが、お二人はフィンランドを訪れたことはありますか?
【西島秀俊】僕はドキュメンタリーの仕事でヨーロッパに年に一度行っていた時期があって、毎回トランジットがヘルシンキ空港でした。マリメッコやムーミンのお店の場所を覚えてしまうぐらいヘルシンキ空港は行っているのに、実はフィンランドの地は一度も踏んだことがないんです。いつかトランジットではなく、ヘルシンキ空港で降りてみたいです。
【松坂桃李】僕もフィンランドは行ったことがないので、オーロラを見たりサンタクロース村を訪れてみたいです。
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