なぜ、この椅子は心地いい? 名作チェアの理由が見えてくる「ハンス・ウェグナー展」が渋谷・ヒカリエホールにて1月18日まで開催中
東京ウォーカー(全国版)
「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」が、渋谷ヒカリエ9階・ヒカリエホールにて2026年1月18日(日)まで開催中だ。本展は、椅子約160点を中心に、図面や資料、製作のプロセスまでを通して、20世紀を代表するデンマーク家具の巨匠の仕事をたどる構成となっている。
展示エリアに入って、まず目に入るのは見覚えのある椅子たち。名前は知らなくても、どこかで見たことがある椅子がずらっと並んでいる。カフェやショップでふと目にした、あの椅子もある。展示の楽しみ方はシンプルだ。歩いて、眺めて、ときどき立ち止まる。その繰り返しの中で、なぜこの椅子が長く選ばれてきたのかが、自然と伝わってくる。本記事では、4つの章で構成された会場を巡りながら、展示の見どころや空間の印象を紹介していく。
ハンス・ウェグナーって、どんな人?
ハンス・ウェグナーは、1914年生まれのデンマーク人デザイナー。もともとは家具職人としてキャリアをスタートし、素材や構造を体で理解しながら椅子づくりを続けてきた人物だ。その生涯で手がけた椅子は500脚以上。量を追ったというより、座る人の体や動きを丁寧に考え抜いた結果、その数にたどり着いた。
ウェグナーの椅子は、見た目はとてもシンプルだ。飾り立てることはせず、線も控えめ。それでも、腰を下ろした瞬間、体の力がすっと抜ける。視線を動かしながら椅子のまわりを歩いてみると、その印象は変わらない。正面でも、横でも、裏側でも、どこか無理がなく、自然にそこにある。ウェグナー自身はこう語っている。「家具に裏面があってはなりません。どこが始まりでどこが終わりかわかるようではいけない。あらゆる角度から見られて、どの側面も視線に耐えるものでなくてはならない」。触れた木の感触や、体を預けたときの収まりのよさも含めて、その言葉の意味が実感として伝わってくる。「ザ・チェア」や「Yチェア」は、インテリア好きでなくても一度は目にしたことがあるはずだ。カフェやレストラン、ショップの片隅で、気づかないうちに視界に入ってきた人も多いだろう。
本展では、世界的な椅子研究家・織田憲嗣さんのコレクションを中心に、椅子約160点を含む作品が集結。数だけを見ると圧倒されそうだが、展示は意外なほど親しみやすい。眺めて、近づいて、また少し離れて。その繰り返しが心地いい。会場構成を手がけたのは建築家・田根剛さん。照明や動線が丁寧に整えられていて、椅子に詳しくなくても自然と見どころが伝わってくる。知らない世界に放り込まれる感じはない。むしろ、ゆっくり案内してもらっているような感覚だ。
4つの章で、ウェグナーの椅子に近づいていく
展示は、4つの章に分かれて構成されている。それぞれに明確なテーマがあり、順に巡ることでウェグナーの考え方や椅子との向き合い方が、少しずつ理解できる流れだ。難しい予備知識がなくても、自然と距離が縮まっていく。
Chapter1 ハンス・ウェグナーとは何者か?
最初の章では、若き日のウェグナーに出会う。家具職人として歩み始めた1930年代から、事務所を構えるまでの1940年代にかけての作品が並ぶ。18歳で家具マイスターの資格を取得したウェグナーは、フレミング・ラッセンやアルネ・ヤコブセン、ボーエ・モーエンセンといった同時代のデザイナーたちと出会いながら、デザイナーとしての土台を築いていった。
17歳で手がけた「ファーストチェア」、そして3脚のみ製作された「セカンドチェア」の復刻展示も、その流れの中で紹介されている。どこか素朴な佇まいの椅子からは、椅子づくりそのものに向き合うまっすぐな姿勢が伝わってくる。後の名作につながる芽が、ここに確かにある。
Chapter2 クラフツマンシップ
続く章のテーマは、ウェグナーの代名詞ともいえるクラフツマンシップ。自ら図面を引き、模型を作り、職人と対話を重ねる。その過程が、20点あまりの図面や製作途中のモデルで紹介される。どうしてこの曲線なのか、なぜこの形なのか。展示を追っていくうちに、細かなつくりに自然と目がいき、ウェグナーらしいディテールに引き込まれていく。
Chapter3 名作椅子
3つ目の章では、ウェグナーを象徴する名作椅子25脚を、図面とともに展示。正面からだけでなく、横、後ろ、少し離れた位置から眺めてみると、印象が変わる。裏側まできれいにつくられていることに気づき、思わず足を止めてしまう人も多いはずだ。どこから見ても成立する造形。そのこだわりが、静かに伝わってくる。
Chapter4 ウェグナーの椅子 1945 – 1990年
最後の章では、1940年代から1990年代までの椅子と家具を年代順に紹介。サークルでエリア分けされた空間を歩きながら、木材の使い方や構造、製造工程の変化を追っていく。手仕事が中心だった時代から、機械加工が取り入れられていく過程を見比べることで、椅子づくりを取り巻く環境の変化も見えてくる。それでも、座ったときの心地よさや手触りへの配慮は一貫している。その積み重ねが、ウェグナーの椅子が今も選ばれ続ける理由なのだと、自然と実感できる。
この章では、各展示にあわせて織田憲嗣さんによるナレーション解説や冊子での解説も用意されている。椅子の背景や細かな違いを知りたい人は、音声やテキストを頼りに、もう一歩踏み込んだ見方を楽しむこともできる。
座ってわかる、ウェグナーのすごさ
本展のうれしいポイントが、実際に座れる椅子が用意されていること。見ているだけではわからない心地よさは、腰を下ろして初めて伝わってくる。
体を預けたときの安定感、肘に触れる木の感触。派手さはないのに、なぜか落ち着く。その理由が、少しだけわかった気がする瞬間だ。
展示のあとは、ショップで図録とグッズをチェック!
展示を楽しんだあとは、グッズ売り場にも立ち寄りたい。本展のために制作されたオリジナルグッズをはじめ、北欧デザインにまつわるアイテムや書籍が並び、気になったものを気軽に選べるラインナップになっている。ホリデーシーズンのギフトにも、自分へのご褒美にも選びやすい。
なかでも注目したいのが図録だ。世界的椅子研究家である織田憲嗣さんのコレクションから、重要作品200点を収録。椅子を中心に、図面や貴重な資料写真、約500点におよぶイラストレーションを通して、ウェグナーの膨大な仕事を体系的にたどることができる。日英併記で構成されたA4変形・412ページのボリュームは、展示を振り返る一冊としてはもちろん、長く手元に置いておきたくなる保存版だ。
そのほか、カレンダーやノート、ダイカットポストカードなど、気軽にゲットしやすいアイテムもそろう。来場の記念にひとつ選んだり、デザインが気に入って手に取ったり。そんなラフな付き合い方がちょうどいい。
展示を見たあと、街で椅子を見かけたときに「あ、あの曲線いいな」と思う瞬間があるかもしれない。そう感じるのは、ウェグナーの椅子をこれだけの数でまとめて見られる展示だからこそ。名作と呼ばれる理由を、実物を通して確かめに出かけてみよう。
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取材・文・撮影=北村康行
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