コーヒーで旅する日本/関西編|世界を巡った2人の道が京都で一つに。「Sentido」が提案する産地と日常をつなぐコーヒー

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

直線を生かしたデザインながら、手塗りの壁や床木目の表情で柔らかな印象に


関西編の第32回は、京都市中京区の「Sentido(センティード)」。店主の垣江逸美さん、遵也さんの夫婦が切り盛りするカフェは、京都市街でいち早くスペシャルティコーヒー専門店としてオープン。中学時代からのコーヒー好きという逸美さんと、和食の料理人からバリスタに転身した遵也さん。共に海外での滞在経験を経てコーヒーの世界へ進み、数々の生産国を訪れた2人に共通する思いは、コーヒーの魅力を広め、生産者に貢献すること。開店から10年を経た昨年から自家焙煎をスタートし、ロースターとして心機一転。小さなカフェと産地をつなぐ、日々の何気ない一杯は、ますますファンを増やしている。

店主の垣江逸美さん、遵也さん夫妻


Profile|垣江逸美(かきえ・いつみ)
1985(昭和60)年、京都市生まれ。学生時代にコーヒーにまつわる社会的課題を知ったことで関心を深め、コーヒーマイスター資格取得などの勉強を重ね、ブラジルに1カ月間滞在し産地を訪問。大学卒業後、ワーキングホリデーでオーストラリア各地のカフェで1年半修業。帰国後は京都のカフェタイムでの勤務を経て、2012年に「Sentido」開店。2021年には焙煎所を新設し自家焙煎をスタート。

Profile|垣江遵也(かきえ・じゅんや)
1985(昭和60)年、大阪市生まれ。高校卒業後、和食の料理人を志し寿司店で修業、カナダの寿司レストランでの勤務も経験。海外のライフスタイルに共感し、オーストラリアのレストランでも勤務。帰国後にスターバックスで4年間勤めた後、京都のカフェタイムでバリスタとして活躍。結婚を経て、2016年から「Sentido」でバリスタを務め、2021年から焙煎も担当。

大きな転機となったオーストラリアの滞在経験

通りに面した壁は全面ガラス張りで、オープンな雰囲気に

京都のメインストリートの一つ、烏丸通から東へ入った小路。オフィスビルに挟まれた小さな店には、早朝の開店からお客が入れ代わり立ち代わり。店主の垣江逸美さん、遵也さん夫妻が立つオープンキッチンを中心に、交わされる挨拶や何気ない会話、思い思いに過ごす人の気配が醸し出す、親密な空気が心地よい。「うちは開店が早いので、“朝”のイメージが強いですね。おいしいコーヒーで1日をスタートしてもらいたいという思いもあって。実際、お客さんは朝に集中していて、今は減りましたが、国内外の観光客の方も多いですね」と逸美さん。モルタルで塗った床と壁に、無垢板の天井やカウンターを組み合わせた、一見クールな店構えながら、足を踏み入れると大らかな雰囲気は、どこか海外のカフェを思わせる。

コーヒー好きの両親の影響で、中学生にしてブラックコーヒーを飲み始め、高校生になると自家焙煎の店を巡るようになっていたという逸美さん。「中学時代、デパ地下でコーヒーのいい香りと種類の幅広さに魅了されて、豆を端から順番に買っていくのを楽しみにしていた。高校生で、誕生日のプレゼントにコーヒーミルを買ってもらうような子でした(笑)。その意味で、コーヒーとの付き合いは長いですね」と振り返る。

地元のコーヒー会社の焙煎担当と縁ができたことで、コーヒーに関するセミナーや資格試験などの情報を得た逸美さんは、コーヒーの歴史や生産流通の背景を学び始める。これが今に至る原点にある。「今まで、何気なく飲んでいたコーヒーの背後に、貧困や環境などの課題があるのを知ったことで、“自分も何かしないといけない”という義務感に駆られて。コーヒーにまつわる問題をどうにかしたい、と思ったことがきっかけで今があります」

店頭に並ぶ販売用の豆はすべて試飲が可能


学生時代は、コーヒーの産地への関心は高まり、初の海外渡航で地球の裏側のブラジルへ。「やっぱり“コーヒーと言えばブラジル!”と思って(笑)、初海外、初農園、想像と違ったおしゃれなカフェやビルが立ち並ぶ華やかなサンパウロの中心街、日系人社会の歴史、濃すぎる40日間でした。サンパウロ新聞社の援助を受けてブラジルで菊農家を経営する日系家族の元でホームステイをしながら過ごしたのですが、その生活の中で日本にはない労使・貧富の格差をはっきりと感じました」と振り返る。

