コーヒーで旅する日本/九州編|体裁ではなく、コーヒー屋になった理由の本質を追求し続ける。「珈琲花坂」

九州ウォーカー

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手廻し焙煎による深く、妖艶な一杯

エレベーターを降りてすぐに店舗入口が

「珈琲花坂」はもちろん今も自家焙煎。開業時から手廻し焙煎機を愛用している。一度に最大1キロしか焙煎できないため、相当な回数焼いているのは容易に想像できるし、「大変でしょう」と聞いたところ、「焙煎量もしれていますし、そこまで」と涼やかに話す花坂さん。なにより機械に頼るのではなく、手廻しで行う焙煎が楽しいのだそうだ。効率ばかりを追い求めるのではなく、自身が心の底から楽しめているかを大切にする花坂さんの日々の過ごし方。

ハウスブレンドはしなやかなコクと苦味のアクセントのワルツ、すっきりと優しい口当たりのNo.2ソナタの2種を用意

そんな本質的な考え方はコーヒーの味わいにも出ていると感じる。花坂さんが焙煎するコーヒーは手廻し焙煎という特性上、深めの焙煎のものが多い。浅めでも一般的なところの中深煎り程度だ。それを店では一滴一滴丁寧に湯を注ぐネルドリップで抽出する。深みがある妖艶な味わいのコーヒー。家では飲むことが叶わないような特別な一杯で、だからこそ開業から8年を経た今は多くのファンがついているのだろう。

ブレンド(600円)と、コーヒーと相性がよいガトーショコラ(450円)

大名という雑多な街の小さなビルの5階という立地、花坂さんが醸し出す不思議と居心地のよい空間、そして思わずため息が漏れるほど奥深い味わいのネルドリップで淹れたコーヒー。「珈琲花坂」はこの3つの要素のバランス感が最高なのだ。

豆売りのパッケージのスタンプのイラストは花坂さんの奥さんが描いたものだそう

余計なモノ・コトは極力身近に置かず

ネルドリッパーを押さえる丸い石も、どこか味わいがあってよい

最後に「間借り営業ではなく、実店舗を構えるという選択肢もあるのでは?」と質問したところ、こんな答えが返ってきた。「僕にとって大切なのは自分が焙煎し、抽出したコーヒーをお客様に楽しんでいただくことで、場所が“自分だけ”のものである必要性をあまり感じていません。なによりこのバーは福岡に移り住んで、最初に素敵だと感じた場所で、そこで自分が焙煎したコーヒーを淹れられるのは最高に幸せなこと」そんな話を聞いて思うのが、花坂さんは余計なモノ・コトはできる限り持たず、さらに無駄を削ぎ落とす人だということだ。

メニュー表の裏に書かれた「時に人生はカップ一杯のコーヒーがもたらす暖かさの問題」という言葉。アメリカの作家、リチャード・ブローティガンの短編集「芝生の復讐」に出てくる一節だそうだ。この言葉が「珈琲花坂」の存在意義を表しているという気がしてならない。

花坂さんレコメンドのコーヒーショップは「手音」

「福岡市・大橋にある『手音』さんは10年以上前から知っていて、福岡に来てからよく行かせていただいている一店。店主の村上さんも手廻し焙煎をされていて、とてもおいしいコーヒーを作られています。ネルドリップで抽出するなど、店のスタイルを同じくしていることもあり、尊敬するコーヒー屋です」(花坂さん)

【珈琲花坂のコーヒーデータ】
●焙煎機/FUJI手廻しロースター
●抽出/ネルドリップ
●焙煎度合い/中深煎り〜深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/100グラム800円〜


取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

※新型コロナウイルス感染症対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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