数カ月間飲まず食わずで子育てするホッキョクグマ。40年ぶりに誕生した赤ちゃんや、飼育について聞いてみた【会えなくなるかもしれない生き物図鑑】
東京ウォーカー(全国版)
野生を身近に感じられる動物園や水族館。動物たちは、癒やしや新たな発見を与えてくれる。だが、そんな動物の中には貴重で希少な存在も。野生での個体数や国内での飼育数が減少し、彼らの姿を直接見られることが当たり前ではない未来がやってくる、とも言われている。
そんな時代が訪れないことを願って、本連載では会えなくなるかもしれない動物たちをクローズアップ。彼らの魅力はもちろん、命をつなぐための取り組みや努力などについて各園館の取材と、NPO birthの久保田潤一さんの監修でお届けする。第9回の今回は、国内最北の動物園・旭川市 旭山動物園のホッキョクグマの飼育担当・大西敏文さんにお話を聞いた。
40年ぶりにホッキョクグマの赤ちゃん誕生!
――旭山動物園は日本国内で初めてホッキョクグマの繁殖に成功した動物園だ。昨年12月には40年ぶりに赤ちゃんが誕生。現在は5頭が飼育されている。
当園で飼育しているのはオスのホクト(21歳)と、メスのピリカ(16歳)、2021年12月10日に2頭の間に生まれたメスの赤ちゃんに加え、メスのルル(27歳)、メスのサツキ(30歳)の5頭。3頭生まれた赤ちゃんのうち2頭は残念ながら死亡してしまいましたが、1頭はすくすく育ち、2022年4月29日から一般公開されています。7月2日の開園55周年記念イベントでは命名式が行われ、一般公募した名前の中から「ゆめ」と名付けられました。
ジェントルマンだったオスのホクト。広い施設も繁殖に寄与
――大西さんがホッキョクグマの担当になって1年半。その間で最も印象に残っているのは、やはりホクトとピリカの繁殖。しかし、出産に至るまではいくつかの壁を乗り越えなければならなかった。
2頭をはじめて同居させたときは、ピリカがホクトにおびえてしまい、かなり険悪なムードでした。ピリカがホクトに噛みついて血が出てしまったこともあります。ただ、単にケンカしたということではなく、オスのホクトには何とか関係を改善して仲よくしていこうとする姿勢が見られたので、そこでめげずにじっくり同居を繰り返していきました。
展示場が狭い場合はお互いに緊張感が高まってしまいますが、当園は幸いある程度の広さがあるので、メスが近づいてほしくないときには、オスも距離を取るようにしていましたね。たまに様子を見ながら近づいて…を繰り返していくうちに、徐々に関係性が良くなっていったように見受けられます。オスのほうがメスの扱いになれていたというか、ジェントルマンだったと言えます。
――オスとメスのペアリングが成功しても、安心できないのが現実だ。繁殖の難しさについて、大西さんはさらに続ける。
限られた予算の中で、繁殖を考えてバックヤードや産室にまでお金をかけている施設は、多くありません。当園には「ほっきょくぐま館」という施設があり、5頭が余裕をもって暮らせるほどの広さがあります。そのおかげで、ホクトとピリカの関係性をうまく構築することができました。
ホクトは以前ほかの動物園でペアリングに成功し、メスが出産したこともあります。しかしそこには産室がなく、子供は死亡。このままでは繁殖能力がもったいないということで、繁殖施設のある旭山動物園にやって来ました。動物園同士で連携し、こうした調整も行っています。ただ、広いからいいというわけではなく、個体の性質も繁殖を左右します。以前当園にいた個体は、毎年交尾を行うものの、オスの精子の数が少なく、メスが妊娠しなかった例もありました。
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