ただ、それ以上に痛感したのは日本語しか話せなかった自らの語学力不足。そのため、大学卒業後はワーキングホリデーを利用してオーストラリアへ。現地のカフェに勤務しエスプレッソの抽出技術やコーヒー文化に触れながら英語を学んだ。「オーストラリアの人達にとってコーヒーは生活の一部。毎朝、こだわりをもってコーヒーを求めるお客さん達でカフェが賑わっていました。バリスタ同士の交流も活発で刺激的でした」

豆の種類は黒板にも表示。チャートで風味の特徴を分かりやすく伝える


片や遵也さんは、かつては和食の料理人を目指し、高校卒業後すぐに寿司屋で修業。後に先輩がカナダに出店した寿司レストランを手伝うために海外へ。「現地ではスターバックスが増え始めた頃で、立ち寄る機会も多かったですね」とはいうものの、当時の本業は板前。コーヒーとは無縁の場所にいた。帰国後、カナダと日本のライフスタイルにギャップを感じて一度、仕事を離れ、奇しくも逸美さんと同じオーストラリアへと渡る。

「自分の時間を大切にする海外の人たちの生活スタイルがいいなと感じて、メルボルンのレストランで働いていました。あえて日本人が少ない街を選んだだけでしたが、メルボルンは現地でも“コーヒーの街”と呼ばれるほどの場所。ここで初めて、カフェの仕事が楽しそうだと感じました」と遵也さん。帰国後は心機一転、スターバックスで働き、コーヒーや店舗運営、サー ビスについて経験を積んだ。

スペシャルティコーヒーを通して交わった2人の道

コーヒーの抽出を行うカウンターが店の中心に

世界的にもユニークなカフェカルチャーが根付いたオーストラリア。偶然にも、共にこの地を訪れていた。2人の進む道が交わったのは京都。日本のスペシャルティコーヒー専門店のパイオニアとして知られるカフェタイムがきっかけだった。オーストラリアから帰国した逸美さんは、自宅からも近かったカフェタイムでアルバイトを始める。オーナーの糸井さんとは、それまでにセミナーなどで会うことも多く、コーヒーに関する技術や知識もさることながら、産地の訪問や関係づくりにも熱心な彼女へ今も尊敬の念を抱いている。

さらに産地への関心は強くなり、コスタリカに渡り4カ月滞在。「産地の人を助けるために自分には何が出来るかが知りたい」と思っていた。コスタリカでは輸出会社での業務に携わったり、日本で知り合った政府機関の関係者と共に生産者との交流にも参加できた。「ここで自分がいかに無力か分かりました。『この日本人が客でないならあまり興味はない』と思う人もいて、生産者達が商売としてシビアに考えていることが分かりました。生活がかかってるのだから当たり前ですよね。今の自分には何もできないかも、と思いました。助けるなんていう考えが間違っていたと感じましたね」

ドリップコーヒーS(550円)。バナナブレッドは+350円でドリンクセットに。テイクアウトもOK


それでも、ここまで積んできた経験を役立てることはできるはず、という信念はあった。自分が見てきた良い生産者達は高品質コーヒーの生産には労働環境や自然環境への配慮が必要なことを知っているように感じた。「それなら、おいしいコーヒーを飲んでもらいスペシャルティコーヒーを楽しむ人を増やすことで産地を応援しようという方向に意識を向けました。当時、京都でスペシャルティコーヒーを飲める場所は、郊外が多くて街中にはなく、自分がその場を作ろうと考えたんです」

学生時代に端を発し、世界各地での体験を経て、積み重ねた逸美さんの思いを形にしたのが、2012年にオープンした「Sentido」。エスプレッソマシンを置いたカウンターを中心に、多彩なコーヒーと軽食を揃えるフランクな空間は、かつて身を置いたオーストラリアのカフェスタイルがベースにある。

一方の遵也さんは、スターバックスでの4年間を経て、さらにレベルの高い場所でコーヒーに携わりたいと考えていた時に、カフェタイムに出合った。ちょうど、逸美さんと入れ替わるようにしてカフェタイムに入った遵也さんは、バリスタとしてコーヒーの抽出、提供に携わり、コーヒー産地の訪問も経験。さらに毎年、ジャパン バリスタ チャンピオンシップの競技会に参加し、2014年大会では準決勝に進出するまでになる。この時、競技の練習のため場所を借りることになったのが、カフェタイムの先輩でもあった逸美さんがいる「Sentido」。これが縁で、世界各地を巡ってきた2人の道のりが、一つに合流した。

エスプレッソマシンは、逸美さんがパースのカフェでも使っていたシネッソ社製


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