コーヒーで旅する日本/九州編|開業から丸20年、変わらないからこその進化を「手音」に見る
東京ウォーカー(全国版)
手廻し焙煎とネルドリップ

「手音」のコーヒーはネルドリップで淹れることもあり、焙煎度合いとしては深めのものが多い。もちろん豆売りも行っており、レジ周りには豆が陳列。どれもしっかり焙煎された黒の色合いで、深煎り主体なのがわかる。昨今、飴色程度に焼き色がついた浅煎り、中煎り、中深煎りのコーヒーも多い中、「手音」では昔から深煎りがメインで、最も浅めの焙煎のものでも、一般的な中深煎り程度だ。その理由は焙煎方法にある。

「手音」で使っているのは手廻し焙煎機。よく見るとカウンターの目立たない場所にひっそりと収納されている。「私の焙煎の基本は手網で、手廻し式を使った際、しっくりきたんです。それで手廻し式の焙煎機を選んだのですが、その当時は400グラムのサンプルロースターしかなかったんですね。それで製造元である富士珈機さんに直接問い合わせて、1キロ式の手廻し焙煎機を特注で作っていただきました」

この焙煎機がまたいい味を出している。長年使ってきたからか、ドラム表面は鈍く光り、ハンドルの部分もすり減ってきている。ただ20年間使っているとは思えないほどまだまだ立派だ。一方で手廻し焙煎は、焙煎中ずっとハンドルを回し続けないといけないし、焙煎した豆をすぐにうちわであおいで冷ます必要もあり、相当な手間ひまがかかる。機械式の焙煎機に切り替えることは考えていないのか。「それはあまり考えていないです。手廻し焙煎が大変だと思ったことはないですし、このやり方が一番私に合っているような気がします」と村上さんは話す。
「昨日よりも今日、今日よりも明日」の積み重ね

村上さんが淹れたコーヒーは思わずため息が漏れるほどの奥深さを感じる。欠点豆を取り除くハンドピック、手廻し焙煎、ネルドリップなど、一杯のコーヒーを生み出すまでの工程をとにかく丁寧に行っているからこその味わいだ。「手音」は奇をてらうことはせず、20年変わらず同じことを繰り返してきた。

豆の種類も中深煎りのブラジルベースの“爽”、深煎りのモカとマンデリンを使う“薫”、エルサルバドルベースで最も深煎りの“玄”の3種のブレンドと、各大陸の豆を使いたいと選んだストレート5種という昔から変わらないラインナップ。もちろん豆ごとの焙煎度合いも大きく変えることはない。“変わらないこと”、これが「手音」の一番の魅力なのだ。

ついついわかりやすい変化で自身の成長の度合いを判断しがちだが、同じことを繰り返していく中で、ひたすらクオリティを高めていく。村上さんのコーヒーとの向き合い方はまさにその究極のような気がする。
インタビュー中に「珈琲美美で働いていたときによく言われていたのが『昨日よりも今日、今日よりも明日。もっとよい仕事を目指す』ということ」と教えてくれた村上さん。ずっとそれを守り続けてきた20年。きっとこれからもそれは変わらないのだろう。

村上さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲美美」
「私が働かせていただいた『珈琲美美』。現在、マスターの奥さんの充子さんが切り盛りされています。吉祥寺の『もか』から受け継いだ家具や調度品も雰囲気にとても合っていると思います」(村上さん)
【手音のコーヒーデータ】
●焙煎機/富士珈機 手廻し焙煎機(特注品)
●抽出/ネルドリップ
●焙煎度合い/中深煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム800円〜
取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)
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