コーヒーで旅する日本/関西編|琵琶湖に一番近いロースター「きみと珈琲」。コーヒーを通して、地元の人々の暮らしを“ええ塩梅”に

関西ウォーカー

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

滋賀のシンボル。琵琶湖をイメージした看板ブレンド

書棚に並ぶ本は、彦根の古書店・半月舎がセレクト

約5年、東京での経験を積み、いよいよ開店を目指して地元・滋賀に戻った小川さん。この時、最も重視したのが店を作る場所。面白そうな物件を探していく中で、偶然見つけたのが、現在、入居するVOID A PARTのオーナー・周防苑子さんのインタビュー記事だった。VOID A PARTは、廃ガラスと植物を組み合わせた作品『HACOMIDORI』を手がける、周防さんのアトリエに併設した複合施設として2016年にオープン。モノづくりの拠点としてだけでなく、カフェやイベントスペースとして、地元の人々が集う新たなスポットとして注目されていた。

「はじめは、“開店の相談に乗ってもらえるかも”という軽い気持ちで直接、周防さんを訪ねました。お話をするうちに、元々VOID A PART内にあったカフェの担当が近々辞められるということが分かって、相談どころか、そのまま僕らが入れ替わりで入れることになったんです」。小川さんは、新たな店の存在を知らせるべく、開店の半年前から月一回の試飲会を開催。「SNSだけでなく、実際にお客さんと接して、店のことを伝える場を作りたくて、2020年9月から12月まで開催しました。メニューの中でコーヒーだけを無料で提供して、店の味を知ってもらうと共に、地元の方々との新しいつながりも生まれました」

好みの豆を選べるハンドドリップコーヒー(500円)。キャロットラペ&ロースハムサンドイッチ(750円)。ジューシーなハムの塩味と旨味に、小麦の甘み、野菜のみずみずしい香りが際立つ


VOID A PARTのカフェとしては3代目、初の自家焙煎コーヒー店として、2021年2月にスタートした「きみと珈琲」。窓際に設置した焙煎機は、小川さんの原点でもある、島根のIMAGINE.COFFEEから譲り受けた店のシンボル的存在だ。「湖畔で民家も少ないので、焙煎機の煙の心配は全くなし。風通しがよく煙の抜けもいいので、焙煎するには最高の条件ですね」と小川さん。

店の看板コーヒーは、東京にいた頃から、構想を考えていたという、その名も「びわ湖ロースタリーブレンド」だ。「店の個性を表現できるのがブレンドの魅力。滋賀県民にとって切っても切り離せない、象徴的な存在・琵琶湖をイメージした味を店の顔にしたい思っていました」。柔らかな香味とまろやかなコクがしみじみと広がるコーヒーは、まさに湖のような大らかな包容力を感じる一杯だ。また、今年は1周年を迎えたのを機に、イベント限定で出していた「きみと深煎りブレンド」が、好評を受けて定番化。すっきりと香ばしい風味は、アイスコーヒーや水出しコーヒーでも、個性を発揮する。元々が深煎り好きの小川さんらしい、新たなブレンドを加えてさらなるファンを広げている。

ミルクに漬けてじっくり抽出した新メニュー・ミルクブリューコーヒー(600円)。塩バターレモンケーキ(350円)は、爽やかなレモンの酸味と共に、しっとり溶けるバターのコクが後を引く


そんなコーヒーのお供になる、フードやスイーツは奥様の佑美さんが担当。カフェで働いていた頃、パティシエや料理人から学んだレシピに、独自のアレンジを加えたオリジナルだ。自家製のチーズケーキやスコーン、パウンドケーキなどの焼き菓子は、シンプルな素材と生地の質感を生かした濃密な味わいで、思わずコーヒーがすすむ一品ぞろい。さらに、サンドイッチは地元のベーカリー・ひとつぶの天然酵母パンに、ビストロ・ナツの自家製ロースハム、地産の旬の野菜と、オール滋賀の醍醐味がぎゅっと凝縮。「素材は地元のいいものをふんだんに。試飲会を通じてつながりができた生産者や飲食店も多いですね。春は滋賀県内でも幻の茶といわれる政所茶を使ったり、夏は多賀の農家に梅を収穫に行ったり、季節ごとにメニューにアレンジしています」とは佑美さん。地元の旬を感じるメニューも、この店の楽しみの一つだ。

