コーヒーで旅する日本/関西編|コーヒーを通じて人が集まり、笑顔になれる場に。「サーカスコーヒー」が体現するサステナブルなコーヒーショップの形

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

元茶舗の趣を残す温かみある店内。背後の棚などもそのまま引き継いでいる


関西編の第27回は、京都市北区のビーンズショップ「サーカスコーヒー」。地元出身の店主・渡邉さんは、大学の水産学科から真珠養殖会社を経て、コーヒーの世界へ飛び込んだユニークな経験の持ち主。コーヒーの焙煎工場、ロースタリー・カフェで積んだ豊富な経験を土台に、豆の焙煎・販売のみならず、サステナブルなコーヒーの大切さを伝え、地域とのつながりを深める活動にも力を入れてきた。開店から10年余、コーヒーを通じて人が集まり笑顔になれる場を、と始めた店は、生産者とお客のみならず地元の人々をもつなぐ、サステナブルなサイクルを広げ、生活に潤いをもたらす場所であり続けている。

(右から)店主の渡邉良則さん、文さん夫妻と、スタッフの平井ももさん


Profile|渡邉良則(わたなべよしのり)
1974(昭和49)年、京都市生まれ。大学の水産学科を卒業後、真珠養殖会社に就職し、約2年の勤務期間にインドネシア・西ティモールに赴任。帰国後は食品会社に転職し、新設のコーヒー焙煎工場で研究開発・品質管理を担当。約5年にわたりコーヒーの製造業務のほぼすべてに携わった後、北摂を中心に複数店舗を持つロースタリー・カフェに転身し、店舗運営や新規開業なども経験。その間に、地元で古い町家の空き物件との出合いを機に独立を決め、2011年に「サーカスコーヒー」をオープン。

大きな回り道の先につかんだコーヒーとの縁

北山通と大宮通の交わる交差点に立つ店は、界隈のランドマーク的存在に

名刹・大徳寺や今宮神社にもほど近い、京都市北区・紫野エリア。この辺りまで来ると、繁華街のにぎわいからは離れて、どこかのどかさも感じられる。大きな交差点の角地にあって、風情ある町家にカラフルな暖簾が映える「サーカスコーヒー」の店構えは、界隈ではすっかりおなじみの存在だ。「難しいことを考えず、単純においしいと思える、ご近所さんに親しまれるコーヒーを、オープン当時から目指してきました」という店主の渡邉良則さん、文さん夫妻。築100年を超える建物の中には、色とりどりのグッズやオブジェがそこここに。店名の響きそのままの楽しげな店内に、お客が入れ替わり立ち代わり訪れる。

以前は茶舗として長年、親しまれたこの建物は、界隈で生まれ育った渡邉さんにとっても馴染みの深い場所。独立を考え始めた頃、帰省した折に偶然、空き家になったのを知ったことで、新たな縁が生まれた。「昔から近所にあった建物で、私は気にも止めてませんでしたが、妻が一目で気に入って。改めて見てみると、幼い頃に住んでいた町家の懐かしい雰囲気があり、お店をするにはいい場所かもしれないと感じたんです」と振り返る。勝手知ったる地元での運命的な出合いから始まった「サーカスコーヒー」は、まさにサーカスの演目さながら、目まぐるしいストーリーを経て今に至っている。

豆はブレンド5種、シングルオリジン約10種と幅広い品揃え


西陣織の帯屋の家に生まれた渡邉さんだが、生来の好奇心の強さもあって、「普通の進路では面白くない」と大学は農学部水産学科へ。さらに4年後の就職活動では、海外志向も加わって、「インドネシアで真珠を作る」という文句に心を掴まれ真珠養殖会社に入社。「真珠の核を入れる技術で世界を渡り歩きたい、実際に発展途上の国で住んでみたい、と思ってチャレンジした」という渡邉さん。1年の研修を経て、インドネシア・ティモール島に渡ったものの、政権崩壊や紛争の真っただ中。言葉も分からない激動の異国で、自らの想像と現実のギャップに打ちのめされ、あえなく2年で帰国の途に。得難い経験という意味では、これ以上ないインパクトを受けた社会人デビューだった。

先の当てもなく京都に戻ってからは、アルバイトをしたり、教職の単位を取ったり、しばらくは模索の日々が続いたが、やがて大きな転機が訪れる。「たまたま食品会社の営業の求人募集を紹介されたのですが、あまり関心がなく形だけ面接を受けてみたんです。すると、営業とは別に新設のコーヒー焙煎工場の募集があり、しかも“仕事でブラジルに行けるかもしれない”という魅惑にまたしても抗いきれず(笑)。縁と勢いと好奇心で、コーヒーの世界に飛び込みました」

