コーヒーで旅する日本/関西編|心地よいレコードの響きと、艶めくアロマが醸し出す穏やかな時間。「音楽と珈琲」
関西ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
関西編の第25回は、奈良県奈良市の「音楽と珈琲」。市内の中心部にありながらもひっそりと開かれた店は、隠れ家的な趣があり繁華街の雑踏とは無縁。幼少時から音楽に親しんできた店主が収集したレコードと、芳醇な香りに満ちた珈琲がしばし日常を忘れさせる。この空間に込められた想いとは。
Profile|北野正人(きたのまさと)
1981(昭和56)年、奈良県奈良市生まれ。某著名CD店での勤務から珈琲屋へと転身。イベント出店で経験を重ね、2019年「音楽と珈琲」を開業。
珈琲への向き合い方を変えた深煎りの醍醐味
商店街沿いの建物、二階の一室。深い褐色の空間に響くレコードの音色。時折、囁くようにパチパチと鳴るノイズがアナログ特有のあたたかさを表現する。窓から眼下に見えるのは、もちいどのセンター街。休日ともなれば多くの人が行き交う通りの賑わいも、ここからはまるで余所事のよう。この店が開業されたのは三年前だが、遠い昔からここにあるかのような落ち着いた時間が流れている。
「十代後半くらいからDJをしていたんですけど、若い頃は音楽で食っていきたいな、とか無謀な夢を見ていました笑。レコード屋に行ったり服屋に行ったりすることが多くて、DJをやりつつこんな店できたらいいなってなんとなく思っていました」
友人とクラブを貸し切ってイベントを企画することもあれば、人に呼ばれて参加することもあった。「はじめてクラブに行った時は、絡まれるんじゃないかってめっちゃビビってました笑。結局そんなこと一回もなかったですけどね。DJはその場に合う良い音楽を選んで、お客さんはそれを聴いて気持ち良さそうに踊ってる。最高の仕事のひとつじゃないですかね」
当時は音楽で見ていた夢が、なぜ今は珈琲?それは友人の紹介で知り合った中山珈琲さんとの出会いがきっかけだったそう。「大人になるにつれ夢から少しづつ離れていくことが割と普通だと思うんです。言い訳するように自分で自分を納得させて忘れていく。自分もそんな感じでした。それでも”いつかなにか楽しいことしたいな”って捨てきれずにいた夢に形をくれたのが中山さんです」と振り返る。
コーヒーが美味しくて格好良い。こんな世界があったのか、と胸を打った。所謂”サードウェーブ”が体現する、明るい風味が刺激的だった。知識は皆無と言っていい。それでもコーヒーが持つ不思議な魅力に取り憑かれ、豊かでいてさまざまな味や広い世界観を学んでいく。「仕事が終わり、急いでお店へ向かう。閉店ギリギリになることも少なくなかった。思い返すと迷惑かけてたなぁと思います」と笑う北野さん。
イベント出店を頻繁に行う中山さんの背中を見て、自分もやってみたいなと思ったのが全ての始まり。当然右も左も分からないので、まずは手伝いから参加させてもらうことにした。「色々覚えていくんですけど最初はやっぱり物真似。それでもとにかくやってみて続けてると、次第に自分らしい形に変わっていく。吸収して咀嚼して、表現する。この繰り返しでした。お店を持った今でもそれは同じ。この感覚はずっと持っていたいです」と語る北野さん。知り合いの店の軒先、小さなマルシェや大規模なマーケット、色々なところへ足を運び経験を重ねた。この頃にはすでに胸の中には、「いつか店舗を」という密かでいながらも強い想いがあった。
はじめはユニークな産地個性、それこそ人や店のカッコ良さ、という単純な部分からこの世界に惹きつけられた。だが、知識を得るにつれ次第に自分の好む味を理解しはじめ、そこだけに焦点を合わせるようになる。それはなんとなく口にした深煎りの一杯。京都の有名店、絞るように落とす濃厚なネルドリップの虜になった。「耳馴染みの良い商品説明があって、それを確認してから飲む。そうじゃなくて、上質な深煎りをなにも考えずに口にした時に、なんかしみじみと“あ、これ美味いな”って思った。心の芯の部分で感じたんじゃないですかね」
ほろ苦く甘い珈琲。流行や世間の売り文句に決して左右されない自分の好みを知ると、多くの店を巡り、人と出会っていく。大きな転機となった縁のひとつが、大阪大正の井尻珈琲焙煎所。出店先で偶然知り合い、なんとなく話をする関係になった。いつか店舗を構えたいことを相談していると「珈琲屋って名乗るんやったら自分で焙煎やらなあかんで」と助言をされ、小さな手回し焙煎機を貸してもらうことに。これが自家焙煎をはじめるきっかけとなる。「質問してもあまり教えてくれない。自分で考えろってタイプの人です。それでも時々『調子どうや?』って連絡をくれたりする。優しいですよね」
同じまとめの記事をもっと読む
この記事の画像一覧(全11枚)
キーワード
- カテゴリ:
- タグ:
- 地域名:
テーマWalker
テーマ別特集をチェック
季節特集
季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介
全国約1100カ所の紅葉スポットを見頃情報つきでご紹介!9月下旬からは紅葉名所の色付き情報を毎日更新でお届け。人気ランキングも要チェック!
おでかけ特集
今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け
キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介