店内では、希少な政所茶のほうじ茶や番茶のほか、近江八幡の家具店・HOMEPICNIC STOREHOUSEとコラボした、オリジナルのTシャツや木工のコーヒーグッズも販売


一杯のコーヒーが、日常にもたらす“ええ塩梅”

「時々、焙煎時の煙の香りに惹かれて立ち寄るお客さんもいますよ」と小川さん

実は開店当初、車でしか来られない立地に大きな不安があったという小川さんだが、それも今では杞憂に終わったようだ。「ふたを開けてみれば、元々VOID A PARTに来ていたお客さんがいらっしゃって、まったくゼロからのスタートではなかったんですね。今ではわざわざここまで来てくださる方も増えました。愛知や岐阜からドライブで来る方も多く、メニューを通じて滋賀の名産を県外に広めるきっかけになればと思います」

また、店の近くには湖畔の水泳場や公園があり、「これからキャンプやレジャーでにぎわうので、それに合わせて、アイスコーヒーや水出しコーヒーを早くに始めて、今は新たに開発したミルクブリューやコーヒートニックなどの冷たいドリンクも充実させています」と小川さん。店の裏手は、すぐ琵琶湖の畔。気候のいい時季、テイクアウトしたコーヒーを片手に、水辺でのんびり過ごす時間は、このロケーションならではの贅沢な楽しみだ。

店のすぐ裏手は湖畔の緑地公園。琵琶湖を眺めながら贅沢なカフェタイムが過ごせる


「コーヒー専門店ではありますが、あくまでこの場所に来てもらうためのツールの一つ。ストイックになるよりは、一杯のコーヒーをきっかけに、いろんな方向につながりが広がっていけばいいなと思う。自分が島根にいた頃に感じたように、初めて来た人にも、地元で暮らす人の生活にも寄り添える場になれたら嬉しい」。そんな思いを込めたキャッチフレーズが、“あなたの、暮らしの、ええ塩梅”。心地よい開放感が満ちた空間は、湖国の新たな拠り所として根付きつつある。

小川さんレコメンドのコーヒーショップは「Yeti Fazenda Coffee」

次回、紹介するのは、滋賀県彦根市の「Yeti Fazenda Coffee」。
「店主の打出さんはイベントを中心に活動していて、全国各地に積極的に出店。打出さんが主催する岐阜のイベントに、「きみと珈琲」も参加しています。彦根のスペシャルティコーヒー専門店として先駆け的存在ですが、ブレンドオンリーというコンセプトで幅広い種類を提案されていて、他にないテーマ性がユニークな一軒です」(小川さん)

【きみと珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 3キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(コーノ式)、エスプレッソマシン(VBM)
●焙煎度合い/中煎り~深煎り
●テイクアウト/あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン4~5種、200グラム1500円〜

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

  1. 1
  2. 2

この記事の画像一覧(全12枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

いちご狩り特集

いちご狩り特集

全国約500件のいちご狩りが楽しめるスポットを紹介。「予約なしOK」「今週末行ける」など検索機能も充実

お花見ガイド2025

お花見ガイド2025

全国1300カ所のお花見スポットの人気ランキングから桜祭りや夜桜ライトアップイベントまで、お花見に役立つ情報が満載!

CHECK!2025年の桜開花予想はこちら CHECK!河津桜の情報はこちら

花火特集

花火特集2025

全国約900件の花火大会を掲載。2025年の開催日、中止・延期情報や人気ランキングなどをお届け!

CHECK!全国の花火大会ランキング

CHECK!2025年全国で開催予定の花火大会

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る