ビギナーだからこそ虚心に積み重ねた焙煎工場での経験

焙煎量が増えたため3年前に、大型のプロバット焙煎機に入れ替え。70年もののビンテージ機は「豆の膨らみ方が違う。芯まで熱が入って味も強く出ますね」と渡邉さん

ここでコーヒーとの縁が生まれたものの、実はこの時まで、コーヒーのドリップはおろか、レギュラーコーヒー自体、ほとんど飲んだことがなかったという渡邉さん。面接の後に、関連書籍や器具一式をそろえ、京都市内の人気カフェや喫茶店を飲み歩き、「当時はエスプレッソを注文して、“めっちゃ少ないですけど、量は合ってますか?”なんてことを聞くレベルでした(笑)」と渡邉さん。それでも、いきなり新たな焙煎工場の研究開発・品質管理担当に抜擢されたのは、逆にコーヒービギナーゆえだった。

「焙煎工場に勤め始めて、いきなりコーヒーのレベルが飛躍しました。ドリップより先にカッピングを経験して、“味覚は経験と記憶”と先輩からよく言われて、とにかくカッピングを繰り返して感覚を磨きました。味覚にまったく自信はなかったですが、訓練すれば何とかなるものですね(笑)。今考えれば、入社前に変にコーヒーのことを知らなかったのが、逆によかったのかもしれません。何も知らないがゆえに、知識や技術を素直に吸収することができたと思います」。ある意味で、コーヒーに先入観なく、客観的に向き合えたことが、ここでは幸いした。

東ティーモール・ロビボ集落産の豆は、渡邉さんにとって思い入れ深い銘柄


焙煎工場の立ち上げ以降は、商品開発や品質管理のみならず、生豆の選定や焙煎、検査、工場で行われるコーヒー講座や取引先へのプレゼンの準備、他社の商品分析、新ブレンドの開発などなど…原料から製造・販売提案まで、ありとあらゆる業務に携わった。中でも、焙煎については、さまざまなアプローチを蓄積。原料の検査では、多種多様な豆をサンプルロースターを使って焙煎した。また、取引先に提案するための幅広い焙煎度の焼き分けやブレンドの製造も多岐に渡った。

「サンプルローストは一定の焙煎度で焼くだけの機械的な作業でしたが、それでも初心者にとっては貴重な経験でした。さらに、いろいろな焙煎のパターンにチャレンジすることができました。例えば、同じ豆で異なる焙煎度だったり、同じ焙煎度でも短時間で焼いた時と長時間焼いた時の違いだったり、膨大なパターンを試すのは個人店ではできないこと。いわば、コストや条件を考えずに焙煎の訓練をさせてもらったようなものですね」。当時は多忙を極めたが、この時の経験がコーヒー店主としての確固たる土台を作り上げた。

また、入社の決め手となったブラジル行きも叶い、生産国を初訪問。「現地の農園見学ツアーで、業界の社長らにほぼ素人の自分が交じって、勉強することが多かった。農園のカッピングコンテストにも参加して、スコアを付けて、ディスカッション、発表して盛り上がっているのを見て、産地の努力、競い合いの状況も垣間見えました」

入口の戸の上には、ブラジルを訪れた際の写真が並ぶ


焙煎工場に5年間務めた後、「よりお客さんに近いところでコーヒーの魅力を伝えたい」と、今度は関西圏、北摂を中心にカフェを展開するロースターへと転身。実はこの間に一度、全く違う仕事に就いたが、ほどなくコーヒーが天職であることに気付いたという。「離れてみて、何かが違うと感じた。自分にはコーヒーしかないんだなと再認識しました」と渡邉さん。加えて、「条件的には良い仕事でしたが、この頃は目に見えてしんどそうでした」とは文さんの弁。商品にストーリーがあって、自分の手で加工して届ける、コーヒーの魅力は、この頃にはもはや代えがたいものになっていた。

ただ、同じコーヒーを扱う仕事でも、焙煎工場と飲食店ではまったく異なる。店の運営や接客、サービスの仕事は、またゼロからのスタートになったが、多くの発見があった。「お客さんと直に接するカフェでの勤務は、多忙でしたが本当にやりがいがありました。その中で、コーヒー豆を買いに来る人の多さに驚きました。特売の日などは、ありえないくらいの行列ができて。豆の販売とカフェと、両方の現場を体感できたのも良かったですね」

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