見た目は怖いが、平和主義でおおらかなクロサイ。唯一の敵は「人間」!?【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】

東京ウォーカー(全国版)

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見習いたい、愛情深く怒らない育児。だけどしっかり教育はする

――クロサイの飼育に12年間携わる屋野丸さんが、その中で最も印象に残っているのがクロサイの子育てだそう。

7頭の仔を生んだサキ。母親のハナの血を受け継いだ肝っ玉母さんだ写真提供:広島市安佐動物公園


クロサイの母親は愛情が深く、子供を決して怒りません。本当にかわいくてかわいくて仕方がない、という様子が伝わってきます。一緒にいる間は絶対に怒ることをしません。

お母さんに甘えるニコ。愛情豊かな母のもとで育ち、ニコは天真爛漫でやんちゃな女の子に育った写真提供:広島市安佐動物公園


ただ、次の子供を産むときや、産む直前にはピリピリしているのか、子供を含めた他個体を追い回すことがあります。たぶん野生ではそれによって子供は親離れをして、独り立ちするのだろうと考えられますが、飼育下ではそういうわけにもいきません。母親を早々に収容して出産させますが、その怒りようが普段とは全く違うのに驚かされます。でも、産まれてしまえばまた、前の仔を以前のように受け入れているのも意外です。

怒らない子育てとはいえ、教育はきちんとしています。成獣の彼らには基本的に、人間以外の天敵はいません。しかし子供にとって肉食獣だけでなく同族のオスは、危険な存在。なので、オスが不用意に動いたりすると、メスは非常にピリピリします。そういうところを教えたり、見慣れないものや聞きなれないものには神経質に対応して、子供を教育しています。基本的にはとても穏やかな子育てなので、人間も参考にすべき点があるなと思っています。

サキに甘えるニコ。母子の愛情が伝わってくる写真提供:広島市安佐動物公園


クロサイって角が2本あって、一見いかつく怖そうに見えますが、世の中にこんなに大きく広い心をもった動物は、いないだろうと思います。実におおらかで愛情深く、平和主義で優しい生き物です。そういうところを知っていただけたら、うれしいですね。

50年間で17頭の出産。飼育施設のありようが繁殖を支える

――現在、日本国内では11園館で22頭飼育されている。なかなか繁殖に結びつかない中、安佐動物公園が17頭もの繁殖に成功したのはなぜだろうか。

一般にクロサイの繁殖は難しいと言われています。でも実際のところ相性がよければ、クロとハナが10回、ヘイルストーンとサキが7回繁殖したように、何回でも繁殖できます。ただ、たいていの動物園の飼育施設が狭いという問題があります。寝室はだいたい2~3部屋しかなく、前に生まれた仔が出ていかない限り次の繁殖が目指せないのが現実です。

こちらはまだ小さい時のニコ。角はほとんど認められない写真提供:広島市安佐動物公園


だけど、次の子供を産ませたいからと言っても、そんなに簡単に他園に出せるようなサイズの動物ではありません。国内でも移送が難しく、最長で10年、最短で5年ぐらい間隔があく場合が多々あります。その間、オスとメスは別居生活をしていて、展示も交互なので会うことはありません。

それで子供がいなくなった5年後に、次の繁殖を目指すとしても、またお見合いから始めなければいけないわけです。たとえ最初の繁殖がうまくいっていたとしても、もう一度会わせたときにうまくいかないことも。周りの環境が変わったことで、イライラして喧嘩をする場合もあります。

ニコの額にも立派な2本の角が生えている。母親の胎内にいるときは角がないが、オスもメスも誕生した瞬間から角が伸び始める写真提供:広島市安佐動物公園


さらに期間が空いてしまうとその間に繁殖適齢期が終わり、妊娠しにくくなるという状況もあります。クロサイは5歳ほどで性成熟し、30歳くらいまでが出産適齢期。ハナが子供が産めなくなったのが32歳、世界最長寿で亡くなったのが52歳くらいです。仮に30年ぐらいの飼育歴があっても、出産の経験は2度ぐらいといった例がほとんどなので、繁殖が難しい動物だと言われているのだと思います。

安佐動物公園には寝室が4部屋あり、放飼場が1374平方メートル。さらに60平方メートルのプールを備えています。うちは出産直後からオスと同居させていて、その前に生まれた子供たちも飼育できる間はずっと同居させていました。最大で6頭展示していたこともあります。そういう意味では繁殖の制限をせずに来られたので、10頭、7頭といった記録を作れました。

広々とした施設で飼育され、安佐動物公園のクロサイは多数の繁殖に成功した写真提供:広島市安佐動物公園


できればもう1頭、ヘイルストーンとサキの仔が生まれたらと思っているのですが、ゆっくり穏やかに余生を過ごせる環境を整える方が先なのかな、とも思っています。今は寒いときは長時間外に出さないとか、暑すぎるときは展示を控えるとか、体調を改善する方向で頑張っているところです。

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